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冒険者の万華鏡  作者: 佐々木尽左
第33章 森で出会った学者

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陰りのある王都(前)

 町全体に緊張感が漂っていたネモの町から東へ7日進んだ先にレニー市がある。チャレン王国の王都だ。恩恵の川の流域に属するこの都市は長らく西方辺境へ繋がる国家の中心として栄えてきた。しかし、西方辺境の領主との内戦でまさかの敗北を喫したことをきっかけにその繁栄が揺らぎ始めている。


 そんな都市にユウたちの荷馬車が所属する集団がたどり着こうとしていた。開拓者の街道を東進すると恩恵の川の手前で恩恵の街道と合流し、そのすぐ先に渡し場がある。そこで料金を支払って川を渡るとレニー市の郊外だ。


 川を渡った荷馬車は暗くなりつつある中をレニー市の西門に向かって進んでゆく。徐々に人通りが多くなる街道をとある交差点で北に曲がって貧民街へと入った。そこから北門を通過して反対側へと向かう。


 やがて荷馬車は冒険者ギルド城外支所の隣で停車した。ユウたち4人は自分の荷物を持って荷台から降りる。その場で背嚢(はいのう)を背負って具合を調整していると、そこへバーナビーが前から回ってきた。


 意識を背中から正面に向けたユウがバーナビーに声をかける。


「ありがとう。無事にレニー市にたどり着けたよ」


「こっちこそ、山賊を追い払ってくれてありがとな! いい旅だったよ」


「またどこかで会えると良いね。それじゃ」


 あっさりとした別れを告げるとユウはその場から歩き始めた。それに他の3人も続く。


 歓楽街に入ったユウたち4人は周囲を見た。トレジャーの町やネモの町よりもずっと広い。そして、同じように雑然としていた。町の外の特徴は中央の都市でも変わらない。


 とある酒場のひとつに4人は入る。盛況な店内にある空きテーブル席を見つけると4人はそこに座った。給仕女に料理と酒を注文すると話が始まる。


「はぁ、やっと着いたね」


「なかなか活気のある都市じゃないか! さすが中央の都市だけのことはあるってところだね!」


「ネモの町みたいには張り詰めた雰囲気はなさそうだな」


「広いと言うことは、それだけ調査範囲が広いということだ。調べるのが大変だぞ」


 ユウの言葉を皮切りに、コミニアヌス、トリスタン、アテリウスが次々に口を開いた。それぞれ最初に感想を漏らした。どこを見ているか良くわかる。


 給仕女によって料理と酒が運ばれてくると夕食が始まった。しばらく食事が中心となる。荷馬車の中で揺られ続けているだけでも腹は減るのだ。


 ある程度食べると食欲が満たされて誰もが落ち着く。すると今度は会話が多くなった。話はもっぱらこれからについてだ。


 まだ肉類を食べているユウが最初に発言する。


「ここが目的地の中で最も遠い都市で、色々と調査しないといけない。でも、戦争もどうやら近いから時間をかけてというわけにもいかないよね。そこで、調査は短期間で済ませて、早く西方辺境に帰る必要があると思うんだ」


「その意見に賛成だな。辺境の街道が戦争で使えなくなると、何ヵ月も大回りしないといけなくなる。それじゃせっかく詳しく調べても手遅れになる可能性があるからな」


「僕もそれで良いと思う。詳しく調べようと思ったらたぶんいくらでもできるけれど、際限がなくなると思うんだ。だから、いくらかでもさらっと調べて情報を持ち帰った方が喜んでもらえるはずだよ」


「コミニアヌスの言う通りだな。大体、戦争が始まったら大陸西部中央と西方辺境は往来ができなくなる。そんな状態で情報を持ち帰っても使い物にならないだろう」


 自分の方針をまずは披露したところ、トリスタン、コミニアヌス、アテリウスの3人に賛同してもらったことでユウは安心した。こうなると話がしやすくなる。


「今考えているのは、このレニー市で明日と明後日の2日間だけ現地調査して、その後すぐに引き返し、ネモの町で1日だけ調査して引き上げるというものなんだ」


「このレニー市の規模で2日というのは少なくないかい?」


「それはわかっているんだ。でも、アドヴェントの町からここに来るまでに1ヵ月くらいかかっているし、僕の計画を実行してすぐに引き返してもファーウェストの町まで戻るのに半月以上はかかるんだ。トレジャーの町やファーウェストの町で見聞きしたことを考えると、恐らく僕たちが思っている以上に戦争が始まるまでもうそんなにないと思う」


「うーん、そう言われると、まぁ、ねぇ」


「逆に2日間で得られそうなもので重要そうな情報を集めたら良いんじゃないかと思うんだけれど」


「そうなると、深掘りする系統の情報は時間がかかるから駄目だね。広く浅く情報を集めて分析することになるかなぁ」


 ユウの意見を受けてコミニアヌスが顎に手をやりながらやり方を選別していった。短期間となるとやり方は限られてくるのでなかなか難しい。


 そこへアテリウスが声を上げる。


「情報引き出す方法としては、金で買う方法もあるだろう。多めに支払えば、それだけ精度の高い情報を買えるはずだ」


「アテリウス、言っていることは間違いじゃないんだけれど、買った情報が正しいという裏取りは必要なんじゃないのか? 例え大金を支払った情報でも。そうなると、ある程度時間が必要になると思うが」


 今まで話を聞いていたトリスタンがアテリウスに疑問をぶつけた。大金を支払って偽の情報を掴まされるということもあるのだ。支払う金額の多さは情報の精度に比例するが、常に落とし穴は存在する。これを回避する方法か手段は必要だった。


 話を聞いていたユウが木製のジョッキを口から離すと自分の案を披露する。


「信頼できる人から情報を聞き出せれば良いんだよね。だったら、このレニー市にもフランシス商会があるはずだから、そこで尋ねてみようと思う。僕の持っている紹介状があれば話くらいは聞いてもらえるはず」


「商人から情報を聞き出すとなるとまとまったお金が必要になるよ。僕たちの聞きたい情報となると、たぶん最低でも金貨何十枚になるはず。冒険者ギルドからそういう経費はもらっていなかったはずだよね?」


「確かにもらっていないね。1日銀貨5枚の報酬はもらっているけれど経費込みだったし」


「だったらその範囲でやれっていうことだろうね。つまり、商人から情報を引き出さないといけない情報は求められていないということだと思うよ。足で稼いだ情報を求められているんじゃないかな」


「なるほど。ということは、商会を頼らず2日間自分たちで集めるしかないんだ」


 コミニアヌスの反論を聞いたユウは天井を見上げた。あのレセップが赤字になるような仕事は回してこないことを思い出す。きつい仕事は喜んで押し付けてくるが。


 徐々に食事から会話に軸を移しながらユウたちは明日から2日間の方針を詰めてゆく。それは結構な時間をかけながらも何とか最後までまとめることができた。




 翌朝、ユウは安宿で目覚めた。隣で眠っているトリスタンも続けて起きた。コミニアヌスとアテリウスはこの場にいない。


 既に肌寒い中、トリスタンと共に外へ出る準備を進める。それが終わると夜明け直後から現地調査のために動き始めた。


 1日目の朝はユウとトリスタン、コミニアヌスとアテリウスの2組に分かれて行動する。前者は町の外、後者は町の中だ。レニー市は広いので手分けしないと2日でとても終わらないからである。この半日でレニー市の大雑把な様子を掴むのだ。


 もちろん、2日でできることなど限られていることは知っている。それでもネモの町近辺で戦争が起きる前に西方辺境へと戻るためには短期間で調査を切り上げる必要があった。


 右も左もわからない都市で当たりを付けて調査するのは無理である。ユウとトリスタンはそう判断して最初から全体をくまなく見て回る方法を採った。調査範囲が広いので雰囲気を掴むくらいが精一杯だったが、危険な場所などは大体のところを理解する。


 四の刻になるとユウとトリスタンは町の中に入ってコミニアヌスとアテリウスの2人と合流した。酒場で昼食を食べながら手に入れた情報を持ち寄って共有する。


 昼からは組を変えた。今度は町の中をユウとアテリウス、町の外をトリスタンとコミニアヌスが調べて回る。朝の知見を踏まえてより情報を深掘りするためだ。


 このとき、ユウは町の中を調べる前に都市内にあるフランシス商会レニー支店を訪れた。そこで情報提供と西方辺境への荷馬車の護衛の斡旋を相談する。結果は成果なしだった。情報提供はコミニアヌスの言った通り高額の情報料が必要だと伝えられ、西方辺境に向かう荷馬車は現在出せない状態だと教えられる。


 荷馬車の件が本命だったユウは何の成果もなかったことに衝撃を受けた。肩を落とす結果だったのは残念な限りである。しかし、落ち込んでばかりもいられない。


 支店を出たユウはアテリウスと町の中の調査を始めた。

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