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冒険者の万華鏡  作者: 佐々木尽左
第33章 森で出会った学者

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緊迫感のある町

 ファーウェストの町を出発して6日後の夕方、ある荷馬車の集団が近山の川に差しかかろうとしていた。大陸西部中央では最も西側に流れる川で、諸都市の人々にとっては西方辺境との境界と認識されていることが多い。実際は更に西側にある山脈が正解なのだが、そのようなことを気にしているのは地元の住民くらいだ。


 その近山の川へと続いている辺境の街道はその先にあるネモの町で終わりである。渡し船で渡ってしまえばすぐそこにある町だ。いつもなら長い行列に並んで待っていればそのうち渡れるのだが、最近はそうもいかない。渡し場の手前に検問所が設けられたからである。理由はファーウェストの町と同じだ。


 西から山を越えてやって来た荷馬車はやって来た番兵たちに1台ずつ検査されている。山越えの前の検問所で物騒な代物は排除されているので怪しい物は出てこないはずだが、それでも番兵たちは律儀に検問していた。


 やがてユウの乗った荷馬車の番が回ってくる。番兵がやって来て荷台から降りるように命じられた。今回はコミニアヌスも起きていたので自分で降りる。


 バーナビーが通行許可証を見せながら番兵と話をしていた。冒険者ギルド所属の荷馬車なので通すよう主張していたが、番兵は荷物の点検だけは実施をする。


 荷物が多くないバーナビーの荷馬車は検査がすぐに終わった。通行許可証を提示したこともあり大した尋問もなく渡し場へと向かう。手前に検問所があるせいか、順番待ちの行列は短かったのですぐに舟に乗れた。


 日が暮れるまでもう間がない頃になってユウたち4人が乗る荷馬車はネモの町にたどり着いた。川を渡った後、狭い郊外を通り抜けて町の西門へと徐々に近づいていく。


 御者台で馬を操っているバーナビーは北回りで反対側へと向かった。そのときに貧民街を通り抜けたのだが、何となく騒然とした雰囲気をユウたち4人は感じる。やがて荷馬車は冒険者ギルド城外支所の隣で停車した。


 荷馬車が停まったことを知ったユウたち4人は自分の荷物を持って荷台から降りる。そこへバーナビーが前から回ってきた。


 背嚢(はいのう)を背負ったユウがバーナビーに声をかける。


「貧民街はなんだか落ち着きがなかったね」


「あの様子だと、この町が近いうちに戦火に曝されるって知ってるのかもしれないな」


「もし噂通りだとしたら、今度はこの町が攻められるだろうからね」


「そういうことだ。さて、それじゃ今日はここまでだ。明後日の朝には遅れずに来てくれ」


「うん。それじゃ、みんな酒場へ行こう」


 隣に立っているトリスタンと目を輝かせているコミニアヌスを押さえているアテリウスにユウは声をかけた。全員から同意を得ると4人で歩き始める。


 歓楽街に入ったユウたち4人は周囲を見た。トレジャーの町並に建物が多い。なかなか年季の入った建物もある。傷んでいると評価する者もいるかもしれない。


 そんな酒場のひとつに4人は入る。盛況な店内にある空きテーブル席を見つけると4人はそこに座った。給仕女に料理と酒を注文すると話が始まる。


「なんだか張り詰めた感じがするよね、この町」


「コミニアヌスも感じたんだ」


「さすがにここまであからさまだとね。調査するにしても緊張するなぁ」


「ちゃんと調べられるか不安になるな」


「人に尋ねるときに厄介なことになりそうかな。ちゃんと答えてくれないことが多くなると思う」


「今回は僕たちの方の調査が中心だから厄介だなぁ」


「打ち合わせ通り僕が中心にやるけれど、戦争直前の町の調査なんて初めてだなぁ」


 いささか悩ましげな表情を浮かべたコミニアヌスがユウに答えた。一部は調査できない場合もあるだろう。混乱は既に始まっているのだ。


 全員で難しい顔をしていると料理と酒が運ばれてくる。


 空腹なので4人全員がとりあえず食べることにした。




 翌朝、ユウは安宿で目覚めた。トリスタンは隣で眠っている。コミニアヌスとアテリウスはこの場にいない。冷気に曝されて体を震わせたユウは立ち上がって背伸びをした。


 既に肌寒い中、トリスタンと共に外へ出る準備を進める。それが終わると夜明け直前の薄暗い中を冒険者ギルド城外支所へと向かった。


 城外支所の建物に出入りする冒険者たちを尻目にトリスタンがユウへと話しかける。


「今度の調査は俺たちの方なんだが、初めての町だと勝手がわからないよな」


「特に緊迫した状態となると尚更ね」


「調査好きのコミニアヌスがいて良かったな。俺たちだけだと立ち往生したかもしれん」


「そうなんだよね」


 複雑な心境のユウは微妙な表情をした。過去にも調査と名の付くことをしたことはあるものの、本格的なものではない。そこで、来歴は不明ながら専門家らしいコミニアヌスに任せられるのだから本当に良かったと胸をなで下ろしている。ただ、そもそもコミニアヌスが大陸西部中央に行きたいと言わなければ引き受けていなかった仕事なので、感謝の念は大して湧かないが。


 2人が話をしているうちに周囲が明るくなった。日の出の時間を過ぎたのだ。それから少ししてコミニアヌスとアテリウスがやって来る。


「おはよう! 2人とも! 今日も張り切って調査をしよう!」


「今日は自分の調査ではないけれど、それでも張り切っているんだね」


「当然! 自分の能力を役立てられるんだから嬉しいに決まっているだろう!」


 予想以上に前向きな姿勢にユウは驚いた。どうも大陸西部中央を調べられたら何でも良いらしい。もちろん、今回調べたことは実地調査へも反映してもよいと伝えてある。これもやる気が出ている一因だろうと推測した。


 とにかく、やる気のあるコミニアヌスを中心に現地調査を始めることになった。朝の間は町の中を回ることになる。


 今回の調査は予備調査と呼べるものであった。何しろ初めて訪れた町なので右も左もわからないのだ。道しるべもなくさまようようなものである。そこで、町の内外を軽く見聞きして周り、ネモの町全体がどうなっているのかを知ることに注力した。


 このようにしてユウたち4人は現地調査を行った。相変わらずコミニアヌスは非常に楽しげで、寝不足の跡など今はまったく見えない。


 時には周囲の人々に話しかけることもあるのだが、初めての町ともなると相手のことを推測しにくかった。なので、ほぼ出たとこ勝負で聞き取りを行う。危なくなればユウ、トリスタン、アテリウスの3人が前に出るが、立場上それは避けたかった。


 町全体が緊迫していることもあって口が固い人が多い印象だが、中には誰かに話をしたいという人もいる。そう言う人は貴重なので知っていることを引き出そうと数多く話しかけた。すると、小声で要不要関係なくたくさんのことを話してくれる。これにはユウも大喜びだ。


 その中の話題のひとつにユウとトリスタンが気になる話があった。トレジャー辺境伯に保護されているネモの町の領主の次男ヴィヴィアンが近く攻めてくるのではという噂を耳にしたのだ。やはり誰もが気になるらしい。大っぴらには話さないところを見ると官憲に睨まれるのだろう。現領主からしたら追放した相手が自分の座を奪い返しにやってくるのだ。神経質になるのも無理はない。


 四の刻の鐘が鳴ると調査は一旦中断し、昼食を取る。このとき、コミニアヌスは手早く食べると早々に目を閉じた。仮眠を取って睡眠不足を解消するのだ。今回は自分たちの仕事をやってもらっていることもあり、ユウとトリスタンはそのまま寝かせておいた。


 昼からは町の外を対象に実地調査を始める。ネモの町の周辺にも貧民街が広がっているが、町の中同様にユウもトリスタンも何も知らない。住民である貧民たちの態度もどこか落ち着きがないので2人とも護衛に近い役割となる。


 町の外では、歓楽街、宿屋街、貧民の市場と住宅街、船着き場、倉庫街などを回る。この辺りは他の町と変わらない。今回はざっと調べて回る。


 そうしてあちこち回っているうちに町の緊張の象徴とも言うべきものを4人は見つけた。ネモの町の東側に広がる郊外の一角に多数の天幕が密集しているのを見つけたのだ。その周辺にはガラの悪い傭兵たちが往来していた。何か確証を得ているのか、戦争の準備をしているようである。


 こうして夕方になると現地調査は一旦終了となる。次回は帰路で立ち寄ったときに本格的な調査することになっていた。


 現地調査が一段落すると4人は酒場へと向かう。今回は全員が疲れ気味だ。コミニアヌスも少々勝手が違ったらしく顔に疲労を滲ませている。


 それでもとりあえず目的のための地ならしは終わった。今は温かい料理と酒でその疲れを癒やすだけだ。明日からまた荷馬車に揺られるので荷台で揺られて眠ろうと誰もが誓う。


 頭を切り替えた4人は食べられるだけ食べた。

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