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冒険者の万華鏡  作者: 佐々木尽左
第33章 森で出会った学者

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玄関口の狭間

 町の中から二の刻の鐘の音が鳴った。安宿の大部屋で目覚めたユウとトリスタンは蝋燭(ろうそく)の明かりを頼りに薄暗い中で出発の準備を整える。いよいよ晩秋になろうかという最近の朝方は肌寒い。周囲にはくしゃみをする者もいる。


 用意ができると背嚢(はいのう)を背負った2人は安宿を出た。向かう先は冒険者ギルド城外支所だ。夜明けと共に出発する予定なので早めに向かう。


 ほとんど真っ暗な中を他人の掲げる松明(たいまつ)の明かりを頼りに2人は歩いた。宿屋街から城外支所まで続く緩やかな人の流れに沿う。


「次はやっと中央かぁ。まだ目的地にすら着いていないんだよなぁ」


「トリスタン、気が重くなるからそういうことは言わないで」


「すまん。昨日まったく休めなかった愚痴だと思ってくれ」


「でも、次のネモの町からは僕たちが主体になって調査をしないといけないんだよね」


「コミニアヌスを中心に据えたらいいだろう。あいつ、そういうの得意なんだし」


「自分の調査の延長線上でやってもらえれば良いのかな。どうせ調べたことは自分の方でも記録するだろうし」


「そっちの方が絶対楽だし確実だぞ」


「つまり、今までと同じことを次からはコミニアヌスの報酬なしでやるわけだね」


「その言い方はやめろ。ものすごく損をした気分になるじゃないか」


 路地を歩きながらしゃべっていたトリスタンが嫌そうな顔をした。自分で話しておきながらユウもやる気のなくなる事実だと気付いて肩を落とす。


 城外支所の建物の近くまでやって来た。この辺りになると周囲の多くが冒険者だ。その大半が建物の中に入っていくが、ユウとトリスタンは建物の脇へと回り込む。


 停車場となっている広場には何台かの荷馬車が停まっていた。そのうちの1台に2人は近づく。バーナビーが馬の世話をしているのが目に入った。


 まだ気付いていないバーナビーに対してトリスタンが声をかける。


「よう、バーナビー。荷物はもう積み込んであるんだよな?」


「ユウとトリスタンか。おはよう! もちろんだとも。いつでも乗れるぞ」


「荷物を先に置いてくるぞ」


 荷台の状態を知ったトリスタンと共にユウは荷馬車の後方へと回った。背負っていた背嚢(はいのう)を降ろすと荷台へと載せる。そのときに荷台の様子を目にしたが、前回よりも荷物は減っていた。


 再び御者台のある前方へと戻った2人は馬の世話を続けるバーナビーの元に寄る。馬は飼い葉をよく食べていた。


 再びトリスタンがバーナビーに話しかける。


「予定通り出発するんだよな」


「そのつもりだ。明るくなったら呼びかけるからな。それまでは好きにしていてくれ」


「わかった。昨日町の中で戦争が起きそうな噂を聞いたんだが、そっちは何か耳にしているか? 町の外でも傭兵が集められているのを見たが」


「トレジャーの町と似たような話なら冒険者ギルドでも聞いたよ。とりあえず、オレたちがネモの町に行く分には間に合ったが、ありゃそう遠くない日におっぱじめそうだな」


「はぁ、俺たちが帰るときまでじっとしていてくれたら嬉しいんだけれどな」


「みんなそう思っているだろうさ」


 世間話といった様子でトリスタンとバーナビーは雑談を交わした。雰囲気が重くなる。


 そんな2人が会話をしていると、荷馬車に近づいて来る2人組の男をユウが見つけた。コミニアヌスの方が手を上げて声をかけてくる。


「ユウ、おはよう! 昨日はよく寝たかな?」


「徹夜明けの人が言うことじゃないでしょ」


「そんなことないよ! 僕が寝ている間はしっかり守ってもらわないといけないからね!」


「アテリウス」


「今すぐ荷台に放り込んで眠らせるから無視してくれ。ほらこっちだ、コミニアヌス」


「おやすみ、ユウ!」


 そのまま自分たちを素通りしていく2人組を目で追ったユウはトリスタンとバーナビーに視線を戻した。どちらも呆れてあの2人を見ている。


 やがて出発の頃合いとなったので全員が荷馬車に乗り込んだ。バーナビーが御者台に座り、ユウ、トリスタン、アテリウスが荷台に乗り込む。コミニアヌスはこの肌寒い中、気持ち良さそうに眠っていた。


 バーナビーの操る荷馬車が動き出した。一路東へと目指して辺境の街道へと移る。町の郊外まで進むと周辺の原っぱに商売人たちの荷馬車があちこちに点在していた。それらはよく見ると小さな集団を作ろうと動いている。原っぱに荷馬車を移したバーナビーはその中の集団のひとつに近づいた。


 集団の近くで荷馬車を停めたバーナビーが御者台から降りると集まっている商売人たちに話しかける。しばらく話をするとその場にいた商売人たちの顔に笑みが浮かんだ。


 その様子を見ていたトリスタンがユウに話しかける。


「交渉はうまくいったようだな」


「そうだね。これで一安心かな」


 これから危険地帯を通るだけに集団で行動できるというのは大きな強みだ。少なくとも、夜の見張り番で楽ができるのは確実である。それだけでも違った。


 周囲が急速に明るくなる中、商売人たちは自分の荷馬車へと戻っていく。そして、1台ずつ東を目指して動き始めた。ユウたちが乗る荷馬車もその中に混じる。


 何事もなければ今までと同じ旅になるはずだったが、街道を東に進んでいくらかも行かないうちに再び停まった。


 何事かと思ったユウは御者台のそばまでやって来て前を見る。街道上に荷馬車が何台も停まっているのが目に入った。


 御者台に座っているバーナビーにユウが問いかける。


「どうしてここで停まっているの?」


「検問だよ。中央におかしな物を運ぼうとしていないか検めているんだ」


「ということは、先に進めない可能性もある?」


「オレたちはない。通行許可証があるし、積んでる荷もおかしなものはないからな」


 説明を聞いたユウの反応は微妙だった。検問で引っかかって行けなくなっても良いかなと思っていたからである。しかし、この様子ではそのようなことにはならなさそうだった。


 元の場所に戻ったユウがのんびりと待っていると、ユウたちが参加している集団の番になった。番兵がやって来ると荷台から降りるように命じられたので指示に従う。アテリウスはコミニアヌスを叩き起こしてから最後に降りた。


 バーナビーが通行許可証を見せながら番兵と話をしている。冒険者ギルド所属の荷馬車なので通すよう主張していた。番兵はそれには応じたが、荷物の点検だけは実施をする。話によると武器類の運搬に神経を尖らせているらしい。


 やがて検問が終わった。ユウたちが参加している集団からは1台の荷馬車が離れてゆく。中古の武器を大陸西部中央に運ぼうとしていたらしい。密輸というわけではなく、商機を狙ってということらしかった。


 1台抜けた荷馬車の集団だったが、それ以外は何事もなく検問所を通り抜ける。反対側ではファーウェストの町へと向かう荷馬車が検められていた。こちらも1台ずつ確認しているようである。


「本気で検問をやっているね」


「そうだな。お、あの商売人、もしかして袖の下を渡そうとしたのか」


「でも拒否されたみたいだね。あーあ、連行されちゃった」


「やっぱり戦争前は厳しいな」


 丘の斜面を登ってく直前に見た風景を見ていたユウとトリスタンは本気の検問を見て何とも言えない顔をした。


 検問所を通り過ぎた後は2日半ほど丘の上を通ることになる。辺境の街道で最も険しい道だ。南北を走る山脈の切れ目であり、山賊がよく出没する場所でもある。


 ネモの町もファーウェストの町もチャレン王国であるので本来ならばそこまで治安は悪くなかった。しかし、先の内戦以降は半ば国境の様な場所になったので山賊が急に増えてきたのである。


 街道の脇にはたまに破壊された荷馬車の残骸がその姿を曝していた。それがこの辺りの状況を端的に表している。


 何とも不安になるばかりの風景だが、実際にその通りとなった。ファーウェストの町を出発して2日後、ユウたちが参加している荷馬車の集団は山賊に襲われた。


 襲ってきた山賊は数十名、しかも朝方、荷馬車の集団が出発する直前だ。これは後に生け捕りにした山賊から聞き取った話だが、戦争が近いので傭兵主体の山賊はトレジャー辺境伯かネモの町の貴族に雇われて今は農民主体の山賊しかいない。そのため、夜襲ができなかったそうだ。


 そんな山賊が少数とはいえ戦いを生業にしている傭兵に勝てるわけがなかった。派手に叩きのめされて散り散りに逃げてゆく。


 ユウたちも迎え撃ったので何人かの盗賊を討ち取った。それは結構なことだったが、戦利品を手に入れてもユウはあまり喜べないことに驚く。戦利品の換金額を見ても安く思えてしまうのだ。駆け出しの頃は大金だと喜んでいただけに隔世の感があった。


 その後、ユウたちは後片付けをして荷馬車に乗り込む。この後はいつも通りに旅を続けることができた。

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― 新着の感想 ―
>あーあ、連行されちゃった のんきに言ってるけど、戦争が起きる可能性が高い地域で調査といいながらうろうろしてたら自分らもスパイ疑いで取っ捕まる可能性があると思うんだけど…
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