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冒険者の万華鏡  作者: 佐々木尽左
第33章 森で出会った学者

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辺境伯領の最前線

 11月の末日、そろそろ暗くなるという頃にユウたち4人が乗る荷馬車はファーウェストの町にたどり着いた。直前にあった西境の川を渡し船で渡り、狭い郊外を通り抜けて町の西門へと徐々に近づいていく。倉庫街を抜けると西門の正面に到着した。


 御者台で馬を操っているバーナビーは北回りで反対側へと向かい、やがて冒険者ギルド城外支所の隣で停車する。そうして自分は御者台から降りた。


 荷馬車が停まったことを知ったユウたち4人は自分の荷物を持って荷台から降りる。そこへバーナビーが前から回ってきた。


 背嚢(はいのう)を背負ったユウがバーナビーに声をかける。


「貧民街はちょっと緊張感があったね」


「ファーウェストの町は内戦のときに何度も戦火に曝されたからな。敏感にもなるさ」


「今回は攻められるわけじゃないけれど、嫌なものは嫌だもんね」


「そういうことだ。さて、それじゃ今日はここまでだ。明後日の朝には遅れずに来てくれよ。ここから先はお前らが必要になるからな」


「うん。それじゃ、みんな酒場へ行こうか」


 隣に立っているトリスタンと目を輝かせているコミニアヌスを押さえているアテリウスにユウは声をかけた。全員から同意を得ると4人で歩き始める。


 歓楽街に入ったユウたち4人は周囲を見た。トレジャーの町よりも建物が新しい。再建されたことが良くわかる風景だ。


 そんな酒場のひとつに4人は入る。盛況な店内にある空きテーブル席を見つけると4人はそこに座った。給仕女に料理と酒を注文すると話が始まる。


「活気がある町だね! トレジャーの町とそう変わらないんじゃないかな?」


「トレジャー辺境伯領の町でも一番最初にできた町らしいよ」


「ほほう、それだけ歴史があるということか。それは調査のし甲斐があるねぇ」


「やるのは良いけれど、2人だけでしてくれると嬉しいな」


「そうはいかないよ。ユウとトリスタンはこの町に来たことがあるんだったよね?」


「確かにあるよ」


「だったら、この町を案内できるよね?」


「実を言うとそんなに詳しくはないよ。本当にほとんど来たっていうだけだし」


「それでも初めて来る僕たちよりも知っているということじゃないか。だから明日は丸1日お願いするよ!」


 明日は休みたかったユウは笑顔で迫ってくるコミニアヌスの要求に応じた。確かに初めて来た者よりも知っていることは違いない。トリスタン共々肩を落としていると料理と酒が運ばれてくる。


 小さくため息をついたユウは目の前の料理に手を出した。




 翌朝、ユウは安宿で目覚めた。トリスタンは隣で眠っている。コミニアヌスとアテリウスの2人はこの場にいない。あくびをしたユウは立ち上がって背伸びをした。


 あの2人が同じ安宿にいないのはトレジャーの町のときと同じ理由だ。安宿を嫌ったのとコミニアヌスが徹夜で街道のことをまとめるためである。周囲は止めたがったが当人がやりたがっているので好きにさせていた。


 既に肌寒い中、トリスタンと共に外へ出る準備を進める。それが終わると夜明け直前の薄暗い中を冒険者ギルド城外支所へと向かった。ここでコミニアヌスとアテリウスの2人と合流するのだ。


 城外支所の建物に出入りする冒険者たちを尻目にトリスタンがユウへと話しかける。


「金貨1枚の仕事でなかったら断っていたところだな」


「そうだね。でも、よく考えてみると、冒険者ギルドの依頼で毎日報酬が発生しているんだから、実はそんなに悪くない実入りなんじゃないかな?」


「あーそっちのことはすっかり忘れていたな。ネモの町とレニー市だったか。まだ目的地に着いてもいないのに報酬をもらえているわけだ。そう考えると我慢できそうだな」


「そうだね。いざとなったら荷馬車に揺られながら寝たら良いんだし」


「でも、次の山越えは山賊が出るんだろう? 備えておく必要はあるんじゃないのか?」


「そうだったね」


 次の街道は本当の危険地帯であることを指摘されたユウは肩を落とした。そろそろのんびりできなくなってきたことを思い知る。


 2人が話をしているうちに周囲が明るくなった。日の出の時間を過ぎたのだ。それから少ししてコミニアヌスとアテリウスがやって来る。


「おはよう! 2人とも! 今日も張り切って調査をしよう!」


「昨日も徹夜でまとめを書いていたんでしょ? よくそんなに元気だね」


「こうでもしないと本当に寝かねないからね! でも、仕事中に寝るわけにはいかないし」


「ああ、実は空元気みたいなものだったんだ。納得したよ」


 実は頑張って起きようとしているということを知ってユウはなぜだか安心した。それなら眠れば良いのにと思うが、当人はそう思わないからこそ無理にでも起きているのだろうと考え直す。休暇が2日ほどあれば休めるのではと一瞬思ったが、そうなると調査期間が倍になるだけのような気がしたので考えるのを止めた。


 ともかく、この日も当人の強い希望で実地調査を予定通り始めることになった。朝の間は町の中を回ることになる。


 かつての記憶を思い起こしながらユウとトリスタンはファーウェストの町の中を案内した。最後に出入りしてまだそれほど間が空いていないので細部に至るまでほぼ変わりがない。ただ、自分たちの記憶の方が曖昧なので説明するときに自信が持てないでいる。


 そんな2人の案内に導かれてコミニアヌスは実地調査を続けた。非常に楽しげで、先程にじみ出ていた寝不足の跡など今はまったく見えない。


 時には周囲の人々に話しかけることもあるのだが、相手に問題がないかどうかユウとトリスタンが判断してからコミニアヌスに声をかけてもらっていた。今のところ思うような危険人物は見かけない。


 トレジャーの町のときと同じようにファーウェストの町でもおしゃべりな人に出くわすことがある。こういうときは好都合なので知っていることを引き出そうと数多く話しかけた。すると、要不要関係なくたくさんのことを話してくれる。これにはコミニアヌスも大喜びだ。


 その中の話題のひとつにユウとトリスタンが気になる話があった。トレジャー辺境伯に保護されているネモの町の領主の次男ヴィヴィアンが近く挙兵する噂を耳にしたのだ。この町でもかと2人は思う。聞いた人々があまり隠そうとしていないところを見ると、噂は思った以上に広がっているように感じられた。


 四の刻の鐘が鳴ると調査は一旦中断し、昼食を取った。このとき、コミニアヌスは手早く食べると早々に目を閉じた。仮眠を取って睡眠不足を解消するということらしい。アテリウスの説明を聞いたユウとトリスタンは納得した。全員の食事が終わるまでそっとしておく。


 昼からは町の外を対象に実地調査を始める。ファーウェストの町の周辺にも貧民街が広がっているが、その辺りは実のところユウもほとんど知らない。この町に限って言えば町の中の方が詳しいくらいだ。そのため、ユウとトリスタンも護衛に近い役割となる。


 町の外では、歓楽街、宿屋街、貧民の市場と住宅街、船着き場、倉庫街などを回る。途中、臭いのきつさにコミニアヌスが再び怯むこともあったが、それでも実地調査は続けられた。


 そうしてあちこち回っているうちに町の中の噂を裏付ける事実を見つける。ファーウェストの町の東側に広がる郊外の一角に多数の天幕が密集しているのを見つけたのだ。その周辺にはガラの悪い傭兵たちが往来している。道中でこの町からやって来た商売人が言っていたことは本当だったのだ。


 こうして夕方になるとコミニアヌスの実地調査は一旦終了となる。一旦と付くのは帰路で立ち寄ったときにも調査するからだ。このときもユウとトリスタンは協力することになっている。できれば拒否したいと思っているが、それが叶わないことも理解していた。


 実地調査が一段落すると4人は酒場へと向かう。やりたいことができたコミニアヌスは元気だが、他の3人は疲れ気味だ。コミニアヌスが先導するようにして歓楽街に踏み込むと、あまり考えない様子で1軒の酒場を選んで入る。


 空いているテーブル席に座った4人は給仕女を呼んで料理と酒を注文した。それから3人がぐったりとする。


「今日も良い感じで調査ができたよ! ありがとう、みんな!」


「それは良かったな。後は宿で寝てくれたら完璧なんだが」


「そういうわけにはいかないよ! 大切な作業だからね! それに、また出発したら荷台で寝たら良いじゃないか!」


「お前が寝ている間のことを根掘り葉掘りしゃべらされるこっちの身にもなってみろ」


「でも、それも仕事のひとつじゃないか」


「俺の仕事は護衛だ。調査員じゃない」


 座った途端にコミニアヌスとアテリウスの2人が言い合いを始めた。いつものことなのでユウとトリスタンは何も言わない。ただ、仲が良いなと思った。

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