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冒険者の万華鏡  作者: 佐々木尽左
第33章 森で出会った学者

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辺境伯領の領都

 アドヴェントの町を出発して11日目の夕方、ユウたち4人が乗る荷馬車はトレジャーの町にたどり着いた。郊外から町の北門へと徐々に近づいていく。途中で北へと延びる森の街道と合流した。


 御者台で馬を操っているバーナビーは人の波を切り裂くように進み、やがて冒険者ギルド城外支所の隣で停車する。そうして自分は御者台から降りた。


 荷馬車が停まったことを知ったユウたち4人は自分の荷物を持って荷台から降りる。そこへバーナビーが前から回ってきた。


 ユウは背中の背嚢(はいのう)の背負い心地を確認してからバーナビーに声をかける。


「バーナビー、それじゃここで一旦お別れだね」


「そうだな。出発は明後日の朝だ。来なかったら置いていくから寝坊するなよ」


「僕たちが誰も来なくても行くの? 襲われたら1人で戦うことになるけれど」


「そんときゃファーウェストの町で新しい冒険者を乗せるさ」


 笑いながら返事をしたバーナビーにユウはくすりと笑った。


 そんなユウに対してトリスタンが横から肩を叩いてくる。


「ユウ、行こうぜ。コミニアヌスがもう待ちきれないみたいなんだ」


「まだ実地調査前なのに、どうしてそんなに興奮しているの?」


「あいつ、あんまりこらえ性がないな。アテリウスがいないとどこに行くかわからんぞ」


 呆れつつもユウがコミニアヌスへと目を向けると、アテリウスに肩を掴まれている当人の姿が見えた。どうやら本当に我慢しきれないようだ。出会った当初もあんな感じだったかなと思い返す。


 じっとしているとコミニアヌスが本当にどこか行きかねないので、ユウはとりあえず酒場に向かうことにした。歓楽街にある酒場のひとつに入る。


 盛況な店内に空きテーブル席があるのを見つけると4人はそこに座った。給仕女に料理と酒を注文すると話が始まる。


「いやぁ、活気がある町だね! アドヴェントの町より大きそうじゃないか」


「トレジャー辺境伯領の領都だからね。この辺りだと一番大きいよ」


「それは大したものじゃないか。調査のし甲斐があるねぇ」


「やっぱりするんだね」


「新しい町に来たんだから当然でしょ。やらない手はないよ」


「それじゃ、明日はアテリウスと2人で実地調査をするつもりかな」


「ユウとトリスタンはこのトレジャーの町に来たことがあるんだったよね?」


「何度かはあるよ」


「だったら、この町を案内できるよね?」


「そうか。うん、ある程度ならできるよ」


「だったらお願いするよ。明日丸1日、町の中と外をね!」


 明日は休むつもりでいたユウは笑顔で迫ってくるコミニアヌスの要求に応じた。確かに案内できるくらいには知っているので断りにくい。トリスタン共々肩を落としていると料理と酒が運ばれてくる。


 小さくため息をついたユウは目の前の料理に手を出した。




 翌朝、ユウは安宿で目覚めた。トリスタンは隣で眠っている。コミニアヌスとアテリウスの2人はこの場にいない。寝ぼけ眼をこすったユウは立ち上がって背伸びをした。


 あの2人が同じ安宿にいないのには理由がある。昨晩、食事を終えた4人は寝るべく宿へと向かったが、ユウとトリスタンはいつも通り安宿へと入った。大陸一周をしていたときからの習い性である。旅の途中は旅費を節約するためだ。


 ところが、コミニアヌスとアテリウスの2人には安宿は耐えられないものだったらしい。宿駅で同じ構造の大部屋で眠れたのだから大丈夫だろうとユウなどは思ったのだが、アテリウスによると町で泊まるのだから真っ当な場所で眠りたいとのことだった。そのため、あの2人は2人部屋のある宿に移ることになったのだ。


 どんな理由でどこに泊まるかは個人の自由なのでユウもとやかく言うつもりはない。ただ、やはり人にはそれぞれ考え方があるのだなと思った。


 こうした理由でユウはトリスタンと共に外へ出る準備を進める。それが終わると夜明け直前の薄暗い中を冒険者ギルド城外支所へと向かった。ここでコミニアヌスとアテリウスの2人と合流するのだ。


 城外支所の建物に出入りする冒険者たちを尻目にトリスタンがユウへと話しかける。


「これはもしかして、荷馬車の荷台で寝ているのが一番休めそうな感じがするな」


「実地調査の手伝いをすると休みが休みじゃなくなるからね」


「こうなると、どの町に行ってもこんな感じかぁ」


「ネモの町からは冒険者ギルドで引き受けた依頼もあるからね」


「地味に大変そうだな、今回の仕事」


 2人が話をしているうちに周囲が明るくなった。日の出の時間を過ぎたのだ。それから少ししてコミニアヌスとアテリウスがやって来る。


「おはよう! 2人とも! 今日は素晴らしい調査日よりだね!」


「空は一面雲色だけれどね。それより、コミニアヌス、なんだか疲れていない?」


「このバカ、昨日ほとんど寝ていないんだ。ここに来るまでの街道についてのまとめを書いていたせいでな」


「ええ!? 大丈夫なの?」


「大丈夫だよ! いつものことだから! 逆に書かない方が落ち着かなくてね、それでつい書いちゃうんだよ!」


 仕事の性質上、寝不足になることはユウとトリスタンにもよくあった。しかし、それはやむにやまれずという理由ばかりだ。進んで寝不足になるようなことはしない。生死にかかわるからだ。


 町の実地調査で死ぬような危険は普通あまりないので大丈夫だと言えば確かに大丈夫だろう。隣にはアテリウスもいるのだからそう大事になることはないはずだ。しかし、わざわざ倒れる原因を自ら作るというのは感心できない。今回の旅で記録をまとめる時間がないという点は同情できるが。


 結局、当人の強い希望で実地調査は予定通り始めることになった。朝の間は町の中を回ることになる。


 かつての記憶を思い起こしながらユウとトリスタンはトレジャーの町の中を案内した。最後に出入りしてまだそれほど間が空いていないので細部に至るまでほぼ変わりがない。


 そんな2人の案内に導かれてコミニアヌスは実地調査を続けた。非常に楽しげで、先程にじみ出ていた疲労の跡など今はまったく見えない。


 時には周囲の人々に話しかけることもあるのだが、相手に問題があるかどうかユウとトリスタンが判断してからコミニアヌスに声をかけてもらっていた。滅多にあることではないが、危険な人物との接触を避けるためだ。


 何人もの人物と接触していると、中にはおしゃべりな人に出くわすことがある。こういうときは好機だ。知っていることを引き出そうと数多く話しかける。そうして、要不要関係なくたくさんのことを話してくれた。これにはコミニアヌスも大喜びだ。


 その中の話題のひとつにユウとトリスタンが気になる話があった。トレジャー辺境伯に保護されているネモの町の領主の次男ヴィヴィアンが近く挙兵する噂を耳にしたのだ。軍隊の動向は4人の今後の動向にも直接関わることなので無視できない話である。ただ、2人が気になった点はもうひとつあった。しかし、今は関係がないのであえて無視する。


 四の刻の鐘が鳴ると調査は一旦中断し、昼食を取った。そして、昼からは町の外を対象に実地調査を始める。


 トレジャーの町の周辺にも貧民街が広がっているが、その辺りはかつてユウも歩き回ったことがあった。そのため、こちらは町の中よりも詳しく案内する。一方、トリスタンはあまり知らないので町の中よりも言葉は少なかった。


 町の外では、歓楽街、宿屋街、貧民の市場と住宅街、船着き場、倉庫街などを回る。途中、臭いのきつさにコミニアヌスが怯んだり、かつて砂糖菓子を与えた子供にユウが見つかったりといくつか問題があった。しかし、それでも実地調査は続けられた。


 そうしてあちこち回っているうちに町の中の噂を裏付ける事実を見つける。トレジャーの町の東側に広がる郊外の一角に多数の天幕が密集しているのを見つけたのだ。その周辺には騎士や兵士、それに傭兵などの雑多な者たちが往来している。これを見ると、誰もが戦争は近いのだろうと思えた。


 こうして夕方になるとコミニアヌスの実地調査は一旦終了となる。一旦と付くのは帰路で立ち寄ったときにも調査するからだ。このときもユウとトリスタンは協力することになっている。


 最後まで調査漬けという事実に改めてげんなりとしたユウとトリスタンだったが、それでも必要な準備は怠らない。酒場で夕食を取りつつも明日からの旅のために食料と水を買い込む。そして、この日の食事は経費扱いでコミニアヌス持ちであることから、ここぞとばかりに2人は食べた。


 計画を練り終わった段階で余裕がない旅程だなと思っていたユウだったが、実際に実行してみてそのことを改めて実感した。これは荷馬車の荷台で寝る行為も重要になってくる。


 今回は意外に無駄にできる行為がないと知ったユウだった。

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― 新着の感想 ―
変な経験もどんどん積んでいきますね! 優秀!
ヴィアン、わりとそのままの名前だった!? いつも更新ありがとうございます。
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