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冒険者の万華鏡  作者: 佐々木尽左
第33章 森で出会った学者

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のんびりとした旅

 冒険者ギルドで依頼を引き受けたユウたち4人は境界の街道を東へと進んだ。並走する境界の川に延々と沿いながらトレジャーの町を目指す。南に広がる獣の森が迫り出してくるようで圧迫感があった。


 今回は普段とは違い、冒険者ギルド所属の荷馬車に4人は乗っている。御者台のバーナビーも合わせると5人になるが、戦闘以外の作業は全員ができるのでとても楽だ。移動中の御者の仕事、夕食の調理、夜の見張り番などを順番にこなしていくのである。


 例えば、御者の仕事は朝と昼の2回に分けて2人が担当し、夕食の調理は残る3人でやるわけだ。夜の見張り番は5人全員で順番に回していくので不公平感は少ない。


 ただ、こうすると当番の巡り合わせによっては疲れが翌日にまで残ることがある。そこで、昼間の移動中は御者以外に1人を残して眠った。荷台の振動がひどくなければ悪くない寝心地だ。


 そのため、意外と暇を潰すのが難しい。起きている者は大抵1人なので会話で暇を潰すことがほとんどできないからだ。これといった玩具もないので、起きている者はひたすらゆっくりと動く景色を眺めるしかない。だた、その景色もほぼ変化はなかった。


 こんな状態なので、夕食時など他人と話ができる時間は貴重だ。みんな自分の知っていることを語り合う。この中でも圧倒的に人気があったのがユウとトリスタンの大陸一周の話だ。コミニアヌスとバーナビーの食いつきが特に良い。コミニアヌスなどは話を聞くのが2回目のものもあったのに初めて聞いたかのように食い付いてきた。これにはユウとトリスタンも驚く。本人曰く、何回聞いても面白いらしい。


 次にバーナビーの話も人気があった。大陸西部中央にも行ったことがあるというその話はコミニアヌスの興味を引く。


「オレも若い頃は中央をいくらかぐるっと巡ったことがあったんだ。その経験を買われて今こうしていろんな町を巡回してるわけだけどな」


「ほうほう、例えば、どんな町に行ったんだい?」


「そうだなぁ。このチャレン王国の隣国の王都、マルコット市に行ったことがある。あそこはでかかったな。何しろアドヴェントの町の何十倍もあるから」


「何十倍? 具体的にはどのくらいなんだい? 人口は? 都市の広さは?」


「え? いや、どうだったかな。とにかくでかくて圧倒されっぱなしだったからなぁ」


 質問攻めの気配が強くなるとバーナビーはしどろもどろになることが多かった。どうやらはっきりと覚えているわけではなく、何となくで記憶しているようなのだ。このため、コミニアヌスを完全に満足させることはできなかった。そもそもそんなことをする義務などないのだが、ある程度満足させないと質問が止まらないのだから困ったものである。


 その話の中に、ネモの町とレニー市の話も少しあった。


 最初にネモの町だが、ここは西方辺境に入る西側の玄関口の町だ。西方辺境からもたらされる毛皮、皮革製品、生薬、干し魚、鉄鉱石、そして少数の南方辺境由来の品々などがこの町を通ってゆく。そんな交易の重要拠点なのだが、チャレン王国内戦後、お家騒動で不安定になっているらしい。先代の次男を追い出した三男は無能ではないが優秀でもなく、それなのに二王子の争いに参加しているという。あまり評判は良くないそうだ。


 次にレニー市だが、ここはチャレン王国の王都である。恩恵の街道沿いにある都市で西方辺境の町に比べると何もかもがすばらしいが、更に東にある諸都市に比べると見劣りするらしい。そして、王国の内戦終了後に発生した二王子の対立により、近年は揺れに揺れている都市でもあった。もしかしたら今度は王国中央で内戦があるかもと噂されているが、東で大国と接しているのでそんなことをする余裕はないという意見もある。


 そのまま受け入れるのは危険であるものの、これから向かう町や都市の貴重な情報だ。内心で喜びながらも、ユウたちは更にチャレン王国中央の話を引き出すべくバーナビーに話を振った。


 こうして数日間、5人は作業を分担し、互いに雑談のネタを披露し合う。


「いやぁ、楽しいなぁ。やっぱ面白い話をするヤツを乗せると楽しいぜ」


「バーナビーはいつも荷馬車に誰か乗せているのかい?」


「そうだな。乗せていないときはないぞ。さすがに1人で街道を行くのは危険だからな。ただ、乗せて楽しいヤツと楽しくないヤツ、良いヤツと悪いヤツ、他にも勘弁してほしいヤツとか色々いたかな」


「面倒そうだね」


「でも、こういう仕事が合ってるんだろうな。何だかんだでもう何年も続けてるよ」


 夕食時、パン粥を食べながらバーナビーがコミニアヌスに語った。仕事の都合上、各地を回っているが、人と接することが多いだけに色々な話題に事欠かない。この後、バーナビーはそれぞれの事例をひとつずつ挙げてしゃべり、ユウたち4人を感心させたり怒らせたり呆れさせたりした。


 とある日の昼、休憩のために街道から原っぱに荷馬車を移して5人は休憩を始める。昼休憩も兼ねているが、夕食とは違って調理まではしない。食事は保存食をそのまま口にする。


 休憩を始めてしばらくすると東側から荷馬車の集団がやって来た。ユウなどはぼんやりと眺めていると次第に近づいて来て、ついには自分たちのすぐ近くの原っぱに荷馬車を次々と停めてくる。


 最初に停まった荷馬車の御者台から1人の中年が降りるとバーナビーに近づいて来た。それに気付いたバーナビーも歩み寄る。


「ここで昼休憩でもされているのですか?」


「ああ、そうだぜ。あんたらもかい?」


「そうです。色々とお話をしましょう」


 挨拶を交わすとバーナビーは相手側の荷馬車へと足を向けた。次々に集まってくる商売人らしい男たちと話を始める。その様子を荷台から眺めていたコミニアヌスは興味ありげだったが、残念ながらバーナビーたちまでの距離がありすぎてほとんど聞き取れなかった。


 更に数日後、境界の街道が境界の川と交わる場所に差しかかる。ユウとトリスタンは既に何度か通ったことのある船渡し場だ。街道を西から東へと進み、渡し船を待つ行列の最後尾に着く。ここを渡ればトレジャーの町の勢力範囲だ。


 御者台からバーナビーが荷台の4人へと声をかけてくる。


「みんな、これから渡し船に乗るからカネを用意しておいてくれよ。護衛気分で船にタダ乗りしようとして川に突き落とされても知らんからな!」


「今までにそんな奴がいたことあるのか?」


「直前まで自分でカネを払うことを忘れてたヤツは何人もいるが、実際に川へ突き落とされたヤツは1人だけだったな」


「本当にいたのか」


「いたんだよな、これが。あれは傑作だったが、その後ずぶ濡れのまま荷台に乗り込みやがったのは最悪だった。それ以後、こうやって注意するようにしてるんだ」


 上半身を起こしたトリスタンの質問にバーナビーが笑いながら返答した。回答を聞いたトリスタンは半信半疑の様子である。


 そんな話をしながら待っているとやがて順番が回ってきた。ユウたち4人は全員料金を支払う。この時期に川泳ぎはしたくないからだ。


 乗り込んだ舟で川を渡る間、コミニアヌスは物珍しげに周囲を見回していた。周囲の同乗の客が不審がるくらいには熱心にだ。途中でアテリウスに止められるが、目だけは最後まであちこちを見回していた。


 川の向こう岸に着くとすぐに移動を再開するが、すぐそこが宿駅である。バーナビーは今晩はここで泊まることを宣言した。


 これを受けてアテリウスがユウに相談してくる。


「ユウ、俺とコミニアヌスは宿駅で寝たいのだが、構わないか?」


「ちゃんとしたところで寝たいということかな?」


「そうだ。あそこの寝台も木製だから荷台で寝るのとそう変わらないみたいだが、シーツがあるだけましだからな」


「構わないよ。僕とトリスタンが荷台で寝るから留守番役は充分だしね」


「恩に着るぞ」


「バーナビーはどうするの?」


「お前らが荷台で寝てくれるなら、俺も宿駅で寝るよ」


 宿駅に着いた直後、5人集まって寝る場所を決めた。宿駅の寝台はお察しの程度なのだが、野宿続きだと上等に見えてくるのだ。そのため、街道の旅の後半で宿駅の寝台を求める旅人は多い。


 川を渡って1泊した5人は翌朝予定通り出発した。ここまで来るともう周囲に森はない。一面に広がるのは畑である。その中を街道が突っ切っていた。


 そうして11日目の夕方、ユウたち4人を乗せた荷馬車は地平線上に町の陰が見える所まで進んだ。その陰は少しずつ大きくなり、トレジャーの町だと判別できるようになる。


 荷台で横になっていたユウはトリスタンに声をかけられて起きた。そして、御者の方へと進んで前方へと目を向ける。その先には朱色に染まった町がはっきりと見えていた。

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