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冒険者の万華鏡  作者: 佐々木尽左
第33章 森で出会った学者

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4人での出発準備

 冒険者ギルド所属の荷馬車に乗り込むためにアドヴェントの町で冒険者登録をしたコミニアヌスとアテリウスの2人は古鉄槌(オールドハンマー)に加入した。まさかの事態に動揺したユウだったが、危険地帯を通り抜けるためにコミニアヌスとの関係を整理する。これにより、新規加入の2人は正式なパーティメンバーとなった。他にも目的のすり合わせと中止条件の確認を行う。


 こうしてますますパーティメンバーとして一体化した4人は荷馬車出発までの間に準備を整えるために動き始めた。


 その直後、アテリウスがユウに話しかける。


「俺も荷馬車での移動は経験があるから何を揃えれば良いのかは大体わかる。大抵の物は既にあるんだが、買い足したい物をどこで買えば良いのかがわからない。教えてくれ」


「わかった。アテリウスは品物の品質ってどの程度求めるのかな?」


「それはもちろん、良ければ良いに決まっているが、言いたいのはそういうことではないな。もしかして、どの程度まで妥協できるのかということか?」


「最終的にはそうなるんだけれど、まずは普段どの程度の品質の物を買っているのかを知りたかったんだ。求める品質によって紹介するお店が変わるから」


「なるほどな、そういうことか。ちょっと待ってくれ」


 問い返された意図を理解したアテリウスが自分の荷物からいくつかの道具や品物を取り出した。それを机の上に並べてゆく。ナイフ、ダガー、縄、大瓶、パン、干し肉などだ。


 それらを見たユウが許可をもらってひとつずつ手に取ってゆく。


「アテリウス、この大瓶の中身は何かな?」


松明(たいまつ)用の油だ。そろそろ切れかけていて買い足したいんだ」


「そうなんだ。蓋を開けても良いかな?」


「いいぞ。ほとんど残っていないが」


 会話をしながらユウは道具や品物を一通り見終えた。そうして難しい顔をする。


「パンと干し肉は僕たちと同じお店で買っているから言うことはないけれど、ナイフとダガーは、うーん。トリスタン、町の中でこれと同じくらいの品質のやつってあるかな?」


「専門家じゃないからはっきりとわからないが、結構な代物だな。アドヴェントの町の工房で作ってもらうしかないんじゃないのか? 結構な代金を請求されると思うぞ」


「やっぱり普通の店じゃ売っていないよね」


「ここで取り寄せるのは難しいか」


「そうだね。どこで買ったのか知らないけれど、僕たちからするとかなりの代物だよ。ちなみに、僕が持っているのは町の外にある工房街で買える中古品だよ」


 一旦アテリウスのナイフを置いたユウは自分のものを手渡した。当人が自分のナイフを見ている間に別の品物へと目を向ける。


「なるほど、これがこの辺りで一般的な品質なんだな?」


「町の外だと平均より上かな。町の中だと一般的なはず。だよね、トリスタン」


「おう、そう考えていいぞ。ちなみに、ユウの道具はどれも手入れが行き届いているからな。個人で持っている道具としてはかなり上等だぞ」


「アテリウス、使い捨てにする場合とそうでない場合で妥協できる線が変わると思うんだけれど、このナイフとダガーはどうなの?」


「使い捨てではないな。予備にもうひとつ持っておこうと思ったんだ。ちょっと前に1本ずつ駄目にしたんでな」


「だったら、町の中で中古品を買った方が良いと思う。今持っているのよりも劣るけど、この辺りで買えるものの中では良いから。トリスタン、ナイフとダガーの値段っていくらだっけ?」


「銀貨2枚と4枚だったはず。工房で新品を作ってもらうなら倍はかかるぞ」


「それくらいだったら出せるな。トリスタン、店までの案内を頼めるか?」


「次に賭場へ行くときに寄って行こう」


 道具や品物をひとつずつ見てはユウ、トリスタン、アテリウスで意見を交わしてどうするべきか決めていった。こういう話は各人の知見が引き出せて話をしているだけでも楽しい。


 そうして話し合いが終わると行動開始だ。町の外ならばユウ、町の中ならばトリスタンが先導して買い物を始める。事前の話し合い通りであればすぐに買い、見込み外れの場合はその場で相談した。自分の命を預ける道具や品物だけに誰もが真剣だ。


 買い物が終わると次は荷馬車の御者との面会だが、これは出発の前日までない。よって、残る大半の日々は休暇だ。これに関して、4人はいつも通り過ごす。


 そして、本筋からは外れるが、ここでユウにとって少し良いことがあった。この休暇期間中に自伝の執筆でついに大陸の東の果てに到達したことまで書けたのだ。大陸一周の旅の半分に到達したのである。とても喜んだユウはこれを仲間に公表した。誰かに伝えたかったらしい。これに対して心の底から祝ってくれたのはコミニアヌスだけだった。




 出発の前日になった。既に準備が整っているユウたち4人は出発を待つばかりだ。

 三の刻が鳴ると4人は冒険者ギルド城外支所へと向かう。相変わらず雑然とした盛況さの中を縫うように進み、行列のない受付カウンターの前に立った。


 頬杖をしている受付係にユウが声をかける。


「レセップさん、おはようございます」


「来たか。もっとゆっくりとしてりゃいいのに。さて、行くか」


 気だるげに席から立ったレセップは受付カウンターの裏側を北側へと進んだ。そこからロビーに入って北面の出入口から屋外へと出た。4人もそれに続く。


 城外支所の北側に広がる原っぱをレセップは西へと歩いた。解体場へと近づくにつれて臭いが一層ひどくなる。ユウとトリスタンは慣れているが、そうでない残り2人は顔をしかめた。


 解体場の中に入ってすぐに荷馬車が1台停まっていた。そこでは1人の中年がのんびりと荷物を運んでは荷台に載せている。


「おい、バーナビー、連れてきたぞ」


「レセップの旦那、おはようございます! その4人が今回の同乗者ですか」


「そうだ。レニー市まで乗せてやってくれ」


「いいですよ。いやぁ、助かりますね。最近じゃ辺境の街道は危ないって聞きますから、5人で越えられるんだったら心強いですよ」


「そりゃ良かった。さて、お前ら、このよくしゃべるヤツがバーナビーっていう商売人だ。冒険者上がりだから一応戦えるぞ。ユウ、仲間の紹介は自分でやれ」


「あ、はい。僕は古鉄槌(オールドハンマー)のリーダーのユウです。この3人はメンバーで、トリスタン、コミニアヌス、アテリウスと言います」


「おう、よろしくな!」


「ところで、ひとつ断っておかないといけないことがあるんです。このコミニアヌスなんですが、実は戦いはからっきし駄目なんです。見張りはできますけれど、襲撃されたときは役に立ちません」


「なんでそんなヤツが冒険者なんてやってるんだ?」


「あー色々と事情がありまして」


 実に言いにくそうにユウは言葉を濁した。秘密があるというだけでなく、本当に説明が難しいのだ。どうしたものかと困っていると、バーナビーに苦笑いされる。


「ああ訳ありか。まぁいいさ。代わりに仕事を手伝ってくれよ」


「仕事ですか?」


「夜の見張り番や炊事当番は当然として、御者の仕事も頼む。見張り番をした翌日にずっと御者台に座っていると、眠くなって仕方ないんだよ。俺も昼間荷台で寝たいんだ」


「なるほど、確かにそれはつらいですね。コミニアヌス、荷馬車の御者はやったことあるのかな?」


「あるよ! これでも旅の経験はあるからね。戦い以外は何でも来いさ!」


「ということで、全員で仕事を回しましょう」


「よし、決まりだな。それとユウ、敬語はいらないぞ」


「そんな上等なヤツじゃないしな」


「レセップの旦那ぁ!」


 最後に突っ込んで来たレセップにバーナビーが叫んだ。それを見て4人が笑う。


「さて、これで面通しは終わったな。それじゃ、オレはこれで帰るわ。しっかりやれよ、お前ら」


「ありがとうございます、レセップさん」


 ユウが礼を述べるとレセップは右手を挙げて応え、振り向かずにそのまま立ち去った。残されたのは明日出発する5人である。少しだけ間が空いた。


 最初に口を開いたのはバーナビーである。


「そうだ、せっかく4人もいるから、荷物を荷台に運ぶの手伝ってくれないか? そこの倉庫に中にあるんだ。数は多くないよ」


「いいよ。みんな、手伝おう」


「これ、護衛の仕事に就いていたら拒否できたんだけれどな」


「トリスタンだったな。その通りだ。でも、襲撃されると戦うことになるから忘れないでくれよ」


「冒険者ギルド所属の荷馬車はそこが違うんだよなぁ」


「あと、食い物も自分で用意しておいてくれよ」


「それはもう済ませたよ」


「結構だ。なら、倉庫に案内しよう」


「目の前じゃないか」


 トリスタンの突っ込みに構うことなくバーナビーがすぐ横の倉庫へ入っていた。4人もそれに続く。


 こうしてユウたちは倉庫内の荷物をバーナビーと一緒に荷台へと積み込んだ。

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