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冒険者の万華鏡  作者: 佐々木尽左
第33章 森で出会った学者

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倍になったパーティメンバー

 何とかして大陸西部中央に行きたいと主張するコミニアヌスのためにユウとトリスタンは冒険者ギルド城外支所で情報収集をした。その結果、レセップから辺境の街道近辺は危険だと告げられる。


 ユウをはじめ、トリスタンやアテリウスはファーウェストの町経由での移動は断念するべきだという考えに傾いていたが、コミニアヌス1人だけこだわり続けた。すると、レセップがネモの町とレニー市での現地調査の依頼をユウとトリスタンに持ちかける。これを受ければ、片道だけだが安全に向かえる手段を提供できるということだった。


 冒険者登録してしまえば便乗できるとレセップに囁かれたコミニアヌスは喜んで飛びつき、アテリウスも従えてこれに同意する。更には様々な手続きを丸投げするために古鉄槌(オールドハンマー)へ加入することも決めてユウとトリスタンを驚かせた。


 その様子を機嫌良く見ていたレセップがユウに声をかける。


「依頼の手続きは済ませた。荷馬車の手配はしておいてやる。前日にここへ来い。あと、パーティに関することはよそでやれ。受付の邪魔だ」


「受付の邪魔って、レセップさんは仕事をしていないじゃないですか」


「うるせぇ、しばくぞ。さっさと行け」


 追い払われるように受付カウンターの前から退去させられたユウたち4人は冒険者ギルド城外支所の外に出た。三の刻は過ぎているとはいえ、まだ朝方だ。昼食にもまだ早い。


 その4人の中で唯一明るいコミニアヌスがユウに話しかける。


「ユウ、これからどうするの? 何もなければ宿に戻って実地調査のまとめを書きたいんだけれど」


「一旦みんなで宿に帰ろう。そのあと、今後について話し合おうと思う。今の僕たちの関係ってちょっとややこしくなったから整理しないといけないでしょ」


「そうかな?」


「そうだよ、このバカ。ユウのパーティに入らなかったらまだましだったのに」


 後ろを歩くアテリウスが浮かれているコミニアヌスに愚痴を吐いた。今の4人の関係は、ユウとトリスタンがコミニアヌスと案内役の契約を結んでいる状態で、更にコミニアヌスとアテリウスが古鉄槌(オールドハンマー)に参加している。特にパーティリーダーのユウと雇用者であるコミニアヌスの関係がねじれている状態だ。これを何とかしないといけない。


 宿屋『乙女の微睡み亭』に戻った4人はユウとトリスタンの泊まっている部屋に入った。ユウが椅子に座り、トリスタンが木窓の前に立ち、コミニアヌスとアテリウスが寝台に座る。


 相棒が木窓を開けている間にユウは室内を見た。それから口を開く。


「コミニアヌスが大陸西部の中央に行きたいということで、今回レセップさんから紹介された現地調査の依頼を引き受けたわけだけれど、その中央に行くために手配してもらった冒険者ギルド所属の荷馬車に乗るためにコミニアヌスとアテリウスは冒険者になった」


「更には2人がパーティメンバーになったんだよな。事務手続きが嫌で」


「えへへ」


「誰も褒めていない。呆れているんだ」


 トリスタンの言葉で照れるコミニアヌスに真顔のアテリウスが突っ込んだ。その様子を見ていたユウは力なく笑いながらも話を続ける。


「これでとりあえずコミニアヌスの目的は果たせそうなんだけれど、僕たちの今の関係が将来問題になりそうなことは明白だよね。だから、今からこの関係を整理するよ。最初に、コミニアヌスが僕とトリスタンの2人と交わした契約は一旦解消する。これでコミニアヌスとアテリウスは単なるパーティメンバーになった。だから、以後は基本的にリーダーである僕の指示に従ってもらう」


「確かにすっきりとしたね。それで?」


「次に、古鉄槌(オールドハンマー)として引き受けた現地調査以外でコミニアヌスが実地調査をする場合、僕が許可すれば2人は自由に調査してくれて構わない」


「ユウとトリスタンは僕たちを手伝ってくれないということ?」


「原則としてはそうだよ。今回行くネモの町とレニー市は僕たちも初めて行く場所だから案内役としては役に立たないからね。それで報酬をもらうというのは違うでしょ」



「なるほど、だとしたら、もし人手が必要になって頼みたいときはどうなるの?」


「そのときは前の条件と同じ内容で雇ってもらうことになるかな」


「1人日当金貨1枚で経費はこっち持ちだね」


「更には僕たちの判断でいつでも契約を完了できるもだよ。今回の場合、危険が迫っていて調査を続けられない場合はリーダー権限で中止するという形になるけれど」


 ねじれの原因であるユウとコミニアヌスが再契約の条件を整えていった。一見するとほとんど変わっていないように思えるが、ユウとトリスタンは常時雇われている状態からその都度雇用という形に変化している。そして、コミニアヌスとアテリウスに対してパーティリーダーの権限が上位であることも確認できた。


 これに対してコミニアヌスが疑問点をユウにぶつける。


「大体はそれで良いと思う。でも、あと1点だけ知りたいんだけれど、ユウとトリスタンが途中で冒険者ギルドの依頼を放棄したときはどうなるの?」


「大陸西部中央に行けなくなった場合、例えば、既に戦争が始まっていてネモの町に入れないという場合は依頼の放棄ではなくて中止だね。だから、事情を話せば冒険者ギルドは正当な判断と見做してくれる。問題は、そんな戦争中の場所にコミニアヌスは行くのかどうかだけれども」


「うーん、さすがにそんな所には近寄れないかなぁ。でも、まだ始まっていないのなら行きたいよね」


「戦争がまだ始まっていない場合は依頼も続行されることになるはずだよ。他には、荷馬車の御者、商売人か冒険者だろうけれど、この人が行かないと判断した場合、コミニアヌスはどうするの? ちなみに、この場合も依頼を中断しても問題ないだろうね」


「うっ、そうだなぁ」


「そのときは一緒に引き返すぞ。俺たちよりも現地の実情に詳しい奴が行かないと判断したんだ」


「アテリウスぅ」


「実地調査は重要な役目でも、できないことまでやろうとするのは間違いだ。ものには限度があるということを忘れるな」


 脇から口を挟んできたアテリウスの言葉にコミニアヌスは肩を落とした。護衛の断固とした態度に反論できないようである。


 その後もいくらか条件を詰めて話し合いは終わった。双方の落としどころも決まって4人が安心する。


「別の町も調査できるようになったし、嬉しいなぁ!」


「お前は気楽で良いな。これから危険な場所に行くというのに」


「本当に危なくなったら逃げれば良いじゃないか」


「俺たちはユウのパーティに入ったんだぞ? 自分たちだけで勝手に判断できなくなったことをもう忘れたのか?」


「でも、僕たちよりもユウたちの方が慎重だから何とかなるんじゃないかな」


「僕たちだなんて俺まで含めるな。お前だけだぞ、危険な場所に行きたがっている奴は」


 安心したせいか、コミニアヌスとアテリウスの2人が言い争いを始めた。この2人はいつもこんな感じだ。それでも本当の喧嘩にまでならないので、実は仲が良いのではないかとユウなどは思う。


 4人で緩い時間を過ごしていると鐘の音が鳴った。四の刻になったことを知る。


 最初に反応したのはトリスタンだ。3人に向かって声をかける。


「そろそろ昼飯に行こうか。完全に出遅れたが、席が空いているといいな」


「さすがに満席ということはないんじゃないかな。酒場に行って確認しよう」


「そうだ、ユウ! 昼食を食べた後、また町の中の商館に連れて行ってほしいんだ!」


「商館? また換金でもするの?」


「正解だよ! 大陸西部の中央に行くとなるとまた現地の通貨が必要だからね!」


「前に換金しただけじゃ足りないんだ」


「現地で換金するという方法もあるよ? チャレン王国中央ならあの紹介状が使えると思うから」


「なるほど、う~ん。だったらどうしようかなぁ」


 頼みごとをされたユウは急ぐ必要はないのではと首を傾げた。コミニアヌスが資金を何に使っているのかはわからない部分もあるが、ユウとトリスタンを雇うための報酬と経費がほとんどなくなったので余裕があると考えたのだ。


 その場で悩み始めたコミニアヌスに対して立ち上がったアテリウスが声をかける。


「別に急ぐことでもないだろう。どうせ出発は1週間後だ。それまでゆっくりと考えれば良い。それより早く酒場に行こう。腹が減った」


「わかったよ。ユウ、この件はもう少し考えておくからね」


「良いよ。決まったら教えて」


 椅子から立ち上がったユウがコミニアヌスの言葉に応じた。それから扉に向かう。


 こうして、ユウは自分のパーティに新たなメンバーを2人加えた。それは突然のことであり、期間限定でもある。しかし、かつて自分が所属したときとメンバーの数は近い。


 そのことがユウにとって少しだけ嬉しかった。

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古鉄槌の増員、読者である我々も感無量です涙
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