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冒険者の万華鏡  作者: 佐々木尽左
第33章 森で出会った学者

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現地調査の依頼

 大陸西部中央の実地調査を希望するコミニアヌスの希望を叶えるため、ユウとトリスタンはチャレン王国の中央までなら同行することを決めた。そのためにはまず現地とその周辺の情勢を知る必要があるので4人揃って冒険者ギルド城外支所へと向かう。


 相変わらず働いていないレセップに2人の事情をぼんやりと説明して情報を引き出しにかかったユウだったが、返答は危ないので行くなというものだった。振り向くと、状況が厳しいということを理解したコミニアヌスとアテリウスの2人が難しい顔をしているのを目にする。


「2人とも、この町から中央に行くのは難しそうなんだけれど」


「僕としては多少の危険なら構わず行きたいんだけれどな」


「俺は待つか諦めるかのどちらかをお勧めするぞ、コミニアヌス」


「それはないよぉ、アテリウスぅ」


「護衛の身としたら当然だろう。どうしてわざわざ危ない所へ突っ込もうとするんだ」


 横から否定的な意見を突き付けられたコミニアヌスが情けない顔をアテリウスに向けた。単純に大陸西部中央へ向かうのならば西方辺境にはあと2つ経路があるが、その場合だとユウとトリスタンの2人とは契約解消だ。


 2人の様子を見ていたユウはそもそもなぜそんなに危険なのか知らないことに気付いた。再び受付カウンターに向き直ってレセップに尋ねる。


「レセップさん、どうしてそんなに危なくなっているんですか?」


「お前も知らない話じゃないんだがな。説明してやろう」


 小さなため息をついたレセップは4人に向かって事情を話し始めた。


 事はトレジャー辺境伯領を巡るチャレン王国の内戦終了後に端を発している。この内戦トレジャー辺境伯側は奇跡の逆転勝利を収めたが、それは王国中央側の敗北を意味していた。そうなると当然この敗戦を巡る責任論が発生するわけだが、この責任を巡って王子2人が対立したのである。しかも、これに他の貴族も巻き込まれてしまい、現在はチャレン王国中央が分裂の危機に瀕していた。


 この情勢の中、敗戦直後にネモの町でお家騒動が発生する。当初は優秀な長男が後を継ぐはずだったのだが、何とこの長男が内戦で戦死、更に戦後すぐ町を治める伯爵家の当主が病死してしまった。こうなると残された者たちで何とかするしかないのだが、ここでも次男と三男という兄弟での争いが始まる。


 この争いは弟王子派の支援もあって三男が一旦は勝利した。その結果、次男は一部の家臣と共にネモの町からトレジャー辺境伯領へと落ち延びる。そうして暗殺の魔の手から逃れつつ機を見計らい、その間にトレジャー辺境伯の支援でネモの町を奪還する計画が進行していたらしい。


 ここまで話してレセップはようやく頬杖を止める。


「ということで、そろそろ機が熟しそうだから今はやめておけというわけだ」


「そういうことだったんですか」


 何となく、本当に何となく少し前まで引き受けていた仕事のことをユウは思い出した。しかし、関わるとろくなことがなさそうなので記憶を頭の底に沈める。


 ため息をついたユウは再び振り向いた。コミニアヌスは少し困った顔をしており、アテリウスは渋い顔をしている。一方、トリスタンはユウを見ながら力なく笑っていた。


 そんな3人に対してユウが声をかける。


「辺境の街道辺りはこんな状況らしいんだけれど、どうするの?」


「う~ん、まだ何もなかったら行きたいんだけれどなぁ」


「このバカ、あの話を聞いてまだそんなことを言うのか。いつ戦争が起きるかわからないんだぞ」


「俺も正直やめておいた方がいいと思うぞ。ここからだと辺境の街道の情勢もわからないしな」


 コミニアヌス、アテリウス、トリスタンがそれぞれ自分の意見を口にした。雇い主だけが未だに頑張っている状況である。だからこそ、雇われている側としてはやりにくい。


 劣勢な状況ではあるが、それでもコミニアヌスは諦めきれない様子である。


「隣町に行って様子を探って判断するというのはどうかな?」


「別に悪くはないが、そこまでして行きたいのか? だったら別の経路で大陸西部中央に入れば良いだろう」


「でもそうなると、実地調査はできないし、ユウの自伝も読めなくなるじゃないか」


「お前な、自分の命と仕事とどっちが大事なんだ」


「まさか頑張る理由にあの自伝も入っているのか」


 まさかの事情にトリスタンがコミニアヌスとアテリウスの横でつぶやいた。それはユウも同じ思いである。あの自伝に命をかける理由を著者自身が見出せない。


 そこでユウがコミニアヌスに提案する。


「コミニアヌス、そんなにあれが見たいのなら、実地調査が終わってからまたこの町に来たら良いじゃない。どのくらいで戻ってくるのかまではわからないけれど、僕らはたぶんまだ同じ所にいると思うよ」


「うう、ありがとう、ユウ! それだったら」


「お前ら、盛り上がりかけたところすまんが、今の辺境の街道を往路だけなら安全に進める方法があるぞ」


 突然会話に割って入ってきたレセップに4人全員が顔を向けた。何事かと次の言葉を待つ。


「町からの依頼でな、ネモの町とレニー市の現地調査の依頼なんだ。内容は2種類あって、トレジャー辺境伯とチャレン王国中央がきな臭くなってきているから現地の情報がほしいってのがひとつ。もうひとつは前に密輸組織を潰した件だ。その後のチャレン王国中央の追加情報が必要になったから再調査してほしいってやつだ。こっちは前に1度調べていて、裏で糸を引いていた中央都市のモノラ教徒の商会が痛手を被ったことまでは確認してある。ちなみに、報酬は1人1日銀貨5枚だ。経費込みでな」


「それ、僕とトリスタンに言ってます?」


「当然だろ、ここ所属の冒険者なんだから」


「でも、中央に行きたがっているのはこっちの2人ですよ?」


「そっちのにーちゃんがお前と離れたくねぇってぐずついてるから助け船を出してやったんじゃねぇか。お前も一緒に行けたらいいんだろ?」


「はい、そうです!」


「お前は黙っていろ」


 にやにやと笑うレセップの言葉に反応したコミニアヌスをアテリウスが小突いた。しかし、痛がりはするものの、コミニアヌスの目の輝きは消えない。


 そんな2人を尻目にトリスタンがレセップに質問をする。


「でも、行きだけ安全ってどういうことだよ?」


「何事にも例外ってのがあってな、きな臭い場所でもある程度目こぼししてもらえるやり方ってのがあるんだ。それが、冒険者ギルド所属の荷馬車だ。各町の城外支所に荷物を運んでるんだが、これに相乗りできるように手配してやる。1週間後に出発予定で前日に顔合わせだからな。それと、襲われたら同乗している冒険者は迎撃する義務があるから忘れるなよ」


「あんたが優しいときって胡散臭く見えるんだよな。それに、その荷馬車には冒険者以外の人間は乗れるのか?」


「乗れないな」


「それだったらその依頼を俺たちが受ける意味がないだろう」


「だったらその2人も冒険者になればいいだろ。登録なんざ簡単にできるんだからな」


「あーそういうやり方か」


「便利なのは使い倒すべきだぜ?」


「その便利な荷馬車、どうして帰りは使えないんだ?」


「レニー市から更に別の町に行くからさ。だから帰りは自分で何とかしろよ。大陸を一周したお前らなら何とでもなるだろ」


「簡単に言ってくれるな」


 面白くなさそうな顔をしながらトリスタンが楽しげなレセップに言い返した。ここで話が途切れるとコミニアヌスが前に出る。


「冒険者登録します!」


「おいバカ、待て、早まるな」


「どうして? 安全に行ける方法があるんだから問題ないじゃないか」


「帰りはどうするんだ?」


「ユウとトリスタンが何とかしてくれるでしょ。大陸を一周できたんだから」


「お前、それを本気で言っているのか? ああ返事はいい、本気で言っている顔だな」


「それじゃ、雇い主権限で行くって決めるよ! アテリウスも登録して!」


「くそ、こいつ」


 言い合いで劣勢になっているところに雇用関係を持ち出されたアテリウスが悪態をついた。しかし、どうしても逆らえないらしく、本当に仕方なく冒険者登録を済ませる。


「やったね! これで大陸西部の中央に行けるよ!」


「よかったな。で、これから細々とした手続きがあるんだが」


「えー、面倒だな」


「だったらいっそのこと、ユウのパーティに入ったらどうだ? そうしたら後はリーダーが片付けてくれるぜ?」


「本当!? それじゃユウのパーティに入るよ!」


「え!? 本気で言っているの?」


 どう見てもレセップに乗せられているようにしか見えないコミニアヌスの言葉にユウは驚いた。アテリウスもこめかみを押さえている。


 しかし、レセップの言っていることも嘘ではない。結局、ユウとトリスタンはこの2人をパーティに迎えることになった。

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― 新着の感想 ―
はっきり言ってこのきな臭い状況で色々調べている二人組は怪しいってもんじゃないし ユウのところに組み込んで遠回しに見張らせるんだろうな
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