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冒険者の万華鏡  作者: 佐々木尽左
第35章 冒険者と貴族

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騒がしい城外支所

 充分に休んだのならば再び働かねばならない。義務だからというよりも金銭的な問題からである。余程の財産を持っていない限りは労働からは逃れられないのだ。


 それはユウとトリスタンも例外ではない。蓄えがある分余裕があるのは確かだが、それは一生働かなくても良い程ではなかった。そのため、ある程度休むと夜明けの森で魔物狩りを再開する。


 森の中は一見すると例年通りだった。植生が変化することもなく、魔物の増減も今年の春までのような異常は見られない。


 ただ、森に入り込んでいる人間は例年通りではなかった。今年の春以降に増えた新参の冒険者と地元の冒険者の軋轢に修復の目処は立っておらず、そこへ下手に地位と権力を振り回す一部の貴族子弟が加わるものだからややこしい。


 色々と重なりつつある森の中でこの日も2人は魔物狩りに勤しんでいた。森の浅い場所で活動する2人にとって冒険者同士の問題は比較的影響が少ない。致命的な問題が発生していない現状だと尚更だ。むしろ安酒場街の路地の方が危なかったりする。一方、貴族の子弟とは狩り場の範囲が重なるのでこちらは危険だが、その子弟の数が今では一握りとなっていることが幸いして滅多に遭遇しなかった。出会っても見かけた瞬間に即退避だ。


 ユウの体質によって支えられたこの穴場で活動する2人はその日の狩りを終えると町に戻る。森から出て草原を歩き、買取カウンターで魔物の討伐証明部位を換金して作業終了だ。この日はもうやることはない。


 秋らしくなってきた風を受けながら2人は解体場の北を歩く。周囲にも同じように仕事を終えた冒険者たちが貧民街へと向かっていた。


 そんな中でトリスタンがユウに声をかける。


「あ~腹減ったな。夏に比べて動いている時間は短くなっているはずなのに、なんで同じ時間に腹が減るんだろう?」


「そんなことを言われても知らないよ。僕は医者じゃないんだから。言われてみると確かに不思議だけれど」


「腹の中に小さな穴でも空いているのかもしれん」


「それだと夏はもっとお腹が空くはずでしょ」


「確かにな。う~ん、不思議だ」


「知らなくても困らないんだからそんなに悩まなくても、って、なんだか騒がしそうだね」


 冒険者ギルド城外支所の北側を通りかかった2人はその建物の出入口から中へ目を向けた。多くの冒険者がいてうるさいのはいつも通りだが、今日はその騒がしさがいつもと違うように思えたのだ。


 気になった2人が建物の中に入ると屋内は騒然としていた。いつもより不安と危機感という雰囲気が強い。


 何となくその雰囲気に当てられた2人はこの室内の様子の原因を知るべく受付カウンターへと向かった。そして、なぜかいつもと変わらない様子で頬杖を付いている受付係の前に立つ。


「レセップさん、こんにちは。今日はなんだか中の様子がいつもと違いますね」


「お前ら2人か。鼻がいいんだか間が悪いんだかわかんねぇな」


「何かあったんですか?」


「残念ながらあったんだ。貴族様のご子息が冒険者に斬りつけられたらしい」


「え?」


「ついにどこかのバカがやりやがったんだ。気持ちはわからんでもないが、一番面倒なことになることをやらかしてくれたわけだ」


 端的に話をしたレセップがため息をついた。また仕事が増えたとぼやく。


「誰がどなたを斬りつけたんですか?」


「マイケルっつー冒険者がプライス男爵家の嫡男アーヴィング様に斬りかかったそうだ」


「あの貴族様」


「そうだ。よりによって一番厄介なご子息が被害者なわけなんだ。まぁ、最も順当でもあるわけだが」


 そこからレセップは経緯を話し始めた。


 プライス男爵家側によると、事の始まりは今日の昼前だったそうだ。夜明けの森の中で活動中だったアーヴィングたちが突然冒険者に襲われたのだという。必死に応戦したアーヴィングたちは負傷しつつも冒険者一味を撃退し、主人の身の危険を感じた従者の説得に応じて一行は町に帰還した。その後、帰ってきた息子の姿に激怒した親であり当主のジャスパー氏が冒険者ギルドの本部に乗り込んだらしい。


 面白くなさそうな態度のまま、レセップが話を続ける。


「ということで、アドヴェントの町の重鎮であるプライス男爵の剣幕に押された冒険者ギルド本部はすぐに城外支所へ捜索命令を出して、現在に至るわけだ」


「その話が本当ならかなりまずいですよね。でも、どうしてその冒険者たちは貴族様を襲ったんですか?」


「今の筋書き以外はまだなーんもわからん状態だ。本当にそうなのかもわかんねぇ」


「嘘の可能性があるんですか?」


「お前、アーヴィング様が森で何をしてたのか実際に見たことがあるんだろ。他の噂も合わせて考えてみたらどうだ」


 指摘されたユウは森の中で見た貴族同士の諍いを思い返した。一方的なことを高圧的に言っているように見えたその姿は、レセップが説明してくれた話の流れとは噛み合わない。


 考え込んだユウに代わってトリスタンが返答する。


「アーヴィング様が都合の悪いことを隠している可能性があるのか」


「大方立場が逆で返り討ちにあったのかもしれねぇが、もう片方の話を聞かねぇことにはわかんねぇんだ」


「さっき名前が出たマイケルっていう冒険者か」


「ご子息の話ではどうもパーティリーダーっぽいんだが、仲間に名前を呼ばれたのはそいつだけなんで他のことはわからんままなんだ」


「だったら、マイケルとその仲間から話を聞くしかないな。そいつは今どこにいるんだ?」


「これがわかんねぇんだよなぁ。ご子息や従者からは人相すら教えてもらっていねぇから。だから今はとりあえず、マイケルって名前の冒険者を片っ端から捕まえろって命令が来てるんだよ」


「無茶苦茶だな」


「プライス男爵家が主張する事情が嘘だとしても、ご子息が傷付けられたことは事実だ。だから何としても犯人を捕まえなきゃいけねぇ」


「でも、マイケルっていう冒険者なんて一体何人いると思っているんだよ」


「数えたことなんぞねぇから知るか。何人でもとっ捕まえなきゃいけねぇんだ」


 面倒そうに顔を歪ませたレセップが吐き捨てた。記録上、城外支所は冒険者について把握しているが、現時点で実際にどこで何をしているかなどはさすがにわからない。町の外の貧民街にいるならまだしも、森の中で今も活動しているとなると戻ってくるのを待つしかない。


「何にせよ、こうなった以上は時間との勝負だ。早いこと貧民街と森の中を探し回ってマイケルって冒険者を捕まえる必要がある」


「城外支所が騒がしいのは、自分たちが疑われているからなんですね」


「それもあるが、城外支所から冒険者全員に強制依頼が出されたんだよ。犯人捜しのな」


「うわ、それって僕たちもですか?」


「例外はないぞ」


「疑われているのに捜索に協力しないといけないなんて嫌だなぁ」


「ちなみに、強制依頼だから拒否権なんてねぇぞ。保存食での3度のメシは保証されるが、報酬はもちろん、経費なんかも出ねぇ。はっきり言って徴集よりひでぇ」


「えぇ、なんですかそれ」


「さすがに冒険者全員に報酬と経費を払えるカネなんぞ持ってねぇんだ、ここは」


 一通りの話を聞いたユウは眉をひそめた。そして、騒然としている冒険者のもうひとつの理由も実感する。確かにこれなら騒いで当然だった。


 不快な表情を浮かべたユウの隣で話を聞いていたトリスタンが懸念すべき点を上げる。


「これって、最近やって来た冒険者たちはどう思っているんだろうな」


「腹が立ってるだろうな。ただ、城外支所からの命令を無視すると捕まるのは知ってるだろうから、当面はおとなしくするだろうさ」


「まともに捜索なんてしないと思うぞ」


「同感だ。でも、この場合は3度のメシを保証してとりあえずおとなしくさせるのが目的だ」


「目端の利く奴ならすぐに町を出るんじゃないのか?」


「逆に目端の利かない連中は残るだろ。そうしたらその分だけ捜索が楽になるんだ」


「果たしてうまくいくのか、その方法」


「やってみなけりゃわからんさ。それに、取れる手段は城外支所でも限られてるんだ。やれることをやるしかない」


 面白くなさそうにレセップがトリスタンへと返答した。そして、更に告げてくる。


「捜索に関しては基本的に貧民街が代行役人、夜明けの森が冒険者という分け方になる。ただし、マイケルという名前の冒険者を知ってる奴は代行役人と一緒だ」


「森の方は知らない連中で捜索して大丈夫なのか?」


「さぁな。決めたのはオレじゃねぇ。上の連中だ。文句ならそっちに言ってくれ」


 大きなため息をついたレセップが口を尖らせた。珍しい態度だ。しかし、すぐに捜索への協力方法について説明を始める。


 最後までレセップの話を聞いたユウとトリスタンは肩を落としながらもうなずいた。

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