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冒険者の万華鏡  作者: 佐々木尽左
第35章 冒険者と貴族

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やる気の出ない捜索

 日銭を稼いだ帰りに冒険者ギルド城外支所へ立ち寄ったユウとトリスタンは屋内が騒然としていることに気付いた。レセップに話を聞くと、プライス男爵家の嫡男アーヴィングが冒険者に襲われて負傷したのだという。その日のうちに町の中へと逃げ帰ったアーヴィングが父親に告げると、即座に冒険者ギルドに怒鳴り込んで捜索することになった。


 冒険者ギルドからの命令ですべての冒険者が捜索に加わることになった翌朝、冒険者たちは次々と城外支所に集まり、すぐさま捜索する場所を指定される。通常は森の中で、貴族子弟を斬りつけたマイケルという名前の冒険者を知っている者は貧民街の区分けされた場所を割り当てられた。


 2人は安酒場街の路地で2回喧嘩した相手に同名の冒険者がいたことから貧民街を捜索することになる。代行役人によって宿屋街と市場を指示されると調査を開始した。


 1軒ずつ宿を回りながらマイケルという冒険者を探す中でユウはトリスタンに話しかけられる。


「なぁ、こんなやり方で犯人を見つけられると思うか?」


「僕にはわからないよ。ただ、本当にマイケルという冒険者が斬りつけたなら、もう町を出ているような気がするんだ」


「よそ者だと特にそうするだろうな。稼ぎに来てあんまり日が経っていないなら尚のこと」


「地元の冒険者だったら、知り合いが庇うかもしれないよね」


「それはあるだろうな。問題は隠し通せるかだが」


「ああそうか、だからよそ者の冒険者にも捜索させるんだ。地元の人と仲が悪かったら容赦なく捕まえるだろうから」


「城外支所が冒険者全員を駆り出すなんて馬鹿げていると思っていたが、そういう思惑もあるのか。いやでも、これだけの数の冒険者を1度に駆り出すのはやりすぎだろう」


「案外、本部の人たちが怒鳴り込んできた貴族様に急かされて焦っているのかもしれないね」


「とにかく全員で探せってか。ありそうだな」


 ユウの想像を聞いたトリスタンが苦笑いした。とにかく何でもかんでもやらせようとする人物は確かにいる。効率や効果などを一切考えないのだ。この場合、やった振りをしてやり過ごす方法もあるが、今回は使えない。犯人を捕まえないといけないからだ。


 冒険者マイケルの捜索は貧民街一帯に広がった。朝から冒険者たちが夜明けの森に入らず、街中をあちこちうろつき回る姿に人々は困惑する。事情を聞いた者たちは呆れるやら気の毒に思うやら様々な態度だった。


 そんな冒険者たちの捜索に対する力の入れ具合だが、はっきり言ってまったくやる気がない。最近の貴族子弟の行いに不満が大いにあるからだ。ひどい者になると捜索をせずに建物の陰でしゃべって怠けている者もいる。他の冒険者に見つかっても見過ごされるので平気なものだ。たまに代行役人に見つかって小突かれていることもあるが。


 ともかく、全体で見ると効率も効果も悪いように見えた方法だが、ごくたまにマイケルという冒険者が捕まることがあった。ユウとトリスタンの言う通り、よそ者の冒険者が地元の冒険者であるマイケルを発見するのだ。たまたま要領の良い者が嘘の下手な住民から情報を引き出すのである。こんなことをすればますます地元の者とよそ者の溝が深まるばかりだが、今は冒険者ギルドの命令なのでどうにもならなかった。


 朝の間に宿屋街の捜索を終えたユウとトリスタンは昼から市場を探し回る。店舗や屋台をひとつずつ回るのだ。


 その間に2人はよくしゃべる。


「さすがにマイケルっていう名前だけじゃわからないな」


「どのマイケルだって言われたらお手上げだもんね。宿屋ではそこで話が終わっちゃったし」


「せめてパーティ名がわかったらなぁ」


「そうだ、もしかしたらデレクたちが知っているかもしれないよね。喧嘩をする前にパーティ名を名乗ることがあるから」


「俺たちが喧嘩した相手か。デレクたちは今どこにいるんだ?」


「森の中で今活動していたとしたら、出てくるまでにちょっと時間がかかるかもしれないね。うーん、予定なんて聞いていなかったし」


 自分たちが持っていない情報を持っていそうな知り合いと会えないもどかしさに2人は渋い顔をした。中途半端な情報では捜索するのに限界がある。


 悩みながらも市場を捜索しているうちに2人は真ん中辺りにやって来た。今は屋台が集まる場所を歩いている。そのうち、知り合いの店にたどり着いた。チャドのスープ屋だ。


 昼下がりで客の少ない時期だったのでユウは近づいて声をかける。


「チャド、こんにちは」


「ユウ、トリスタンも。2人で来るなんて珍しいね」


「大抵は1人で来るよな、そういえば。とりあえず1杯くれ」


「僕も」


 怪しくも旨いスープを買ったユウとトリスタンはまず口を付けた。微妙な舌触りは相変わらずである。


「ユウ、トリスタン、今日は冒険者たちがあちこちでマイケルっていう冒険者を探してるね。2人もそうなの?」


「そうなんだよ。昨日城外支所で強制依頼っていう拒否できない依頼が冒険者全員に出されたんだ」


「大変だね。でも、普通に食べ物を買ってしゃべってるだけの人もいたけど」


「冒険者の1人が貴族様のご子息に斬りかかったからその捜索をしてるんだけど、その怪我をした方の評判が悪いんだ。この夏から森に入って冒険者の邪魔をして」


「みんな言ってたよ。やりたくないって」


「僕たちもだよ。マイケルなんて名前だけで探せと言われてもね。喧嘩をした相手すら見つけられないんだ」


「ああ、その噂は僕も聞いたことがあるよ。狂犬(クレイジードッグ)と一緒に喧嘩をしたんでしょ」


「ここまで噂が広がっていたんだ」


「自分たちで言って回っているみたいだからね」


「何やっているの、あの4人は」


 噂の源泉がすぐ近くにあったことにユウは頭を抱えた。喧嘩に勝つことも自分に箔を付けることになるのは理解しているが、ユウ自身はそういう箔の付け方は望んでいない。これも後輩の面倒を見るという一環なのかと少し頭を悩ませた。


 代わってトリスタンがチャドに尋ねる。


「そうだ、その喧嘩相手のパーティ名は知ってるのか?」


「確か、破壊者(デストロイヤーズ)だったはずだよ。デレクとジャレッドがそう言っていたから」


「あいつらそんなパーティ名だったのか」


「そのパーティはちょっと有名だったからね。立て続けに2人組の冒険者と格下の駆け出し冒険者に負けた6人パーティっていうことで」


「おお、それは」


 淡々と語るチャドの話にトリスタンは顔を引きつらせた。腕っ節自慢の冒険者でその噂は割と致命的だ。もしかしたらこの噂でいらついていて貴族子弟を傷付けたのかもしれないと思えるくらいに。


 その後、2人は再び宿屋街に戻って今度はパーティ名を使って再び聞き込みをした。大抵の冒険者ならばこの宿屋街のどこかに泊まるはずなので、パーティ名を使えばあるいはと思ったのだ。すると、とある宿で昨日の五の刻頃に宿を引き払ったことが判明する。宿に戻ってくるなりいきなりで驚いたらしい。行き先までは知らないとのことだった。


 宿を出た2人は路地を歩きながら話し合う。


「トリスタン、破壊者(デストロイヤーズ)はもう町を出たように思うんだけれど」


「俺もそう思う。問題はどこの町を目指したかだよな。ユウはどう思う?」


「トレジャーの町に向かったんじゃないかと思う」


「その心は?」


「西端の街道を使ってレラの町に行こうとすると1ヵ月近くもかかるから遠すぎるし、北にあるウォダリーの町に行くためには入場料を払って町に入って更に船賃も必要になるじゃない。稼ぎに来た人が通るとは思えないんだ」


「俺もそう思う。1度レセップに報告しに行かないか? もうそろそろ夕方だしな」


 相棒から提案を受けたユウはうなずいた。すぐに2人で冒険者ギルド城外支所へと向かう。そうして受付カウンターで頬杖を付くレセップへと近づいた。


 こちらに目を向けるレセップに対してユウが声をかける。


「レセップさん、僕たちが知っているマイケルという冒険者についての相談があるんです」


「なんだ、言ってみろ」


 発言を求められたユウは昼からチャドとの会話で得た話とその後の宿屋街で集めた情報を報告した。すると、レセップが頬杖を止めて首を鳴らす。


「なるほどねぇ。喧嘩に負けて恥ずかしくて出て行った可能性もあるわけだ。そりゃ盲点だった。宿屋の店主は昨日の三時頃に宿を引き払ったと言ったのは確かなんだな?」


「鐘の音を聞きながら対応したらしいんでそこは確実だそうです」


「宿に戻ってきていきなり解約か。かなり怪しいな。ちょっと待ってろ」


 少し考えるそぶりを見せたレセップはそう言い放つと席を立った。そのまま奥へと引き込んで姿を消す。


 突然のことに2人は呆然とした。黙ったまま顔を見合わせる。しかし、待つしかないのでそのままぼんやりと立っていた。

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― 新着の感想 ―
こんな依頼真面目にやらないで手を抜けばいいのに。 件の冒険者捕まえてもあんまメリットないでしょ。 いや、ユウ達が原因で凶行に走ったなら逆恨みされる可能性もあるか
ますます貴族からの評価を稼いでしまう…… でも、2対6で負けるやつらが貴族と従者に勝てるんかな。 切りかかってくる訳がないと舐め腐ってたのかな。
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