貴族子弟との面通し
まさかの指名依頼4件集中という無茶な状況に陥ったユウとトリスタンはレセップと共にアーチボルトから事情を聞いた。ロウトン男爵家の依頼がうまくいったせいで今の苦境に陥ってしまったことに頭を抱える。
しかし、断ると色々とまずいことになると判断したレセップとアーチボルトによって2人はこの依頼を受けることになった。2人は調整が終わるまで一旦待機ということになる。
数日後、2人は朝の準備を終えるといつも通りの行動に移った。ユウは机に向かい、トリスタンは三の刻まで寝台で寝転がる。もちろん、木窓も扉も開けっぱなしだ。朝方でも油断するとすぐに熱がこもって暑苦しいのである。
普段と変わらない生活を送り始めていた2人だったが、来るべき知らせがやってきた。扉を開けっぱなしの出入口からアマンダが顔を覗かせると2人に声をかけてくる。
「ユウ、トリスタン、冒険者ギルドから使いの人が来たよ」
「三の刻になったら城外支所に来い、ですか?」
「なんだい知ってるんだね。その通りだよ」
必要なことを伝えたアマンダはすぐに部屋から離れて行った。すぐに顔を見合わせたユウとトリスタンはうなずき合うと元の状態に戻る。約束の時間までは自由なのだ。
三の刻になると2人はすぐに宿を出た。宿屋街の路地を通り抜けて冒険者ギルド城外支所に入る。混雑するロビーを通り抜けると頬杖を付いた受付係の前に立った。すると、珍しくレセップが先に反応する。
「よし、来たな。行くぞ」
相手の返事を聞かずにレセップは立ち上がった。そうして受付カウンターに沿って北へと歩く。壁までたどり着くとロビーに出て北側の壁にある出入口から外へ出ようとした。
ユウとトリスタンはすぐにその後へと続く。城外支所から出るとそのまま町の南門の外にある検問所へと進んだ。レセップが当然のように行列を無視して番兵に声をかけて所用を伝えると、番兵が面倒そうな顔をしながら入場を許可するのを見る。2人もそのまま町の中へと入れた。
レセップを先頭に3人は貴人居住区にまっすぐと向かい、その路地に入ると男爵邸が連なる場所の建物に目を向ける。やがて目的の家にたどり着くと、レセップが玄関で使用人を呼んで用件を伝えて家の中に入れてもらった。しかし、玄関奥のホールで待たされる。
「トリスタン、どうしてここで待たされるんだろう?」
「俺たちよりも偉い先客が既に来ているってことだろうな」
じっと立つレセップの背後に立ったままユウはトリスタンに小声で話しかけた。その返答を聞いて納得する。
ホールで待っていた3人はすぐにやって来たアーチボルトと合流した。挨拶もそこそこに話しかけられる。
「既に4家のご子息が応接室でお待ちだ。今すぐ行こう」
若干急かせるような態度のアーチボルトが反転して応接室へと向かった。他の3人も無言で続く。
応接室に入ると4人の貴族子弟が座っており、その背後にひとりずつ従者が立っていた。アーチボルトがその4人の子弟の横に立ち、レセップが子弟たちの前に立つようユウとトリスタンに目配せしてくる。2人がその通りにすると、レセップはその隣に立った。
全員が揃ったところでアーチボルトが口を開く。
「皆様、本日は朝早くお越しいただきありがとうございます。これより皆様が指名依頼なさった古鉄槌の2人を紹介いたします。では、自己紹介を」
「僕はパーティリーダーのユウです」
「俺はパーティメンバーのトリスタンです」
「先程もお話をしたように、ユウは経験豊富な冒険者であり、また夜明けの森についても非常に詳しい者です。また、その相棒であるトリスタンは」
こうしてアーチボルトの口上が始まった。紹介されているユウからするとなんともむずがゆい紹介のされ方である。後に聞いたところによると、貴人に紹介されるときに多少盛り付けることは珍しくないらしい。もちろんやり過ぎるのはいけないが、大きくかつ良く見せることは悪いことではないという。
そして、その2人の紹介だが、聞いているとトリスタンの方により力が注がれていた。これは信頼できる者と印象づけるために貴族である可能性を強調しているためだ。町の役所だけでなく、ロウトン男爵家もその可能性を信じているとなると他の貴族は否定しにくい。この紹介は単に2人を売り込むというだけでなく、同時に守るための警告でもあるのだ。蔑ろにすると有力者の権威を傷付けるとあっては、いかに相手が貧民であっても無碍にはできないのである。
この紹介の間、ユウは子弟4人の様子をじっと見つめていた。態度には差がある。熱心に聞いている者がいれば、反対に興味なさそうな者もいた。アーチボルトが断れない依頼だと言っていたが、全員がボールドウィンのようであるわけではないらしい。
やがて2人の流れるような紹介が終わると、次は貴族子弟の紹介へと移る。
最初に紹介されたのは、トラヴァーズ男爵家の長男カルヴィンだ。あまり貴族としての雰囲気がない子弟である。それもそのはずで、以前の密輸騒動により一旦平民となっていた元貴族4男の商人が貴族位に復帰したからだ。カルヴィン自体つい最近まで商人の息子であり、自分も商人になると思っていたのでまさか父親が貴族に戻るなど考えていなかったらしい。ここからはレセップが個別に聞いた話になるが、貴族としてやっていく必要があるので、商人上がりだと馬鹿にされないよう箔付けをするために今回指名依頼を出したらしい。
次に紹介されたのは、スウィングラー男爵家の長男ディミアンだ。今回最もユウたちの紹介を熱心に聞いていた子弟である。この家も以前の密輸騒動により騎士爵から陞爵して男爵家になった。父親が騎士としてだけでなく、事務方の能力も高かったことが評価されたらしい。その息子のディミアンはそれまで騎士の修業をしていたが、突然貴族の嫡男となって戸惑っていた。しかし、今回の件で自分の腕を披露できると張り切っているという。
「騎士として修行をしていたので腕には自信がある。だが、魔物相手に戦ったことがないので腕試しをしたいんだ」
当人が目を輝かせて語ったので、この人物は父親に頼んで指名依頼を出してもらったことは簡単に推測できた。
次に紹介されたのは、ラザフォード男爵家の次男イーモンだ。この貴族家は元から貴族である。おっとりとした様子はとても魔物狩りをしたいようには見えない。しかし、イーモンにはイーモンの事情があるようである。
「みんながやるんだったら僕もやらなきゃ馬鹿にされるだろ」
小さい声で語られた理由を聞いたトリスタンなどは同情の視線を送った。貴族界隈で上に突出すると尊敬されたり持ち上げられたりすることはあるが、下に底抜けると馬鹿にされていじめられる。しかもそれが終生に渡ることもあるので看過できないのだ。望まないイーモンが魔物狩りをやる羽目になるくらい例の流行は広まっているようである。
最後に紹介されたのは、クィントン男爵家の三男フランクリンだ。この貴族家も元から貴族である。
「ボールドウィン様だけじゃなくて、みんなもやるっていうんなら、オレだってやってやる。絶対にできるんだからな!」
聞いた抱負は何とも微妙なもので、ユウなどは強気なのか弱気なのかどちらだと内心で首を傾げた。ディミアンとはまた別の方向性でやる気に満ちている。それがまた何とも不安を誘った。無茶をする上にきっかけがあれば暴走しそうに見えるからだ。
それぞれの貴族子弟を一通り見たユウだったが、個人差が大きくて何とも言えなかった。ディミアンとはうまくやれそうに思えるが、フランクリンはどうなるのかわからない。
内心で色々と考えていたユウだったが、発言の許可を得て今回の依頼の条件を4人と確認した。その条件はロウトン男爵家の嫡男ボールドウィンと同じというものである。自分たちよりも上位の貴族家と同じというのならば4人も文句は言えない。
ユウとしては特に期間を2日に限定することが重要だった。満足するまでと主張されて何日も繰り返すことは避けたかったからだ。4家連続して担当するため、後方の家をあまり長く待たせたくはなかったということもある。
ともかく、貴族子弟との面通しと条件の確認を終えたユウはトリスタンとレセップの2人と共にワージントン男爵家を辞した。
路地に出た途端、トリスタンが背伸びをする。
「あ~やっと終わったぁ」
「それじゃ後は頼むぞ、2人とも。せいぜいご子息様を怒らせないようにな」
こちらも体の力を抜いたレセップが気だるそうに2人へと声をかけた。何も問題がなければレセップの仕事はほぼここまでだ。
明日からのことを考えるとどうしても気が重くなるユウは無言だった。




