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冒険者の万華鏡  作者: 佐々木尽左
第35章 冒険者と貴族

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雪崩れ込んできた指名依頼

 今や暑い日々が当たり前となったアドヴェントの町でユウとトリスタンはのんびりと過ごしていた。最近は精神的にも落ち着きがでてきたのか、数日間働かなくても不安にならなくなっている。ユウなどは自伝の執筆がはかどると喜んでいるくらいだ。


 そんなある日の朝、2人は朝の準備を終えるといつも通りの行動に移った。ユウは机に向かい、トリスタンは三の刻まで寝台で寝転がるのだ。もちろん、木窓も扉も開けっぱなしである。朝方でも油断するとすぐに熱がこもるからだ。


 普段と変わらない生活を送り始めていた2人だったが、それはベッキーによって打ち破られた。扉を開けっぱなしの出入口から顔を覗かせると2人に声をかけてくる。


「ユウ、トリスタン、冒険者ギルドから使いの人が来たわよ」


「また? 今度は何の用なの?」


「あたしはそこまで聞いてないわ。受付カウンターまで来てちょうだい」


 必要なことを伝えたベッキーはすぐに部屋から離れて行った。誰もいなくなった扉付近をしばらく眺めていたユウがトリスタンへと顔を向ける。


「今度は何の用なんだろうね?」


「さぁ? ろくでもないことは確かだろうな。朝っぱらから呼び出すんだから」


 渋い顔をしたトリスタンがため息をついた。それから面白くなさそうに立ち上がる。


 放っておくという選択肢を選べないユウもペンを羊皮紙の横に置いて席から立った。部屋を出て受付カウンターに向かう。もちろん、扉には鍵をかけてだ。間もなく部屋に熱がこもって暑苦しくなるだろう。


 つい先程までの平穏な生活を懐かしみながらユウはトリスタンとともに受付カウンターにたどり着いた。今は老婆のジェナが番をしている。


「ジェナ、今ベッキーから城外支所の使いの人が来たって聞いたんだけれど」


「確かに来たね。言うだけ言ってすぐに帰っちまったよ」


「それで、何て言っていたの?」


「三の刻になったら城外支所に行って、レセップに会えだとさ」


 先日の伝言と同じ内容を再び聞かされたユウはトリスタンと顔を見合わせた。確かにここ数日間は冒険者ギルド城外支所に足を向けていないが、それにしても2週間と間を置かずに人を寄越してくるというのは初めてだ。


 ますます嫌な予感がするユウとトリスタンは一旦部屋に戻った。それから口を開く。


「今度は何をさせる気なんだろうね?」


「それがわかったら不安なんてないだろう。いや、知ったら知ったで頭を抱えるか」


「はぁ。断れる話だったら良いのになぁ」


「そんな仕事だったらそもそも伝言なんてしてこないだろう」


 正論を返されたユウはため息をついた。確かにその通りである。


 三の刻まで今しばらくの時間があるのでユウは再び机に向かった。




 羊皮紙にペンを走らせていたユウは鐘の音を耳にした。ペンを机に置くと椅子から腰を上げる。ほぼ同時にトリスタンが寝台から立ち上がった。


 部屋を出た2人は受付カウンターで鍵を返すと宿から冒険者ギルド城外支所へと足を向ける。路地の日陰を伝い、直射日光を避けるように心がけた。


 西端の街道に出た2人はそのまま城外支所に入る。相変わらず暑苦しいくらいに盛況だ。そんな中を縫うようにして進んで目的の場所を目指す。行列のない、頬杖をした受付係のいる場所だ。


 珍しく渋い表情をしている人物の前に立ったユウが声をかける。


「おはようございます、レセップさん。伝言を聞いて来ました。どうしたんですか?」


「やることが増えて機嫌が悪いんだよ」


「今度は何があったんですか?」


「また貴族様からの指名依頼だ。しかも4つ同時にだよ」


「え?」


「前にロウトン男爵家の指名依頼をしただろ。あれと同じやつが来てるんだ」


「どうしてそんなに」


「わからん。だから知ってるヤツ、じゃなかった、知ってるお方にこれから話をお伺いしにいくわけだ。さすがにこれは放ってはおけねぇ」


「もしかして、またアーチボルト様の所に行くんですか?」


「お、勘がいいな。その通りだ。今回はオレも行く。ついて来い」


 相手の返事を聞かずにレセップは立ち上がった。そうして受付カウンターに沿って北へと歩く。壁までたどり着くとロビーに出て北側の壁にある出入口から外へ出ようとした。


 呆然と見ていたユウとトリスタンは途中で我に返ってその後に続く。城外支所から出るとそのまま町の南門の外にある検問所へと進んだ。レセップが当然のように行列を無視して番兵に声をかけて所用を伝えると、番兵が面倒そうな顔をしながら入場を許可するのを見る。2人もそのまま町の中へと入れた。


 レセップを先頭に3人は貴人居住区にまっすぐと向かい、その路地に入ると男爵邸が連なる場所の建物に目を向ける。やがて目的の家にたどり着くと、レセップが玄関で使用人を呼んで用件を伝えて応接室に案内してもらえた。


 前回同様大して待たされることもなくアーチボルトが姿を現わす。今回は若干表情が硬い。

 立ち上がった3人にアーチボルトが声をかける。


「やぁ、待っていたよ。席にかけてくれ」


 勧められた3人はレセップを中心にユウが右側、トリスタンが左側に座った。その間に使用人がお茶の用意を進める。


「最初に、ユウとトリスタンに伝えておこう。先日のロウトン男爵家の件だが、先方は大変満足しておられた。ご子息も喜んでいらっしゃったよ」


「そうですか。それは良かったです」


「この件に関してはそうなんだが、困ったことにこれが今回の件を引き起こしてしまったんだよ」


「4つの貴族家からの指名依頼が僕たち宛に届いたと聞いていますが」


「その件で合っている。今からその事情を説明しよう」


 ティーカップを持って口を付けたアーチボルトが小さく息を吐き出した。この件に関しては意に沿っていないような態度である。


 一旦間を置いたアーチボルトが今回の件の経緯について話し始めた。


 最初にユウたちへ伝えたように、先日のロウトン男爵家の嫡男ボールドウィンの魔物狩りは大成功に終わっている。フィランダーは無事嫡男が戻ってきたことに安心し、そのボールドウィンも目的を果たせたからだ。その目的とは、現在貴族子弟の間で流行しているどれだけ無茶なことをできるのかを競い勝つことである。


 魔物の討伐証明部位を前にボールドウィンが自分の無茶を友人に披露すると、これが大変評判となった。町の外に出るだけでも珍しいのに夜明けの森に入って魔物を狩ってきたのだ。その話題で持ちきりとなる。


 すると今度は他の貴族の子息たちも同じことをしたがった。自分たちも負けたくないのだから当然だろう。そこでボールドウィンはアーチボルトに頼んだことを披露したのだ。以来、ワージントン男爵家に複数の貴族家からロウトン男爵家に紹介した冒険者の詳細を求められた。当初は受け流そうとしたアーチボルトだったが、ワージントン男爵家よりも上位の家から頼まれると断れない。


「ということで、私としても誠に遺憾だったのだが、2人のことを話さざるを得なかったんだ」


「そういうことでしたか」


 アーチボルトの話を聞いて最初に口を開いたのはレセップだった。いつもの雑な話し方ではなく目上用の丁寧な話し方だ。ユウとトリスタンからすると違和感しかないが、同時にさすがにこういうときはきちんと対応するんだと感心もする。


 ともかく、3人側は事情を理解した。そして頭を抱える。アーチボルトの責任ではないが、そこで止めてほしかった件だ。


 重い雰囲気が応接室に漂った。その中で再びアーチボルトが口を開く。


「ユウとトリスタンがこういう仕事を望んでいないことは承知しているが、今回の件はどうにもならないんだ。ワージントン男爵家としてもそうなんだが、ボールドウィン殿があれだけ吹聴されるとこちらもどうにもできない」


「そうでしょうな。そして、流行に乗っているのならやりたくなると。厄介な話ですなぁ」


「私としても力になれることは協力する。何とかこの指名依頼を引き受けてもらえないだろうか」


 沈痛な面持ちの顔を向けられたユウとトリスタンは嫌とは言えなかった。これは誰が悪いとも言えない件だ。


 しばらく考えごとをしていたレセップがアーチボルトに話しかける。


「日程調整をしたいのですが、依頼者に話を持って行く前にこの4家について相談させてもらいたいですね」


「そうだね。力関係や繋がりを見誤って調整するのは危ない。知っていることは話そう」


「それと、この4家の面通しにはここを使わせてください。依頼の諸条件を詰めるために各家には自分が回りますが、この2人との面通しはまとめてした方がいいですから」


 自分たちを置いてレセップとアーチボルトが話を進めるのをユウはぼんやりと眺めていた。こうなるともう口を挟めない。


 これからどうなるのかユウは何となく不安に思った。

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― 新着の感想 ―
4家の中にろくでもないバカ息子いそう・・・
ボールドウィン様の自慢話を聞いた友人達が「ボールドウィン君すげぇ!、羨ましい!」となるのは自然な流れですねw そして子息達が、”あのロウトン男爵家が依頼した信頼できる冒険者を雇う”で父親を説得したの…
これはちょっと街を離れるのも検討しないといけない案件かな アーチボルトが防波堤として機能しないのが露呈した以上今後もこういうことが起きる可能性が常に出てきちゃったし
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