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冒険者の万華鏡  作者: 佐々木尽左
第35章 冒険者と貴族

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友人との語り合い

 貴族の子息の魔物狩りを護衛及び補佐したユウとトリスタンは再び休みに入った。今年に入って初めて短期間で大金を手に入れたこともあり、またもや長い休暇を取る予定である。これでこそ苦労した甲斐があったというものだ。


 休暇中の日々の生活はどちらも決まっている。ユウは自伝を執筆し、トリスタンは市場に遊びに行くのだ。特にユウは大陸一周の執筆を終えて故郷に帰ってからのことを書き始めたばかりなので気合いが入っている。いよいよ現在に近づいて来たからだ。


 木窓と扉を開けてかすかな涼を求めながら羊皮紙にペンを走らせるユウは四の刻の鐘を耳にした。ペンを机に置いて汗を拭うと席を立つ。


 宿を出たユウは宿屋街の路地を日陰に沿って歩いた。貧者の道に出ると安酒場街まで日差しをさえぎるものはない。なので最初から直射日光を浴びたくなかったのだ。


 そんなことを考えながら路地を抜けて貧者の道に移ったところでユウは見知った人影を目にする。


「ローマン、マイルズ!」


「おー、ユウじゃねぇか。お前も今日休みだったのか」


「オレたちは今から昼メシを食いに行くところなんだが、ユウも行くか?」


「僕も同じだったんだ。一緒に行こう」


 都合良く出会った友人と一緒になったユウはそのまま安酒場街に向かった。そうして酒場『昼間の飲兵衛亭』に入る。真夏の活気に負けないくらい盛況だ。


 空いているテーブル席に座ると3人は給仕女に料理と酒を注文した。それが終わるとテーブルを挟んで向き合う。


「2人は何をしていたの?」


「ローマンと城外支所に行って仕事を見繕っていたんだ。どんなものがあるかってね」


「森で魔物狩りをする以外にもそんなことをしているんだ」


「おいおい、ユウなんて今じゃレセップ経由でそっちの仕事が多いじゃないか」


「今年は城外支所の仕事ばかりだけれどね」


「そうそう。町の中の仕事なんて滅多にないが、城外支所はあるからな。オレたちもお前に倣ってるのさ。冬に備えてな」


 ユウの質問に肩すくめてマイルズが答えた。そのとき、給仕女が注文の品を運んで来る。3人は次々と運ばれてくる料理と酒に手を出し始めた。


 木製のジョッキを傾けたローマンが大きな息を吐く。


「やっぱこれだよなぁ。あーたまんねぇ」


「潤うよねぇ。でも、火蜥蜴(サラマンダー)黒鹿(ブラックディア)も年中稼げているんじゃなかったの?」


「今年の前半は魔物が大量に湧いて出てきただろ。あれで稼げるって噂が周りの町に広がったらしくてな、よその町から冒険者が集まってきてるんだよ」


「冒険者の数が増えてきているのは知っていたけれど、そんなに言うほど増えたの?」


「見ない顔の連中がだいぶ増えた。知り合いもみんなそう言ってるし、城外支所の職員にも確認したから間違いねぇよ」


「そうか、魔物の数は例年並みに戻ったし、更に冬にかけて数が減るからだね」


「そのとーり! 今はまだちょっとやりにくいなというくらいだが、冒険者の数がこのままか更に増えるとなると冬がヤバい」


 話を聞いたユウは表情を曇らせた。かつて自分が旅をに出る直前と状況が似てきたからだ。あのときは戦争の影響で冒険者がアドヴェントの町へとやって来たが、今度は夜明けの森が稼げるという理由で人が集まってきている。


 過去と今を重ね合わせて不安になったユウを見たマイルズが笑った。そのまま言葉をかけてくる。


「稼げる稼げないの波があるのはいつものことだし、人が増えたり減ったりするのもそうだ。だからこういうのに対処できるようになるのも冒険者の腕の見せどころなんだよ」


「それはわかるんだけれどね。どうにも落ち着かないなと思って」


「ずっと平穏だったら確かにいうことはないよな。でも、知り合いとはよく話をしてるから大丈夫だって。こう言う話は仲間と共有して対応できるようにしてるから」


「そうだぜ! 大体、城外支所で仕事を見繕うきっかけはお前なんだからな!」


「僕?」


「あれをみてこう言う仕事もあるって思い出したんだよ。それに、聞けば常に人手不足らしいじゃねぇか。だったら、今のうちに手を付けとくのも悪かねぇやってな」


 自分の言動が周囲に影響を与えていることを知ったユウは驚いた。いずれも酒の席の話題や愚痴でしかないと思っていたが、意外にも役立っているらしいことを知る。


「それに、うちのリーダーが言うには、後輩の連中に魔物狩りである程度稼げるようにしとかないと後進が育たねぇって言ってたっけな」


「クリフが?」


「ああ。オレたちくらいだとお前がやったみたいに城外支所の仕事にありつけるが、後輩の連中はそうとは限らねぇ。特に鉄級の連中はな」


「ローマンの話に付け加えると、魔物狩りで稼げるオレたちのパーティが同じように稼ごうとすると、更に森の奥に行くか狩り場を広げるしかない。それは現実的じゃないからな。だったら稼ぎは最低限でも安定した仕事をして様子を見るのもひとつのやり方だろう?」


「どうせ後輩の面倒を見るんだったら、稼ぎながらの方がいいしな!」


 楽しそうに笑いながら言い切ったローマンがマイルズ共々木製のジョッキを傾けた。


 そんな2人を感心しながらユウは見る。そして、間接的にとは言え、自分も役に立っていることが嬉しい。


 再び明るい気分になったユウは友人との食事を楽しんだ。




 ローマンとマイルズの2人と食事をした後も休日の日々は流れた。気候はますます夏らしく暑くなり、ユウは汗をかきながら自伝の執筆に勤しむ。


 そんなある日、ユウはいつものように四の刻になると酒場『昼間の飲兵衛亭』へと向かった。店内は相変わらず盛況でほぼ満席である。


 空いているカウンター席を見つけたユウが座ろうとしたとき、ふと隣を見るとテリーとウォルトの2人が楽しげに話をしているのを目にした。給仕女に料理と酒を注文してから声をかける。


「テリー、ウォルト、奇遇だね」


「やぁ、ユウじゃないか。久しぶりだね。魔物の間引き期間以来だったかな」


「お久しぶりっす! 暑くてたまんないっすね! 隣、どうぞっす」


 ウォルトに勧められたユウはその席に腰を下ろした。その直後に給仕女が料理と酒を持ってきたので、とりあえず木製のジョッキを傾ける。渇いた喉に沁みた。


 そのユウにウォルトが話しかける。


「何日か前に夜明けの森でユウとトリスタンを見かけたんすけど、なんかえらく立派な人といたっすよね。あれ、町の中の人っすか?」


「そうだよ。貴族様とその従者だったんだ」


「ええ!? そんな人が森に入ってたんすか? 何をしてたんっす?」


「森で魔物狩りをしたいから、護衛と補佐をしてほしいという依頼を引き受けていたんだ」


 疑問に答えたことをきっかけにユウは依頼の内容とその背景を友人2人に話した。森で魔物狩りをするために冒険者を雇うということはどちらもすぐに理解したが、その背景である貴族子弟の流行については首を傾げる。


「どれだけ無茶なことができるのかを競う遊びか。うーん、よくわからないなぁ」


「オレもっすね。遊びだから別に意味はなくてもいいっすけど、危ないことを競うことはしたいとは思わないっすねぇ」


「普段町の中で大切に育てられているから、何か刺激がほしかったのかもしれないのかな」


「ああなるほど、そういうことっすか。オレらなんて逆に年中危険ばっかりっすから、むしろ安全がほしいっすよね」


「危険なことなら魔物狩りでいやというほどしているからね」


「ない物ねだりをしてるみたいに見えるっすねぇ、オレには」


 よくわからないことを理解しようとテリーとウォルトが言葉を重ねた。しかし、根本的な感覚が異なるため、結局確信が持てないままだ。話を聞いていたユウも同じである。


「ところで、ユウはその仕事をもう終えたのかい?」


「終わったよ。元々長くても数日間だったんだけれど、実際には2日だけしかやっていないんだ。僕としては早く終わってくれて良かったよ」


「でも、よく貴族絡みの仕事なんて引き受けたね。報酬はその分良さそうだけれど」


「あはは、実はレセップさんから仕事を回されてね」


「なるほど、そういうことなんだ」


 働かない受付係の名前を聞いたテリーが妙に納得してうなずくのを見てユウは胸をなで下ろした。指名依頼と言うとなぜ指名されたのか説明する必要があり、そうなると表に出せないことにも触れることになる。それはさすがにまずかった。こういうとき、あの受付係の名前は何かと便利なのだ。


 ちょっとした危機を回避したユウはその後もテリーとウォルトの2人と雑談をしながら昼食を食べた。今度は相手の近況を聞きながら口を動かす。2人が所属するパーティはどちらも順調に稼げているようだ。


 他にも気になる話題を思い付いては3人で話し合っていく。食事の時間はいつもよりも少しだけ長かった。

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