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冒険者の万華鏡  作者: 佐々木尽左
第35章 冒険者と貴族

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貴族子息の魔物退治

 ロウトン男爵家での諸条件の確認とボールドウィンとの面会をした翌朝、ユウとトリスタンは三の刻頃に町の南門の外側に向かった。入場は始まったばかりで行列は長く、後ろの方で待つ人は当分入れそうにない。


 検問所の様子を見ながら2人が跳ね橋近くの原っぱで待っていると、門の奥から昨日会った人物が現われる。ボールドウィンとスペンサーだ。


 嫡男のボールドウィンは上質な織大鉄革鎧(コートオブプレート)を身に付け、腰に長剣(ロングソード)を佩いている。一方、スペンサーは硬革鎧(ハードレザー)に槍という姿だ。もちろん冒険者が持つものよりも上等である。


 さすが貴族という装備に感心しつつもユウは2人を出迎えた。まずは声をかける。


「おはようございます、ボールドウィン様、スペンサー殿」


「うむ。外に出るのは初めてではないが、森に入るのは初めてだ。今日は頼むぞ」


「私はボールドウィン様の警護に徹する。森に関しては任せた」


 2人からの返事にユウは笑顔でうなずいた。昨日面会したときから感じていたが、この主従はアーチボルトとは違った意味で接しやすい。貴族とその従者特有の尊大さはあるものの、当人たちは傲慢ではなく素直で謙虚なのだ。


 合流した4人はユウの先導で解体場近くにやって来た。強烈な悪臭にボールドウィンとスペンサーが顔をしかめる。


「城外支所の裏手に解体場があるとは聞いていたが、これはまた強烈だな。それでユウ、森に行く前にここへ寄った理由は何だ?」


「僕たちはまだお2人の力量を存じ上げませんので、ここで1度模擬試合をさせてください。試すようで失礼ですが、お2人のことをある程度把握して正しく先導したいのです」


「模擬試合か! 面白そうだな! 私も2人の力量を見てみたい。スペンサー、やろう!」


「では、僕とスペンサー殿、トリスタンとボールドウィン様で対戦します。木製の武器を持ってきますのでお待ちください」


 雇い主の許可を得たユウは解体場の倉庫にある木製の武器を取りに行った。そうして剣と槍を2本ずつ持ってくる。


 最初に対戦したのはトリスタンとボールドウィンだ。両者木製の剣を持って対峙する。あくまでも力量を推し量るための試合で勝敗は関係ないと最初に断ってあった。


 先に仕掛けたのはボールドウィンである。大振りをせず手堅く攻めてゆく。基本に忠実な戦い方だ。それをトリスタンがひとつずつ丁寧に受け流していく。たまに攻めて相手の体勢を崩して連撃を防いだりもした。


 ある程度戦ったところでユウが終了を宣言する。


 次いでユウとスペンサーの対戦だ。両者やりに見立てた木製の棒を持って対峙する。


 始まると同時に攻めたのはユウの方だった。小刻みに木製の槍を突いていく。それを受けてスペンサーは次々と反撃していった。こちらは割と大胆に攻め返してくる。


 こちらもある程度戦ったところでトリスタンが終了を宣言した。


 4人が再び集まるとユウが口を開く。


「ボールドウィン様、スペンサー殿、ありがとうございます。非常に良い腕前でした。これなら森の中で存分に魔物と戦うことができるでしょう」


「そうか! それは楽しみだ!」


「それでは、借りてきた道具を片付けてきますので、その後出発しましょう」


 全員から木製の武器を集めたユウは解体場へと再び入った。やはりすぐに戻ってくる。


 必要なことを知ったユウとトリスタンは依頼主の主従を先導する形で夜明けの森へと向かった。町から離れて草原を歩き、そうして森の際までやって来る。そうしてそこで立ち止まった。


 懐から瓶を取り出したユウはそれをボールドウィンとスペンサーに見せる。


「これは虫除けの水薬と言って、森の中にいる羽虫を追い払う効果があります。臭いがきついですが、効果は確かですので肌が露出している顔などに塗ってください」


「こ、これをか? さすがにそれは。スペンサーはどうだ?」


「いえ、私もこれはちょっと」


 蓋を開けたユウが手に持つ瓶に顔を寄せたボールドウィンとスペンサーが顔をしかめた。解体場から発せられる悪臭とはまた別方向だが、きつい臭いには違いない。


 結局、ユウとトリスタンは虫除けの水薬を塗ったものの、ボールドウィンとスペンサーは塗らなかった。そうして森の中へと入る。


 森に入った直後は何ともなかった主従2人だが、ある時を境に羽虫が寄り付くようになった。1匹や2匹ならばともかく、数十匹以上となるとさすがに無視などできない。


 たかられたボールドウィンが悲鳴を上げる。


「なんだこれは!? ぶわっ、ぺっ! 口にも入ってくるぞ」


「これは、たまらん!」


「どうします? 一旦戻って虫除けの水薬を塗りますか?」


「塗る、塗るぞ! 早く外に出、ぶはっ!」


 叫んでいる間にも虫にたかられ続けるボールドウィンが真っ先に森の外へと向かった。続いてスペンサーが追いかけて行く。その後をユウとトリスタンが歩いた。


 すぐに森の外に出た主従2人はユウとトリスタンから虫除けの水薬が入った瓶を受け取るとそれを顔に塗り始める。実に嫌そうな顔だ。それを見ていたユウは曖昧な笑みを浮かべ、トリスタンは同情の眼差しを向けた。


 依頼者2人が充分に水薬を塗ると、ユウとトリスタンは再び森の中へと入る。今度こそ奥へと向かうのだ。水薬で意気消沈していたボールドウィンとスペンサーも次第にやる気を回復してゆく。


 戦う準備ができた4人だが、このときユウは自分の位置取りで悩んでいた。実戦実習のときはその特性を活かすために実習生を自分の前に配置していたが、今回は依頼主が貴族だ。不測の事態を考えるとさすがにそれはまずい。


 そこで、移動時は4人が一塊(ひとかたまり)になって動き、魔物が現われたら後方に下がることにする。魔物の数を調整する必要があればそのまま前に出れば良い。


 歩きながら方針を固めたユウは森の奥へと進んだ。1回休憩し、2回目の後、小鬼(ゴブリン)が2匹やって来る。


「ボールドウィン様、小鬼(ゴブリン)2匹が来ます。あれをスペンサー殿と1匹ずつ分けて倒してください」


「わかった。行くぞ、スペンサー!」


「はい!」


 戦闘の許可をユウが与えるとボールドウィンとスペンサーは勇んで前に出た。小鬼(ゴブリン)との距離が一気に縮まり戦いが始まる。


 どのような戦いが繰り広げられるのかとユウがトリスタンと共に見守っていると、短時間で勝負はついた。最初こそ人間以外の生き物を相手に戸惑っていた2人だが、すぐに慣れたのだ。後方から見ていると大人と子供の戦いである。


 魔物を倒したボールドウィンとスペンサーは戦いが終わると互いの健闘を称えた。そんな2人にユウとトリスタンが近づく。


「お見事です」


小鬼(ゴブリン)という魔物は思ったよりも弱かったな。体格も子供程度だったし、武器を振るう技もなかった」


「しかし、私たちに向かって来る気迫は本物でした。あの剥き出しの殺意はまるで獣でしたね、ボールドウィン様」


「お2人とも、このくらいでしたら平気そうですね。今度は2匹以上と戦ってもらおうと思います。その前に、魔物を倒したということを帰ってから証明するために、その一部をそぎ取りましょう」


 話を次の作業へと進めながらユウはナイフを取り出して魔物の討伐証明部位をそぎ取る実演をしてみせた。そうしてボールドウィンとスペンサーに勧めたが、2人とも嫌そうな顔をしてやんわりと拒絶してくる。更にはその役目をユウとトリスタンに求めた。


 この返答を予想していたユウは苦笑いしながら承知する。このような作業は大抵身分の低い者が担当するからだ。トリスタンと共に部位を切り取って袋に入れた。


 以後は同じことの繰り返しである。ユウが体質を利用して魔物を誘因し、ボールドウィンとスペンサーがそれを倒し、トリスタンが周囲の警戒と魔物の数の調整をした。この分担はうまくいき、順調に主従2人は魔物を倒してゆく。


 やがて頃合いを見たユウが町への帰還をボールドウィンに促した。魔物の討伐証明部位を入れた袋は大きく膨らんでいたからだ。同意を取り付けると4人で森の端まで出る。


「今日はお疲れ様でした。初めてにしては大戦果ですよ」


「はっはっは! 狩りと似たようなものだな」


「率先して攻撃してくる点は違いますが、そうですね。私も楽しかったです」


「うん、そうだな、スペンサー。ユウ、明日もう1日だけ森に入りたい」


「わかりました。でしたら今朝と同じように南門の外で三の刻に合流しましょう。それと、この魔物の部位をお持ち帰りください。肉が付いているのでよく洗ってからご友人に見せてくださいね」


「わかった! 本日は世話になった。また明日会おう!」


 町の南門の外までやって来たところでユウとトリスタンは主従2人と別れた。魔物の討伐証明部位が入った袋はスペンサーに引き渡したが少し重そうだ。


 こうして、ユウとトリスタンは無事に依頼を果たした。

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― 新着の感想 ―
貴族からの依頼なのに、なんて平和な依頼なんだ。 模擬戦で実力を見ていたのはスペンサーもボールドウィンもってことかな。
要望は面倒そうだけど性格は良さそうだからいい依頼人だな
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