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冒険者の万華鏡  作者: 佐々木尽左
第34章 冒険者ギルドの手伝い

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雨露したたる捜索

 二の刻の鐘が町の中から鳴るとユウは目を覚ました。室内は薄暗い。寝台から降りると背伸びをする。素っ裸のユウはある程度乾いた服を着ると出発の準備を始めた。その直後、周囲が急に明るくなる。次いで起きたトリスタン共々用意を済ませたユウは室内で待つ。


 三の刻になると宿を出た。雨降る路地を歩く。今日は小雨なのでまだましだ。貧者の道に出て西に曲がり冒険者ギルド城外支所を目指す。真正面にある建物の中に入った。相変わらず室内は騒々しく、この時期特有の湿っぽさが漂っている。


 ロビーを縫うように進んだ2人は受付カウンター越しにアーロンがレセップと話をしているのを目にした。アーロンは楽しげに、レセップは面倒そうにしている。


「おはようございます、レセップさん、アーロン」


「よく来たな! 待ってたぜ!」


「早くこいつを引き取って森へ行け。暑苦しくてかなわん」


「よし、それじゃ行くか!」


 迷惑そうなレセップなどまったく気にせずにアーロンは宣言した。そうしてそのまま北側の出入口に向かう。


 後に続いたユウもトリスタンと共に外へ出た。再び小雨が体を打つ。全身が湿気るのは避けられない。夜明けの森に入る前から体力を削られるような気がした。


 森の際、雨が降っている今のような日は少し内側に入って3人は虫除けの水薬を塗る。こういう日は水薬がすぐに流れ落ちるのでやりにくい。ただ、雨の日は羽虫にたかられにくいのが救いだ。


 水薬を塗っていたユウだったが、突然何かを思いだしたかのようにアーロンへ質問する。


「アーロン、これも森の巡回の仕事のひとつでしょ。職員が集まってきた巡回パーティに担当範囲を指示を出さなくても良いの?」


「今日は雨だからやらないんだと。たまたまどのパーティにも職員がいたから、あらかじめ担当する範囲を伝えてお終いにしやがったんだ」


「職員だけならそれで良いわけだ」


 雨の中を待たされるのも嫌なのでユウは職員の行動を非難しなかった。そして、自分も指示を出す側になったら参考にしようと密かに思う。


 虫除けの水薬塗り終わって瓶をしまうと3人は歩き始めた。少しすると今度はトリスタンがアーロンに話しかける。


「そういえば、ジェイクはどうしたんだ?」


「あいつは元々講師担当なんだ。森の巡回の仕事をしていたのはあくまでも手伝いだ」


「こっちも人手不足なんだから、もう少しやってもらっても良かったんじゃないのか?」


「講師の仕事も人手が足りねぇんだ。春から魔物の間引き期間ということでこっちに引っぱってたが、それが終わったら呼び寄せる理由がねぇんだよ」


 先日まで一緒に行動していたジェイクの配置についてアーロンが説明した。講師としても優秀なジェイクは理由がない限り講習に貼り付けるというのが冒険者ギルド城外支所の方針らしいのだ。そのジェイクを簡単に引っぱってくることができたのは元パーティメンバーのアーロンだからこそである。しかし、そのアーロンであっても理由がなければ引き抜けないのだ。


 話を一旦止めた3人は黙々と森の奥へと歩き続けた。頭上の枝葉から大粒の雨水がいくつも落ちてくる。もちろんその雨水は3人の体にもたまにぶつかった。繰り返し大粒の雨水を受けているとそのうちずぶ濡れになる。直接風雨には曝されていないが、結局はそれと似たような状態になるわけだ。


 半日進んだ3人だが、森の中は静かなものだった。ユウの体質があるにもかかわらず、まだ数える程しか魔物の襲撃を受けていない。しばらくするとある程度数は回復するのだろうが、ユウとしては懐かしい状況である。


 昼食後、3人は更に奥地へと目指した。今回はアーロンの考えで4日捜索して1日休み、再び4日捜索することになってる。例年このような感じで行方不明者の探索をしており、それでいくらか遺留品を回収できるのであるということだった。


 初日の終わり頃、アーロンに続いて歩いていたユウは森とは別の臭いを感じ取る。かなり嫌な臭いだ。思わず前を歩く人物に声をかける。


「アーロン、さっきからなんだか嫌な臭いがしない?」


「気付いたか。死体の臭いだ。人間か魔物かわからんがな」


「魔物の間引き期間のときはこんな臭いはしなかったよね?」


「これ不思議なんだよなぁ。期間中は気にならねぇのに、終わると途端に気付くんだ」


「僕が駆出しの頃にも行方不明者の捜索ってやったことがあるよね。あのときってこんな臭いがした記憶がないんだけれどなぁ」


「そりゃずっと気が張ってたからだろ。あんときだって死臭はしてたぞ」


「ええ!?」


 まさかの返事にユウは目を丸くした。記憶違いなのではなく、そもそも感じ取っていなかったと言われたのだから愕然とする。


「ユウも冒険者として一人前になったっつうことだな」


「えぇ、喜んで良いのかな、それ」


「ちなみに、トリスタンはどうだ? 死臭は嗅ぎ取れてるか?」


「この嫌な臭いだろう? できれば気付きたくなかったよ」


 面白くなさそうな顔をしたトリスタンがうなずいた。嗅いで嬉しい臭いではないので当然だろう。少し間を置いてからため息をついている。


 ユウが臭いを感じ取ってからしばらく後に初日の野営を始めた。体質上の問題でユウは木の上に登って幹に体を縛り付けて眠る。その木の下でアーロンとトリスタンが交代で夜の見張り番をしながら眠った。睡眠がぶつ切りになるのはなかなかつらいことだが、このやり方はうまく機能して魔物の襲撃は1回だけで済む。


「ユウを木の上に登らせるのはやっぱり正解だな。これなら普通に奥までいけそうだ」


「こういうときはあと1人ほしいな。そうしたら言うことはないんだが」


 朝食を食べているときにアーロンとトリスタンが野営の仕方について論評した。ユウの体質をある程度抑えることができたことに大体満足しているようである。ユウ自身は何とも言えない表情で2人の話を黙ってきていた。


 2日目、3人は予定通り更に森の奥へと進んだ。途中、魔物に襲撃されるが、4月の刻ほどではない。明らかにその数が減っている。


 しかし、見つけなければならないが、できれば見たくなかったものをユウたちはついに発見した。冒険者の遺体である。


 全部で3体あり、そのすべてが食い散らかされている。しかも結構時間が経過しているのかひどく腐敗していた。


 アーロンでさえ顔をしかめる遺体だったが、見つけた以上は調べないといけない。ユウとトリスタンは足蹴にするわけにもいかず、必要な物を探すために手で探ろうとする。


「2人とも待て、こう言う場合は無理に死体を触らなくていい。それより周辺に荷物がないか探せ。証明板があれば一番だが、なければ本人だとわかりそうなものを回収するぞ」


「あー正直助かった。さすがにあれは触りたくなかったからな」


 心底安心したという様子のトリスタンがアーロンに返事をした。それはユウも同じで黙ってうなずいた。


 遺体の周辺を調べた3人は傷んだ背嚢(はいのう)を3つ見つける。中には何も入っておらず、その背嚢(はいのう)の隣にぶちまけられた道具があるだけだった。有用そうな道具や消耗品は見当たらないことから剥ぎ取られた後であることがわかる。


 ある程度探し回った3人は何とか冒険者の証明板を回収することができた。いずれも鉄級の冒険者である。ユウもトリスタンも知らない者たちだった。


 その後も3人は森の中を捜索し続け、4日後に一旦町へと戻る。冒険者の証明板を6つ、遺品を2種類持ち帰り、冒険者ギルド城外支所に提出した。


 翌日1日休んだユウたち3人はその更に翌日から4日間再び森の中へと入る。今度は別の方向を目指して歩き、探し回った。こちらでもやはり初日の野営前後からユウは死臭を嗅ぎ取って顔をしかめる。そして、その翌日から様々な遺体を発見してゆくのだ。


 状態の良い遺体はひとつもなく、あるのは食い散らかされ、腐乱した遺体ばかりである。荷物も例外なく物色されており、金目の物や有用な物品は何ひとつなかった。仕方がないとはいえ、ユウとしてはやはり思うところがある。


 2回目の捜索が終わって森を出たとき、外はやはり雨が降っていた。何とも陰気な空模様だ。しかし、既に4日間の捜索でずぶ濡れになっている3人にとってはどうでもよいことである。


 買取カウンターで魔物の討伐証明部位を換金した3人は城外支所へと向かった。そして、中に入る手前で立ち止まったアーロンにユウとトリスタンは声をかけられる。


「今日はもうここまででいい。お前ら2人は帰れ。どうせ証明板と遺品を提出するだけだからな」


 同じように立ち止まったユウとトリスタンはどちらもうなずいた。その2人に見送られてアーロンが城外支所へと入ってゆく。


 少しの間雨に打たれていた2人は宿へと向かった。

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― 新着の感想 ―
これが一、二回なら死体を見つけて荷物を漁るだけ漁る冒険者もいるかなと思うけど 何度も同じ状況のものが見つかるとなると強盗殺人の常習犯が居そうですね
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