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冒険者の万華鏡  作者: 佐々木尽左
第34章 冒険者ギルドの手伝い

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魔物の間引き期間の後始末について

 あれだけ湧いて出てきた魔物も6月に入ると数日でその勢いは衰えた。多数が死傷している冒険者からは歓迎される。罰金回避の日数調整で夜明けの森に入っていた者たちも次々に活動を控え始めた。


 夏を控えた6月の半ばになると雨が多く降るようになる。延長された魔物の間引き期間の終了間際も連日雨が降っていた。森の中は枝葉である程度守られているとはいえ、1日入っていれば間違いなくずぶ濡れになる。しかし、期間ぎりぎりまで魔物狩りをしている冒険者は多くない。日数調整に失敗した者、金を稼ぎ足りない者、ひたすら魔物を狩りたい者など限られている。


 森の巡回をしていたユウたち4人はその限られた者の中の1パーティだった。冒険者ギルドの仕事なので仕方ないが、連日濡れ鼠になるのはどうにもつらい。宿に帰って寝るときは服を乾かすために裸で眠る必要があるのだ。今が夏手前の気候だから平気なものの、これが真冬だと確実に凍えていた。


 しかし、そんな日々もついに終わりがやってくる。6月14日で魔物の間引き期間が終わったのだ。冒険者は喜び、職員は安堵のため息をついた。


 これでユウとトリスタンも一旦解放される。魔物の間引き期間の契約は完了したからだ。このことに2人は心の底から喜ぶ。来年はもうしたくないなと思う程度には。




 魔物の間引き期間が終わった翌日はユウとトリスタンにとって休日だ。それまでも6日に1度はあった休日だが今までとは違う。契約に縛られない休日なのだ。


 二の刻の鐘が町の中から鳴り響く音を聞いたユウは目を覚ました。以前と違って室内が薄暗い。真っ暗でないのは日の出が近いからだ。現にぼんやりと寝台で寝転がっていると急に明るくなる。とはいっても、外は雨が降っているのでその明るさは知れているが。


 昨日までの疲れがまだ癒えきっていないユウだったが、周囲が明るくなったので起き上がった。それからゆっくりと外出の準備をする。


 その準備を終えてユウが自伝の執筆を始めた頃、次いでトリスタンが起き上がった。大きなあくびと共に寝台の上で背伸びをする。


「おはよう、トリスタン」


「おう。今日も雨かぁ、って、なんで上半身裸なんだよ?」


「だって服がまだ乾いていないんだもん。濡れた袖で羊皮紙に触るとインクが滲むじゃない。だから上は着ていないんだ」


「袖をまくればいいだろう」


「正直、湿った服はあんまり着たくないんだ。本当はズボンも穿きたくないんだよ」


「まぁ確かになぁ」


 素っ裸のトリスタンは自分の湿った服を手にして顔をしかめた。不快になることが間違いのない中途半端な湿り具合だ。代わりの服があればとも思うが、こうも連日降っていると意味がない。服を乾かす手段が必要だった。


 諦めて湿った服を着たトリスタンも外出の準備を始める。その間ユウはずっと自伝を書き続けた。


 三の刻になると2人は宿を出て雨の降る路地を足早に進む。一部の諦めた者や開き直った者以外は大体足を速めていた。


 服が再び充分な湿り気を帯びてきた頃に2人は冒険者ギルド城外支所の中に入る。いつものように騒々しいが最近は湿気てもいた。


 雨濡れの冒険者たちが往来するロビーを縫うように進んだ2人は行列のない受付カウンターの前に立つ。


「おはようございます、レセップさん」


「こんな湿気た日でも元気だな、お前は」


「落ち込んでいても仕方ないですからね。森の中の魔物もすっかり落ち着いたようですし、ずぶ濡れになっても頑張った甲斐があったと思うことにしているんです」


「前向きだねぇ」


「それで実際のところ、どのくらい落ち着いたんですか?」


「買取カウンターで買い取る魔物の部位の量からすると、例年通りだそうだ。去年の冬に増えた分もきれいさっぱりなくなってるらしい」


「ということは、本当に落ち着いたんだ」


「みたいだな。冒険者ギルドにとっちゃひとまず安心ってわけだ」


「魔物の間引き期間が終わったばかりの今なら、他の冒険者もみんな喜んでいるでしょうね。今年は特にきつかったですから」


「そうなんだろうが、来月になったらあの稼ぎを懐かしがるぜ、都合の悪いことは忘れてな」


 頬杖をしたままのレセップが小さく笑った。あれだけ苦労したことは忘れても、その手で数えた銅貨の枚数は覚えていると言うわけだ。


 2人が雑談をしていると脇からトリスタンが声をかけてくる。


「昨日の解散間際にアーロンから次の仕事についての話があったんだが、その話はもうできるのか? おおよその内容は聞いているが」


「できるぞ。次にお前たちに頼むのは魔物の間引き期間中にあの森で行方不明になった冒険者の捜索だ。冒険者ギルド城外支所が事前登録のときに記録した中で未帰還者を捜索する仕事だぞ」


「この雨の中だよな」


「5月中に終わってりゃ、ぎりぎり雨は避けられたんだろうが、ま、そこは諦めてくれ」


 肩を落とすトリスタンに対してレセップが他人事のように返答した。そして、そのまましゃべり続ける。


「戦いに負けて逃げている最中にはぐれてそれきりという場合、あるいは戦いに負けて全滅してしまった場合、他にも何らかの理由で仲間の遺品すら持ち帰れなかった場合などに行方不明者は発生するが、今回は森の中を巡ってそういった連中を探し出して冒険者の証明板を持ち帰ってきてくれ」


「ほとんど死んでいる場合じゃないか」


「実際その通りなんだからしょうがないだろ。生きてりゃ大抵は自力で帰ってくるからな。行方不明ってことはほとんど死んでるってことと変わりないんだよ」


「冷たいなぁ」


「そういう評価は、暖かいオレを想像してから言ってみろ」


 呆れていたトリスタンにレセップが自分で言い放った。すると、トリスタンが嫌そうな顔をする。想像してしまったらしい。


 ユウに視線を移したレセップが言葉を続ける。


「今回はアーロンとだけ組んで3人で巡回だ。報酬は1人1日銅貨3枚、巡回中に狩った魔物は自分たちのものにして良い。経費は冒険者ギルド負担だ。ま、条件は変わらんな」


「これ、どうしてまた契約するんですか? 魔物の間引き期間の契約のままでも良いように思うんですけれど」


「あー、それはこっちの都合だ。魔物の間引き期間の契約は期間内にだけ有効なんだ。だから、期間外に任せる仕事には新たに契約が必要になるんだよ。お役所仕事のひとつだな」


「わかりました」


「それと、今回は少し森の奥にまで行ってもらう。いつもこの時期の仕事の引き受け手は少ないんだよな。みんな懐が温かいもんだから、こういうシケたのはやりたがらねぇし」


「森の奥ですか、うーん」


「今は魔物の数も落ち着いてるからお前でも行けるだろ。4月には現に行ってたじゃねぇか。アーロンから聞いたぞ、お前を木の上に縛り付けたら魔物の襲撃が減るんだってな」


「誤解のある言い方ですね。木の上に登ったら、ですよ」


「その辺はなんでもいい。ともかく、今回は少し奥にも行ってくれ」


「わかりました」


 契約書である羊皮紙を手渡されたユウはトリスタンと共に名前を書いて返した。これで契約は完了である。


「どうせ今の気候じゃ捜索も長くは続けられねぇって。気温が上がってきてる上に雨が降ってるんだからな」


「うわっ、それって」


「嫌だよなぁ、夏場の湿気った場所にある死体は」


 にやりと笑って告げてくるレセップにユウは顔を引きつらせた。思った以上にひどい仕事になるとすぐに理解する。


「これは慰めになるが、そういう臭いがする場所に近寄れば、仕事は順調にいくんじゃねぇか?」


「慰めになっていないですよ、それ」


「そりゃ残念だ。それと最後に、期間は大体10日くらいだ。アーロンがどう考えるかによるが、適度に休みを入れて捜索してくれ」


「契約しなければ良かったな」


「無理だろ。この仕事、アーロンから頼まれたんだからな。お前さんらは断れねぇだろ」


「そうだった」


「今日1日はゆっくり休んで明日に備えてくれ。雨が止んでくれるといいんだけどなぁ」


 もはや何を言われても嫌味にしか聞こえないレセップの言葉にユウは肩を落とした。トリスタン共々踵を返す。


「貧乏くじを引かされたみたいだな、俺たち」


「アーロン自身が進んでそのくじを引くんだから文句も言えないんだけれどね」


「これが終わったら、しばらく休もう。俺たち、先月から働いてばっかりだったからな」


「そうだね。まとまって休んだのって4月だったっけ」


「あの月は結構しっかり休んだよな。来月のためにって」


「その溜めた気力体力はもう全部使い果たしちゃったけれどね」


 相棒の言葉に返答したユウは力なく笑った。いつから底をついていたのかはわからないが、とうの昔になくなっていることは確かだ。


 力ない足取りで2人は城外支所の建物から雨の降る外に出た。

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― 新着の感想 ―
やっぱりみんな金あるんだから服のかえ買いなよって思うよね…w そうすれば洗濯後も、乾いた服が着れますよ…
武器防具と違って服は必需品の枠じゃないんですかね。 さすがにビリビリになって穴あきまくったら買うでしょうけど、根が貧乏性になったのかなあ。 まあ浮いたお金で肉たくさん食べてくださいな!
金めちゃくちゃ持ってるんだから服の1枚ぐらい予備に買えばいいのに
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