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冒険者の万華鏡  作者: 佐々木尽左
第34章 冒険者ギルドの手伝い

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延長期間と再延長

 5月の半ばを過ぎても夜明けの森で出現する魔物の数は衰えなかった。数多くの魔物を狩って沸き立つ冒険者たちだが、同時にいくら狩っても一向に減らない数に不安を覚えていく。去年以前の冬なら魔物の取り合いが発生していたというのに、今では魔物の押し付け合いが起きていた。


 死傷者の数は月の前半に比べて落ち着いている。実力不足や認識不足、それに不注意などで脱落するものは軒並み脱落したからだ。不運でやられる者はいるが、以前に比べるとその数は少ない。


 ただし、森に入る冒険者の数が減ったことには変わりがないので、人間側がじりじりと押されていく状況にあった。負傷者の傷が癒えて魔物狩りに復帰するパーティもあるがその数は微々たるものだ。全体の状況を覆せるほどの影響はない。


 月の第4週目に入ると、冒険者ギルド城外支所から魔物の間引き期間の延長が発表された。延長期間は2週間で再延長の可能性もあるとのことだ。理由は魔物が出現する勢いが衰えないためである。誰もが肌で感じ取っていたことだった。


 この頃になると、夜明けの森へは4日目までしか入ってはいけないと冒険者ギルドが呼びかけている。冒険者からすると稼ぐなと言われたようなものだが反発する者はいない。大半の者が既に自発的に下がっていたからだ。


 冒険者たちが自分たちの被害を抑えるように動いた結果、森に入って2日目から4日目辺りに冒険者が集中するようになる。これでようやく冒険者全体が魔物狩りを安定して行えるようになった。


 これに合わせて森の巡回の範囲も変化した。森に入って5日目以降の巡回は中止となり、3日目と4日目の近辺が強化される。駆け出しの狩り場である2日目以下は現状維持だ。しかし、優先されるべきは森の奥の巡回であるため、浅い場所の巡回は後手に回りがちとなっていた。


 月の終わり頃、ユウとトリスタンはアーロンとジェイクの2人と共に森の巡回をしている。昨日から巡回範囲がまた広くなったので巡る経路が変わっていた。


 小休憩に入ったトリスタンが水袋を口からはなしてからつぶやく。


「最初の頃に比べて倍くらいに広くなったなぁ」


「1日で歩ける範囲内だったら別に構わないんだけれど、そうなるとこれ以上は広げられないね」


 その感想を拾ったジェイクが疲れのにじみ出た笑顔を向けた。4人の中で最も体力がないので疲労がきついのだ。


 ジェイクに顔を向けたトリスタンが話の輪を広げる。


「奥を担当することになったパーティはまたこっちに戻って来ないのか?」


「それはないな。奥がきついから移されたんだから。こっちはこっちでやるしかないね」


「期間も延長されたし、まだしばらくは続くのかぁ」


「今年の森の状況を見ていたら予想はできただろう。問題は再延長があるかだな」


「6月いっぱいなんてさすがにやりたくないぞ。後半は雨濡れじゃないか」


「そうなんだよね。オレもそれは避けたいんだが、いずれにしても森の状況次第かな」


「早く収まってほしいもんだ」


 面白くなさそうにトリスタンはため息をついた。若く体力があっても今の森の巡回の仕事はきついので早く辞めたいのだ。本音を言えば5月いっぱいで完了したいが、契約上そうもいかない。期間中は契約が有効なのだ。


 一方、ユウも期間の延長について考えていた。魔物が現われる数が一向に減らないために魔物の間引き期間が延長されるというのは過去にも経験がある。あのときのことを思い出そうとしていた。記憶を掘り起こしながらアーロンへと話しかける。


「アーロン、僕が冒険者になったばかりの頃にも魔物が増えて間引き期間が延長になったことがあったよね」


「あったな。あんときゃ稼ぎ時だって浮かれてたなぁ、そういえば」


「再延長はなかったよね、あのときって」


「ああ、延長は1回だけだった。6月の後半に慰労会を派手にやったっけ」


「あの慰労会ってまだやっているのかな?」


「やっているみたいだぞ。オレは現役を引退してからもう行ってねぇが、クリフたちが楽しそうにしゃべってるのはたまに聞くぜ」


「みんな楽しくやっているんだね」


「なんだ、参加したくなったのか?」


「僕は今回参加していないから構わないよ。ちょっと懐かしくなっただけ。それで、再延長の話に戻すけれど、あのときって6月に入ってから魔物の勢いが弱くなったんだっけ?」


「どうだったか。たぶんそんな感じだったと思う。いや、そうだったはずだ。でなけりゃ期間が再延長されるはずだからな」


「そうだよね。ということは、今年もそんな感じなのかな」


「だといいよな」


 懐かしい話も交えながらユウは期間の再延長についてアーロンと話をした。ぼんやりとしていた記憶が少しだけはっきりとする。心なしか、心象風景に色が戻った気がした。




 6月に入った。魔物の間引き期間は延長されているので冒険者ギルド城外支所と冒険者たちの状況は何も変わらない。ひたすら魔物を倒していくだけである。


 期間が1ヵ月を超えると冒険者たちの意識も徐々に変わってきていた。最初は荒稼ぎしようと逸る気持ちが強かったが、最近は延々と現われる魔物に辟易としてきたのだ。知り合いや仲間が負傷などして脱落していくとその思いは一層強くなる。


 しかし、だからといって魔物狩りを止めるわけにはいかなかった。魔物が溢れて町が襲われるからという郷土愛ではなく、契約上の縛りのためだ。かつての事前登録では2週間以上魔物狩りをしていれば良かったのだが、現在は全期間の日数の3分の2以上も森に入ることを強いられるようになっている。これはかつて、期間を延長した際に稼ぎに満足した冒険者たちが活動を控えたことがあるために規則が修正されたのだ。


 これにより、以前は休息期間を多めに設けて活動していたパーティが活動しづらくなった。おまけに罰金の金額も、平均的な冒険者パーティが1日に稼ぐ金額の半額を14日分だけ支払えば良かったのが、今は期間の3分の2の日数分も支払うことに変更されている。


 もちろん冒険者たちは不満に思ったが、冒険者ギルド側からすると魔物を間引く報酬として金額をつり上げているのだ。その間引きに充分参加しないものには厳しい罰があって当然という態度を貫いた。


 ともかく、それが正負の感情にかかわらず、冒険者たちは6月も魔物狩りを続けている。初期の頃とは違って戦い方は消極的な傾向が多いが、それでも増える魔物の数を減らしているのだ。


 そんなある日、ユウとトリスタンはアーロンとジェイクの2人と共に夜明けの森を巡回していた。やっていることは相変わらずである。ただ、この日は今までと森の様子が少し違った。


 昼休憩のとき、ユウがアーロンに話しかける。


「アーロン、今日は魔物に遭遇する回数が少ないよね」


「さすがに気付いてたか。昨日までよりも落ち着いてきてるな。ただ、この辺り一帯だけという可能性もある。他の連中の意見も聞いてみないと断言はできんぜ」


「減っていると良いんだけれどなぁ」


「そろそろ再延長を判断するころだからな。ここいらで魔物の数が減ってくれてたら終わりが見えるんだが」


 少し難しい顔をしたアーロンが首をひねった。期待はしたいが断言はできないもどかしさが態度に表れる。その様子を見ていたジェイクが苦笑いしていた。


 一方、そのやり取りを見ていたトリスタンが提案をしてくる。


「なら、帰ったらレセップに聞いてみようぜ。あいつなら何か知ってるだろう」


「レセップさんかぁ。そうだね。聞いてはっきりさせた方がいいや」


「オレも賛成だ。あいつ情報を取ってくるの(はえ)ぇからな」


 トリスタンの提案を聞いたアーロンも賛意を示した。同じ職員でもうまくやれる者とそうでない者がいる。レセップは前者なのだ。


 昼食が終わると4人は再び森の巡回に戻る。担当する範囲は当初よりも広いが、その後も魔物との遭遇回数は明らかに少なかった。


 魔物狩りをしている冒険者パーティを1度助けた後、4人は町に戻る。アーロンが買取担当者に尋ねるとやはり魔物の数は減ってきているらしい。これは期待できると全員が喜んだ。


 魔物の討伐証明部位を換金した4人は冒険者ギルド城外支所へと向かった。ロビーは相変わらず冒険者たちで騒がしい。そんな中、行列のない受付カウンターの前に立つ。


「おい、レセップ、魔物の間引き期間の再延長はどうなってんだ?」


「バカだろお前、そんな話大っぴらにできるわけないだろうが」


 世間話のように尋ねてきたアーロンにレセップが正論を返した。そこから2人の押し問答がしばらく続く。ユウたち3人はその様子を見守るしかなかった。


 しかし、それでも何となく2人のやり取りで再延長の有無が浮かび上がってくる。後はそのときを待つだけだった。

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