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冒険者の万華鏡  作者: 佐々木尽左
第34章 冒険者ギルドの手伝い

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積み重なる日々

 魔物の間引き期間中に森の巡回をすることになったユウとトリスタンはアーロンとジェイクと共に夜明けの森に入った。巡回する場所は最も森の浅い場所であるが、だからといって決して楽ではないことを最初の1週間で思い知る。


 春先の森の巡回でも苦労したが、魔物の間引き期間はその比ではなかったのだ。魔物の数が多いのかそれとも冒険者が無茶をしているのか、あるいはその両方か、日々問題や事件が発生しない日はない。


 担当している地域が森の際から遠くないことから、駆け出しの冒険者たちの狩り場を回っていることも要因としてあるだろう。ちょっとしたことも含めれば、未熟な者たちが何かしらの問題を抱えたり重大な危地に陥ったりすることは珍しくないのだ。


 普段はそう冒険者同士が出くわすことなどない森の中も今は1日に2度3度と目撃するのが当たり前である。これもユウたちに仕事が発生しやすい要因に違いない。


 この日もそうだった。巨大蟻(ジャイアントアント)殺人蜂(キラービー)という珍しい組み合わせの魔物の群れに6人の冒険者たちが追いかけ回されていたのだ。落ち着いて対処すれば倒せるはずなのだが、落ち着けなかったからこその今である。


「ユウ、とりあえず魔物を引きつけろ」


「わかった」


 アーロンの命令を受けたユウは冒険者たちを追いかけ回している魔物に近づいた。すると、順次向きを変えてユウを襲おうとする。それをトリスタンと共に1匹ずつ倒していった。単体ではどれもそこまで強くないので楽な作業だ。


 魔物を倒し終えたユウとトリスタンはアーロンとジェイクの元に向かう。年季の入った2人は冒険者6人をまとめていた。とりあえず気分を落ち着かせてこの後どうするのか決めさせている。


 その話し合いが終わると4人は再び巡回へと戻った。


 大体はこのように冒険者を助けて終わるわけだが、残念ながらいつも平穏に事が終わるわけではない。嫌な思いをすることも当然ある。


 別の日、4人がいつものように森の中を巡回しているときのことだ。この日は珍しく1度しか他の冒険者と会っておらず、そろそろ町に帰ろうかと話をしていた。すると、森の奥から何かが近づいて来る音を耳にする。


「声は聞こえねぇな。足音は複数みたいだが」


「しゃべれない魔物かそれとも単に歩いている人間か、どっちだろうね」


 警戒しながらユウたちがその場で身構えていると、4人の目の前に木の枝で組み立てられた簡易担架を手にした4人と他2人の冒険者に出くわした。簡易担架の上には血と泥にまみれた冒険者が横たわっている。


 簡易担架を持っている4人と持っていない1人が立ち止まった。残る1人がアーロンに近づく。


「アーロンか。いいところに出会ったぜ」


「そいつはどうしたんだ? 手ひどくやられてるようだが」


「ここから森の奥に1日行ったところで黒妖犬(ブラックドッグ)の群れに襲われた連中の生き残りだ。他の3人はダメだったが、こいつだけまだ生きてたから町に運ぶところなんだよ」


「ひでぇやられっぷりだな。こりゃもう」


「それで、頼みがあるんだ。こいつを町まで運んでくれないか? オレたちはまた奥に戻って魔物狩りをするつもりなんだ」


「いいぜ。どうせ帰るところだったんだ。ついでに連れて帰ってやる」


「助かる」


 困った様子の相手に対してアーロンは気安く請け負った。見れば男たちは6人全員縄製のたすきをしていない。口ぶりからしても魔物狩りの参加者なのは間違いなかった。こういうとき、善意で負傷者を運んで来てくれたことに感謝をして後を引き継ぐのも大切な役目だ。


 簡易担架を受け取った4人はユウ以外の3人で持つことにする。魔物を引き寄せる体質のユウは最後尾で警戒だ。実際に魔物を襲ってきたときは撃退するかアーロンたちから引き離す役目を負う。


 3度魔物の襲撃を受けたユウはいずれも撃退し、その後に4人全員で森から出た。ここまで戻るともう魔物に襲われる心配はないので簡易担架はアーロンとジェイクの2人が持つことになった。ユウとトリスタンは魔物の討伐証明部位が入った袋をすべて引き受ける。


 買取カウンターで換金を終えた2人は冒険者ギルド城外支所の南側へと回った。負傷者は一旦ここへ運ぶのが慣わしなのだ。


 死傷者の集まりから少し離れたところにアーロンとジェイクは立っていた。ユウはトリスタンと共に近寄っていく。


「アーロン、さっきの人はどうしたの?」


「あそこに担架ごと置いてきた」


 親指で示された先に顔を向けたユウは最初に簡易担架を、次いであの負傷者を目にした。動いているようには見えない。


 嫌なものを見たと思ったユウは目を背けたが、その先にいたトリスタンがじっと死傷者へと目を向けていることに気付く。


「トリスタン、どうしたの?」


「ああいや、ちょっとな。冬に実戦実習で教えた新人の冒険者を見かけたんだ」


「え?」


 思わずユウは再び死傷者の集まりへと顔を向けた。トリスタンの視線を追ってみたが誰だかわからない。ユウが知らない人物であることにそこで気付いた。誰かを教えてもらうのも気が引けたので問わずに黙る。


 次いでユウはアーロンとジェイクとジェイクに顔を向けた。死傷者の集まりを見ながら話をしている。


「今年はいつもより多いな」


「そうだね。魔物の数が例年よりも多いからだろうけど、気が重いよ」


「こん中から何人復帰できるかだが、毎年あんまし期待できねぇんだよなぁ」


「そもそもここに運ばれてる時点で重傷者だからね。後遺症のことも考えると仕方ないと思うよ」


「まだ期間は半分あるってぇのに」


「毎年これを見るのは嫌なんだよな。いくらこっちが努力しても数は減ってくれないのがたまらないよ」


 どちらもやるせない表情を浮かべているのを見たユウも表情を曇らせた。いつか自分もああなるかもしれないと思うと実に気が重い話である。


 ユウは再び死傷者に目を向けた。初めてこれを見たときに何と思ったのか思い出そうとして思い出せない。嫌な思いをしていたはずなのだが、既に記憶の彼方だった。


 ぼんやりと死傷者を眺めていたユウとトリスタンに対してアーロンが声をかける。


「今日はもうこれで終わりだ。帰っていいぞ」


「あ、はい」


「気の滅入る光景だが、オレたちの仕事はこれ抜きでは語れねぇ。ただ、あんまり抱え込むな。気持ちがあれに引っぱられていいことたぁねぇ」


「わかりました」


「酒場にでも行って思いっきり飲んでこい!」


 アーロンに背中を叩かれたユウは目を見開いた。トリスタンもジェイクに背中を叩かれて目を白黒させている。


 これ以上ここにいてもやることはないと知っていたユウとトリスタンはアーロンとジェイクに挨拶をしてからその場を離れた。西端の街道に入り、少し北に進んでから貧者の道へと曲がる。向かった先は安酒場『泥酔亭』だ。


 既に六の刻を過ぎた今は大盛況である。テーブル席はもちろん、カウンター席もだ。完全に出遅れてしまったようである。席が空くまで待つのもひとつの方法だが、今はそんな気分になれなかった。


 仕方がないので店を出る。馴染みの酒場はもう1件あるのでそこへ向かった。


 次いで足を運んだのは酒場『昼間の飲兵衛亭』だ。こちらも大盛況である。テーブル席は満席で、その多くが冒険者が占めていた。どの顔も明るい。成果を上げたことはすぐにわかった。


 今のユウには彼らが少し薄情に思えるが、別にあの騒いでいる冒険者たちが悪いわけではない。単にユウが感傷にひたっているだけだ。そこでアーロンが先程言っていたことを理解する。確かに気持ちが死傷者に引っぱられても良いことなどない。関係のないことで怒ったり泣いたりしても自分の心がひどくなる一方でしかないのだ。


 相棒と共にカウンター席へと向かう。ほとんど埋まっていた。空き席は3席あるがどれも飛び飛びである。


 仕方なくトリスタンと別れて座ることにした。改めて空いている席を見る。すると、その周囲の客も自然と目に入った。明るい表情の者もいるが、暗い顔の者もいる。


 通りかかった給仕女に注文を告げると暗い顔をした男の隣に座った。そうしてカウンターにじっと目を向けながら耳をそばだてる。


「はぁ、だからやめようって言ったのに」


 断片的にしか語らない男はたまに木製のジョッキを傾けながらひたすら頭を垂れていた。その雰囲気はひたすら暗い。


 届けられた料理を食べながらユウはその男の言葉を聞き続けた。どうやら夜明けの森でパーティメンバーが死んでしまったらしい。


 ある程度事情がわかるとユウは聞くのをやめた。本当に際限なく心が沈みそうだったからだ。アーロンの言っていたことはどこまでも正しい。


 黙々と手と口を動かすユウはいつも通り食事を続ける。しかし、いつもと違って料理と酒の味があまりしないような気がした。

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