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冒険者の万華鏡  作者: 佐々木尽左
第34章 冒険者ギルドの手伝い

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冒険者たちを支える仕事

 森の巡回の仕事に関する新たな契約を結んだ翌朝、ユウとトリスタンはいつも通り二の刻に起き、夜明けの森へと向かう準備を進めた。最近は日の出の時間が早くなってきているので少し忙しくなっている。


 2人は用意ができると宿を出た。路地から貧者の道へ、そして冒険者ギルド城外支所へと向かう。建物の北側の原っぱに巡回の仕事をする冒険者風の人々が集まっていた。


 その中からユウはアーロンとジェイクを探し出して声をかける。


「おはよう、アーロン、ジェイク。だいぶ暖かくなってきたよね」


「さすがに5月だからな。暖かくもなるだろうさ」


「ここに集まっている人で全員なのかな?」


「もうちょい集まるはずだ。まぁ、日の出まで待ってりゃいいさ」


 のんきに立つアーロンが首を鳴らした。そのまま体を軽く動かす。


 ユウの隣に立つトリスタンは近くを通り過ぎて行く冒険者たちに目を向けていた。しばらくするとジェイクに話しかける。


「昨日よりも落ち着いた連中が多いよな?」


「慣れた連中だね。昨日の駆け出しの連中が森に入ってどうなったのかを確認して、今日から奥へ行くんだ」


「駆け出しを囮に使ったのか?」


「言い方は悪いがそうなるね。昨日の城外支所の壁際に1人2人で立ってたヤツや、南側の原っぱに寝かされていた負傷者の様子を見てたのは、そんな熟練の連中だよ」


「結構えぐいことしてんだな」


「情報にどれだけ敏感なのかも冒険者にとっては重要なんだよ」


 説明を聞いたトリスタンが顔をしかめた。更に言うと、先輩との繋がりがある駆け出しの冒険者は止められるか、森に入るにしてもある程度助言を受けている。本当に手ひどい目に遭うのは周囲との関係が薄いパーティや欲に駆られたパーティというわけだ。


 これに関してユウはよく知っている。かつてはアーロンのパーティに入っていたのでこの手の難は避けることができた。こういった面でも非常に恵まれていたのだ。


 参加する他の職員や現役冒険者たちとも話をしながら4人が暇を潰していると、城外支所の建物から職員が2人出てきた。1人は羊皮紙を持ち、もう1人はたくさんの縄製のたすきを持っている。


 全員がその周囲に集まると、羊皮紙を持った職員が今日の割り当てを森の巡回をする者たちに告げていった。できるだけ広い範囲を警邏するため、大雑把にでも範囲を決めておくのだ。


 担当範囲を告げられた者たちは大体4人がひとまとまりで、もう1人の職員から縄製のたすきを受け取ってそれを肩からかけた。そうして森へと向かってゆく。


「次、アーロンの組! 森の際から南西に鐘1回分の一帯を巡回せよ!」


「よっしゃ! ジェイク、ユウ、トリスタン、行くぜ!」


 呼ばれたアーロンが元気に返事をすると別の職員から縄製のたすきを受け取った。それを肩からかけるとそのまま森へと向かう。その様子を見ていたユウとトリスタンもジェイクに続いて縄製のたすきを受け取った。


 森の際で虫除けの水薬を顔と手に塗ると4人は中へと入る。冬のときとは違ってそこまで冷えていない。ただし、森の外に比べると湿り気は強くなった。


 鐘1回分だけ森の中を歩いた後、4人は本格的に巡回を始める。この辺りは担当範囲でも森の際に最も近い。そのため、出会う冒険者たちも相応の者たちばかりだった。




 森の巡回を始めてしばらくした後、ユウたち4人は前方で争う音を耳にした。この夜明けの森では珍しくないことであり、一般の冒険者なら横取りしたしないと揉めることを避けるために近づかないこともある。だが、今の4人はその性質上、念のために確認する必要があった。


 先頭を歩くジェイクの先導で戦闘音がする方へと4人は向かう。すぐ近くの木陰まで寄って前の光景を窺った。すると、4人の冒険者たちが5匹の小鬼(ゴブリン)と戦っている。その近くに地面には既に1匹が倒れて動かなくなっていた。


 4人の冒険者たちの戦いぶりは非常につたないものだ。全員が全力で戦っているのはわかるが、武器の使い方や体の動かし方が素人丸出しである。1対1でも苦戦するのは当然に思えた。その中でも1人、声を出して戦っている少年の戦いぶりはまだましだ。見れば他の3人に指示を出している。


「随分と初々しいなぁ。ユウも最初はこんな感じだったぜ」


「懐かしいな。目の前の1匹に必死で戦っていたよな」


 優しげな顔をして目の前の戦いを見守るアーロンとジェイクの会話にユウは居心地が悪くなった。駆出しの頃は誰だってつたないものだが、それを後年になって持ち出されるのは何とも気恥ずかしい。ユウがちらりと隣に目を向けると、トリスタンがにやにやと笑っていた。


 何とか話題を逸らそうとユウは小声でアーロンに話しかける。


「この辺りで小鬼(ゴブリン)が6匹は多くない?」


「今の時期だから増えたのか、別々の群れにたまたま同時に襲われたんだろうな。まぁ、珍しいことじゃねぇよ」


「お、1匹倒したな」


 同じように眺めていたトリスタンが小さく声を上げた。ユウが前方に目を向けると、最もましな戦いぶりの少年が戦っていた2匹のうち1匹が地面に倒れているのを目にする。


「こりゃ大丈夫そうだな。別の所へ行こうぜ」


 戦いの峠は越えたと判断したアーロンが他の3人にこの場の離脱を促した。冒険者は基本的には自己責任である。余程の事情がない限りは手出しをしてはいけないのだ。


 その後も4人は森の中を進んでゆく。襲ってくる魔物は倒すと収入になるので片っ端から殺していった。もちろん討伐証明部位はその都度そぎ取る。


 次に異変を察知したのは昼休憩の後だった。アーロンを先頭に森の中を進んでいると右手前方から騒ぎ声か争う音のようなものが聞こえてくる。


「アーロン、あれって何の音だろう?」


「あんまり良くねぇみてぇだな。もしかして逃げてるヤツがいるのかもしれん」


 ユウの質問に答えたアーロンが難しい顔をしながら先を急ぐ指示を全員に出した。緊急性が高いと判断したのだ。


 小走りで音のする方へと向かうと、果たしてアーロンの予想通りだった。4人の冒険者たちが犬鬼(コボルト)8匹に追われている。


「ちとまずいな。とりあえずあの犬鬼(コボルト)を引きつけるぞ。ユウ、トリスタン、あの犬ころに突っ込め。ジェイク、逃げてる連中を保護するぞ」


 指示を下されたユウとトリスタンはまっすぐに魔物へと突っ込んだ。奇襲を仕掛けるのではなく強襲だ。できるだけ気付かれるように動く。すると、犬鬼(コボルト)が次々とユウに向かって反転した。


 魔物の強さ自体は大したことがないので2人は接敵次第順番に犬鬼(コボルト)を倒していく。こうして6匹はあっさりと動かなくなった。


 残る2匹を探すために周囲へ目を向けたユウはアーロンが倒していたことを知る。ジェイクはその奥で逃げていた冒険者たちに話しかけていた。


 事情を聞いたところによると、最初に4匹の犬鬼(コボルト)を見つけて仕掛けたところ、直後に別の方角から4匹に襲われて混乱してしまったらしい。幸い、大した怪我はないようだが、すっかり意気消沈している様子だった。


 そんな冒険者4人に対してアーロンが声をかける。


「失敗は誰にでもある。今日のところは一旦町に帰って休んだらいい。なぁに、間引き期間はまだ始まったばかりだ。落ち着いてからまた好きなだけ稼げばいいさ」


 とりあえず落ち着いた様子の冒険者4人はアーロンの言葉にうなずくと、町に向かって歩いて行った。被害がなくて何よりである。


 助けた冒険者を見送ったユウたち4人は巡回を再開した。相変わらず4人が魔物に襲われる頻度は高めだが、それを意に介さず倒して進む。


 やがて一通り巡回を終えた4人は町への帰路についた。大きな事件もなく1日が終わろうとしていることにユウは安心する。


 ところが、その安心はまだ早かった。町を目指していたユウたちの背後から何者かが大きめの音を立てて近づいて来たのだ。上げている声から人間であることがわかる。


「なんか焦っているみたいだな」


「まだ1日は終わらないみたいだね」


 訝しげな顔をするトリスタンにジェイクが小さくため息をついた。


 近づいて来ている者の正体はすぐに判明する。やはり冒険者だった。しかし、3人のうち1人は肩に担がれながらぐったりとしている。見れば太股から血を流していた。


 立ち止まったまま待ち構えていたユウたちはやって来た冒険者たちに助けを求められる。魔物の不意打ちを受けて1人が死亡し、慌てて逃げてきたらしい。


 負傷者が治療もされていないことに気付いたアーロンがジェイクに命じて手当をさせる。ユウとトリスタンは少し奥に進んで警戒だ。


 応急処置を終えた負傷者を肩で担いでいた1人に背負わせ、ユウたちは足早にその場を去る。後は時間との勝負だ。


 こうして、ユウたち4人の1日は最後まで慌ただしいまま終わった。

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― 新着の感想 ―
懐かしいですねえ、棍棒のユウ!
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