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冒険者の万華鏡  作者: 佐々木尽左
第34章 冒険者ギルドの手伝い

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今月の仕事の依頼

 今年も5月がやって来た。アドヴェントの町にいる冒険者にとって1年で最も大きな祭と言える魔物の間引き期間だ。魔物の現われる数が本格的に増えるため、それをアドヴェントの冒険者が間引くのである。


 尚、この期間が冒険者たちに特別視されているのにはもうひとつ理由があった。それは、間引きに参加するため事前に城外支所で登録しておくと、魔物の討伐証明部位の換金額が5割増しになるのだ。熟練の冒険者パーティになるとこの1ヵ月で何ヵ月分も稼ぐ。みんなそうなるように頑張るのだ。


 月が変わった初日、気の逸っている駆け出しの冒険者を中心に夜明けの森へと多数の者たちが入って行った。冒険者が寝泊まりする宿屋街から冒険者ギルド城外支所、そして原っぱを経て森までがいつもよりも騒がしい。日の出前である二の刻前からだ。


 そんな騒然としている宿屋街の一室で生活しているユウとトリスタンもその雰囲気は知っていたが、まったく無視して寝台で眠っていた。この冒険者の祭に参加していないからである。そうして二の刻からしばらくした後の日の出で起きた。


 朝の準備を終えたユウが執筆を始める。その後ろでトリスタンが寝台に横たわって二度寝を決め込んだ。外は騒がしくも、室内は静かだった。


 三の刻になるとユウはペンを置いてトリスタンを起こす。


「トリスタン、時間になったから行こうか」


「おおぅ、もうか。捜索の仕事の翌朝はいつもこんなんだな」


「先月はそうだったよね。でも、今月はまた違う仕事をするから」


「あ~、だるい。しんどい。さて、行くか」


 寝台から起き上がったトリスタンは背伸びをしながら思ったことをそのまま口走った。そうしてすっきりとした顔でユウに続く。


 宿を出たユウとトリスタンは冒険者ギルド城外支所へと向かった。ある程度落ち着いた路地を歩き、貧者の道に出ると西へと曲がる。城外支所はすぐの所だ。


 建物内はいつも通りである。魔物の間引き期間はアドヴェントの冒険者にとって最大の行事だが、すべてではない。他の仕事を引き受けたり何らかの相談を持ちかけたりする者も当然いる。


 そんな者たちの間を縫って2人はロビーを突っ切った。目指すは朝からやる気のない態度を見せて当然としている受付係である。


「おはようございます、レセップさん」


「来たか。昨日の今日でご苦労なことだな。もう何日か休んでてもいいんだぞ」


「何日か休むとしても、契約を早めに結んでいて悪いことはないでしょ」


「真面目だねぇ。まぁその通りなんだが。昨日の疲れは残ってねぇのか?」


「思いきり残っていますよ。ですから朝の鍛錬を今日はしていません」


「意味がわからん。まぁいいか。これからお前ら2人に結んでもらう契約は森の巡回の仕事についてだ。ただし、3月のときとは内容が違う。魔物の間引き期間用の契約だ。これは前に話したよな」


「苦戦しているパーティの支援、撤退しているパーティと魔物の引き離し、負傷者の保護と後送などでしたか」


「おー覚えてたか。結構なことだ。まとめて言えば、間引きに参加してる冒険者の後方支援だな。それを期間中にしてもらう」


 しゃべりながらレセップが受付カウンターの奥から羊皮紙を2枚取りだした。それを2人に差し出す。


「今回もアーロンとジェイク2人と組んで4人で巡回してくれ。報酬は1人1日銅貨3枚で、巡回中に狩った魔物は自分たちのものにしていい。経費は冒険者ギルド負担だ。明日の日の出頃に城外支所の北側の原っぱで2人と落ち合うんだぞ。ま、あんまり前と変わんねぇな」


「今回はジェイクも来るのか。前の巡回のときはアーロンだけだったよな?」


「今回の仕事内容が内容だけに、3人だと頭数が少ないことがあるんだよ。魔物と戦うときだけでなく、負傷者の保護と後送も人手がいるからな」


 首を傾げるトリスタンにレセップが4人である理由を説明した。森の各地にできるだけ巡回員を配置したいが、1パーティの人数が少なすぎると充分な後方支援ができなくなってしまう。冒険者ギルド側もなかなか苦しい判断を迫られているのだ。


 契約書に名前を書き込んだユウがその羊皮紙をレセップに返しながら問う。


「ジェイクは昨日つらそうにしていましたけれど、明日大丈夫なんですか?」


「知らねぇ。あいつ自身がどうにかするだろ。それだけの知見があるヤツなんだからな」


「明日の朝に原っぱへ来てなかったら、そういうことだ」


「6日巡回して1日休みだもんなぁ。しかもそれが1ヵ月」


「更に前より魔物が増えてるときやがる。去年の冬から増加しっぱなしの上にだ」


「そういえば、僕が昔参加したときは魔物の間引き期間が延長しましたよね、魔物が増えたから。もしかしたら、今回もその可能性があるんじゃないですか?」


「夜明けの森次第だろな」


「知り合いの冒険者が言っていましたけれど、今年はあんまり奥に行けないかもしれないってぼやいていましたね」


「熟練でもそうなら、駆け出しは尚更だな。今朝入った連中はどうなるんだか」


 今朝宿屋街の路地を賑わせていた者たちのことをユウは思いだした。あのうちの何人かは確実に死傷する。できるだけそれが軽いものになるよう祈るしかなかった。


 ユウとレセップが話をしていると、横からトリスタンが入ってくる。


「ところで、昨日捜索して発見した殺人蜂(キラービー)の巣はどうするんだ? 魔物の間引き期間は今日からだから間に合わなかったわけだが」


「場所がはっきりとしたんだから、とりあえずは冒険者に警告して回避させることにした。あれの駆除は間引き期間が終わってからだな」


「その間に数が増えるんじゃないのか?」


「ある程度はしゃーない。それに、今募集をかけても人が集まんねぇのはわかってるからな。1匹鉄貨8枚だなんてほぼ最安値の魔物を好んで狩りたがるヤツなんてそうはいねぇだろうし」


「魔物の間引き期間が終わった直後だと、みんな懐が温かくなって応募してくれないんじゃないのか?」


「そこは何とかなるもんだ。怪我で脱落したヤツ、パーティが壊滅したが生き残ったヤツ、充分稼げなかったパーティ、もっと稼ぎたいパーティ、常に事情を抱えたヤツなんてこの辺りにゃいるもんだぜ」


 にやりと笑うレセップにトリスタンは顔を引きつらせた。貧すれば鈍するではないが、余裕がなくなると手当たり次第に稼ごうとする者はいる。そういう者たちを集めて送り込むわけだ。


 その話を聞いていたユウは魔物の間引き期間後の募集には絶対に応じないと心に決める。同時に先月知り合いと話していたことを思い出した。それについて尋ねてみる。


「レセップさん、森の中に拠点を作ることはないんですか? 例えば、森の奥に3日くらい入った所に柵で囲った拠点を作って、そこでみんなを休憩させたり、負傷者を治療したり、消耗品を売ったりするんです。そうしたら、もっと奥に行くのも楽になると思うんですよ」


「確かに冒険者からするといいことずくめだが、それを作った後に維持するのが大変なんだ。人は常駐させる必要があるし、物資も常にある程度貯めておかなきゃならん。だが、一番の問題は常に魔物の攻撃を受けることなんだよ」


「え、魔物の攻撃を受けるんですか?」


「そうだ。昔、お前と同じことを考えて実行したことがあったんだ。すると、連日魔物に襲撃されて最後はその拠点を放棄することになったらしい」


「ユウの体質に似ているな」


 隣のトリスタンのつぶやきを聞いたユウは目を見開いた。確かにその通りだ。


 レセップが更に話を続ける。


「夜明けの森はなぜか森の中に人工物を作ると目の敵にする。だから、拠点は作れないんだ」


「そうだったんですか。どうりで誰もやらないわけですね」


「拠点が作れたらいくらでも奥に入れるんだがな、そううまくはいかねぇんだ」


「森の中に作れたら便利かなと思ったんですけれどね。魔物に襲われるのなら駄目かな」


 意外な事実を聞いたユウは目を丸くした。試せることは先人が既に試していたというわけだ。なかなかうまくいかないと肩を落とす。


「別に思い付くことは悪くねぇんだ。そう気を落とすな。何か思い付いたことがあったら、また教えてくれりゃいい」


「はい、わかりました」


「他に何かあるか? なければこれで終わりだ」


 話すだけ話したユウとトリスタンは用が済むと城外支所の建物から出た。以後仕事は特にない。なので、ここからは自由行動だ。ユウは宿へ戻り、トリスタンは市場に向かう。


 借りている部屋に戻ったユウは背伸びをひとつすると木窓を開けて椅子に座った。机の上に置きっぱなしだった羊皮紙の上にペンを走らせる作業を再開する。これから1日かけて自伝を書くのだ。


 次第に暖かくなっていく室内でユウは機嫌良く羊皮紙に向き合った。

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― 新着の感想 ―
同じ感じなら、木の上にツリーハウス作れば攻撃されなさそう
話数が更新されても話が進んだ感じがしない 旅してる時や新キャラ2人が出てきたのは良かったのに 今は物語がなくてワクワクしない 日々の日銭稼ぎを長々読みたいわけじゃない もちろん毎日更新はありがたいです…
ユウは人工の建造物だったんですかw 冒険者ギルドもやろうとしたことがあったんですねえ。 意外とお金かけてる!ダメでしたけども。
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