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冒険者の万華鏡  作者: 佐々木尽左
第34章 冒険者ギルドの手伝い

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魔物の間引き期間を控えた知り合いたち

 厄介な魔物の巣を捜索することに力を入れた4月は、ユウとトリスタンにとっては同時に重要な休息期間でもあった。5月の魔物の間引き期間は相当忙しいと聞かされているため、気力体力を消耗したまま突入しないようにするためだ。そのため、日数だけ数えてみると2人は4月の半分以上を休んでいたことになる。


 ただ、そうしないと4月中の捜索をこなせなかったという事情もある。特にユウは魔物を引きつける役なので仕事が終われば数日の休養が必要だった。


 そんな2人の休暇の過ごし方は大体決まっている。ユウは自伝の執筆で、トリスタンは市場巡りだ。町の中での遊びを控えたトリスタンが最近気に入っている娯楽である。たまに賭場に行ったり娼婦を買ったりしているが、いずれも町の外だ。おかげで懐事情は大きく改善したという。ユウもこれで一安心だ。


 ある日、四の刻の鐘が鳴るのを耳にしたユウは酒場『昼間の飲兵衛亭』へと向かった。中に入ってカウンター席へと向かいながら店内を見渡す。出遅れたせいもあり大変盛況だ。そんな賑わうテーブル席のひとつに見知った3人の顔を見かける。


「クリフ、エディ、ブラッドじゃない」


「おう、ユウか! 今からメシか? こっちに来いよ!」


 木製のジョッキを掲げたクリフがユウを誘った。その誘いに応じてユウは空いている席に座り、給仕女に注文すると他の3人に顔を向ける。


「いよいよ魔物の間引き期間が近いけれど、みんなのパーティはもう備えているの?」


「そうだな。知り合いと話し合いをして合同パーティを組む話をまとめたり、武器や防具を直したり、足りない物を買ったり、結構忙しいね」


「オレんところもだな。銅級の慣れた連中と鉄級の駆け出しを混ぜて今年はやるぜ」


「ブラッドのところもか。クリフのところはどうなんだ?」


「同じだな。自分たちの稼ぎと後輩の面倒を天秤にかけたらそうなった」


 ユウが振り向けた話題がきっかけとなって3人が合同パーティについて話し始めた。どこも利益としがらみを秤にかけて魔物の間引き期間に挑もうとしている。そこには人をまとめる者としての貫禄があった。


 感心しながら届けられた料理と酒を口にしているユウにブラッドが話を振ってくる。


「お前はどうすんだ?」


「僕たちは冒険者ギルドの仕事を引き受けることにしたよ。だから裏方として働くことになるかな。場所は日帰りできる場所辺りになるはず」


「となると、森の巡回ってやつか。あれには参加、できねぇんだったな、お前」


「だから引き受けたんだよ。森の浅い場所でも今の僕なら巡回中にある程度魔物に襲われるだろうから、稼ぎもとりあえずあるだろうしね」


「厄介なもんだよなぁ、お前の体質」


 魔物の間引き期間に参加できない理由を思い出したブラッドが小さく首を横に振った。それから木製のジョッキに口を付ける。


「みんなの話を聞いていると、今年は3パーティで合同しないんだね」


「魔物の数がこう多くちゃ難しいぜ。駆け出しにとっては来月は試練だからな」


「稼ぎ時ではなくて?」


「そうやって喜んでるうちはまだまだ青いもんだ。今年は俺たちでも例年みたいに奥へ行けるか怪しいからなぁ」


「いっそのこと、森の中に寝泊まりできる拠点を作って10パーティくらいで運営すれば良いんじゃない? 3日か4日くらい奥のところに柵を作って囲むんだ」


 飲みながら話すクリフにユウは思い付いたことを披露した。かつて探険隊が遺跡を探索するときの拠点を参考にしたのだ。


 それに対してクリフが微妙な表情を浮かべてエディに目を向ける。


「悪くない案だと思う。問題があるとすれば、オレたち冒険者が拠点を作れないって点かな。必要な資材を買うカネもないしね」


「あーそうかぁ。うーん、やっぱり駄目かぁ」


「でも、案は悪くないと思うね。いっそ冒険者ギルドが作ってくれたらいいんだけどな」


「今まで誰も冒険者ギルドに言った人はいないのかなぁ」


 必要な物があれば積極的に発言すれば良いのにとユウは首を傾げた。少なくともユウにとっては遠慮する理由などない。レセップなりアーロンなりに相談するだろう。


「なら、ユウが言っておいてくれよ。お前の話なら真剣に聞いてくれるかもしれないぜ?」


「聞き流されるんだ」


「そりゃオレたちの言うことを一から十まで全部やってたら、冒険者ギルドなんてとっくの昔に潰れてるぜ。だから大抵は無視されるんだよ」


「それだと僕の話も聞き流されるんじゃないかな?」


「わからんぜ? 何しろお前はあのレセップを働かせてるんだからな!」


「そりゃ言えてるな!」


「あれはあれですごいんだよな」


 ブラッドの主張にクリフとエディが賛同した。今まで何度も言われているが、レセップはそこまで働かないのだろうかとユウは首を傾げる。ただ、働かずにぼんやりとしているところしか思い付かなかったので、それ以上考えるのをやめた。


 この後も色々と4人で話をする。仲の良い知り合いとの話はかなり弾んだ。




 近頃のユウは夕食を遅めに食べている。理由のひとつとして自伝を書くためだ。日照時間が長くなってきたので執筆時間が延びてきたわけだが、日没が七の刻に迫ってきていることもあって六の刻以降も書き続けているのである。そのため、更に書き慣れてきたこともあり、以前よりもたくさん書けるようになった。それが嬉しくてつい書いてしまうのである。


 この日も部屋が暗くなり始めるころまでペンを走らせていたユウは七の刻近くに安酒場『泥酔亭』へとやって来た。この頃になると客の数はすっかり減っていて空席が多い。


 どこにでも座りたい放題という状況であるわけだが、席を選ぶ前にユウは酔客に呼ばれる。そちらへ顔を向けると見知った4人がテーブル席に座っていた。狂犬(クレイジードッグ)の面々である。


「おーい、ユウ! こっちこっち!」


「デレクじゃない。今日は遅くまでいるね」


「いやこんなもんだって。一緒にしゃべろうぜ! また大陸一周の話を聞かせてくれよ!」


 目を輝かせたデレクがユウを誘った。わずかに苦笑いしたユウがその誘いに乗る。安定して並以上を稼げるようになったデレクたち4人は春辺りから安酒場『泥酔亭』に通うようになったのだ。そのため、ユウと出くわす機会が増えたのである。


 この4人の現在のお気に入りはユウの大陸一周の話だ。やはり冒険者なだけあって冒険譚に目がないのである。ユウも語り慣れている大陸一周の話は相手との距離を縮める話題なので乞われれば話した。


 夕食を食べながら話をしていたユウは話に一段落付けると、今度はデレクたちに話題を振る。


「来月は魔物の間引き期間だよね。みんなは参加するの?」


「当然するさ! 稼ぎ時だもんな!」


「換金額が増えるからやらない手はない」


「たくさん食べられるようになるのは大切だもんな」


「とーぜんですよぉ、普通ならやりますって、みんな」


 デレクを皮切りに、エドガー、グレーム、ジャレッドが続いた。普段あまりしゃべらないエドガーとグレームも即答するくらいなので期待していることがわかる。


「そういえば、みんなはあの期間に参加するのは初めてなんだよね?」


「そうなんだ。オレたちの知り合いもみんな初めてなんだよ」


「先輩と繋がりのある連中は先輩と合同パーティを組んでもらえるらしい」


「あれは羨ましいよな」


「だから、オレらも自分たちで合同パーティを結成すんすよね!」


 最後に口を開いたジャレッドが多少自慢げに語った。先輩と組めなかった駆け出しの冒険者パーティが集まって合同パーティを編成するということだ。


 それを聞いたユウがうなずく。


「良いことだと思う。今年は特に魔物が多いから、みんなで固まった方が安全だしね」


「だろ! ユウが賛成してくれんなら間違いねぇや!」


「だったら僕からも助言をひとつしよう。今年は森の浅い場所で魔物狩りをした方が良いよ」


「なんでだ?」


「銅級なんかの慣れた冒険者でも森の奥はきついってみんな言っているからなんだ。あの火蜥蜴(サラマンダー)も今年は少し浅い場所で魔物狩りをしようか考えているくらいだからね」


「マジか」


 元気に受け答えをしていたデレクが呆然とした。クリフたちは更に奥へと突っ込むと考えていたらしい。


 不安げな顔つきになった巨漢のグレームがつぶやく。


「だったら、オレたちも浅い場所の方がいいよな」


「オレもそう思う」


 精悍な顔つきのエドガーも真剣な表情でうなずいた。テーブル席の雰囲気が暗くなる。


 さすがに落ち込みすぎかなと思ったユウが悩ましげに4人の態度を見た。増長させても萎縮させてもいけない。


 その後、ユウは4人に自分が魔物の間引き期間に参加していたときのことを語った。失敗談も含めての話だったので全員が楽しみながら聞いてくれる。


 この日、ユウは閉店まで話をした。

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