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冒険者の万華鏡  作者: 佐々木尽左
第34章 冒険者ギルドの手伝い

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かなり疲れた調査の結果

 3日間におよぶ巨大蟻(ジャイアントアント)の巣の調査が終わった。ユウとトリスタンはアーロンに率いられて夜明けの森から帰還する。夕方なので周囲にも冒険者は多数いるが、ここまで疲れ切った様子の者は少ない。たまに4人に目を向ける者もいるくらい地味に目立っていた。


 森の際を通り過ぎ、原っぱに出てくるとトリスタンがつぶやく。


「やっと町に帰ってきたぞ」


「そうだね。早く1杯やって眠りたいよ」


 痛い目を見た新人冒険者のような表情のジェイクが弱々しく賛意を示した。心はもうここにはないようである。


 しかし、4人にはまだやることがあった。その最初が買取カウンターでの換金だ。なかなか膨れ上がった袋の中身をきれいにする必要がある。


 順番待ちの行列に並び、自分たちの番が回ってくると4人は買取カウンターの上に魔物の討伐証明部位をぶちまけた。そして、ユウとトリスタンが中心になって買取担当者と数を数える。その結果、銅貨でおおよそ24枚ほどあった。


 分け与えられた銅貨を手にしたジェイクがつぶやく。


「結構な額じゃないか。まるで現役時代に戻ったみたいだ」


「だろ? この2人と組むといつもこんな感じなんだぜ」


「なるほど、あんたがこの2人と組みたがるわけがわかったよ」


 手にした報酬を懐にしまったジェイクが力なく笑った。嬉しそうなのかそれとも呆れているのかわからない笑みだ。


 身が軽く、そして懐が温かくなったところで4人は買取カウンターから離れた。解体場の北側に回って西端の街道に向かって歩く。


 ユウはこのまま4人で酒場に行くものだと思っていた。ところが、冒険者ギルド城外支所の建物に差しかかったところでアーロンとジェイクが立ち止まる。


「本当はこのまま酒場に行きてぇんだが、後始末が残ってるんでオレたちは城外支所に戻るぜ。今日はもう終わりだから、お前たちは好きにしな」


「いや、ユウとトリスタンは受付カウンターに行った方がいい。そこで先に契約を完了して報酬をもらっておくんだ。そうしたら明日またここに来る手間が省けるからね」


「報酬か。確かにその方がいいな。レセップが知らねぇって言いやがったら、オレたちんところに来いと言っとけ」


「わかりました」


「じゃぁな。あ~老体にゃなかなかきつかったぜ」


 だるそうに体を動かしながらアーロンが職員用の扉を開けて城外支所へと入って行った。ジェイクも続いて扉を閉める。


 こうして2人は原っぱに残された。まだ冷たい風が吹き付けてくる。どちらともなく顔を見合わせると、2人は冒険者ギルド城外支所に入った。中は冒険者でごった返している。その中を縫うように歩いて受付カウンターに向かった。


 頬杖をしている受付係の前に立つとユウが声をかける。


「レセップさん、夜明けの森から戻ってきました」


「そりゃ夕方になったらみんな戻ってくるだろ。そんな報告はいちいちいらん」


「でも、巨大蟻(ジャイアントアント)の巣を調査する仕事が終わったんですよ」


「ということは、アーロンとジェイクも帰ってきてるわけか」


「はい、さっき職員用の扉から入って行きましたよ」


「そうか。ちょっと待ってろ」


 ユウから話を聞いたレセップが席から立ち上がった。踵を返すと奥へと向かう。


 その姿を見送っていると、ユウはトリスタンに声をかけられた。振り返って相棒を見る。


「ユウ、今回の仕事でお前の体質との付き合い方がわかってきたな」


「あれを付き合い方だとは言いたくないんだけれど、まぁ新しい発見だよね」


「まさかユウが木の上に登ると魔物の襲撃がほとんど収まるなんてなぁ」


「自分の体質がまたわからなくなったよ。これ、何がどうなっているんだろう」


「それがわかったら苦労しないんだけれどな。でも、野営で一息つけるとわかったのは大きいぞ。森に入って2日目のところならとりあえず行けるわけだ」


「そうなんだけれど、わかっても何がどうなるわけじゃないんだよね。中堅パーティとしてやっていくのなら、最低3日は森の奥に行かないといけないし」


「今度行ってみるか?」


「まだ無理だよ。今は僕たち2人しかいないんだから。僕が木の上に登ったら、トリスタンは下で1人なんだよ? 一晩中起きていないと駄目じゃない」


「あーそっかぁ」


「トリスタンも別の木の上に登って休むという方法があるけれど、あんまりお勧めできないなぁ」


 かつて別の森で活動していたときのことを思い返しながらユウは説明した。森の奥へと行くのならば最低4人は必要だ。可能なら6人である。2人は無謀だった。


 2人が雑談をしているとレセップが戻ってくる。羊皮紙と革の小袋を持っていた。革の小袋を受付カウンターに置くと席に座る。


「あの2人に今確認してきた。確かに調査は終わってるようだな。みんなでっかい蟻に随分と追いかけ回されたらしいな」


「ユウが一番ひどかったけれどな。囮役で何時間も走っていたし」


「お前いっつも損な役回りばっかりしてるよな。いい加減断ることも覚えろよ」


「僕もできれば断りたいんですが、代案が思い付かなくて」


「まぁ便利っちゃぁ便利だもんな、お前のその体質。前はそんなのなかったのによ」


「それで、あの蟻の巣はどうするんですか?」


「もちろん始末するに決まってる。駆け出しの狩り場にあんなのが居座ってちゃ邪魔だしな。すぐに討伐隊が編成されるだろうよ」


「僕たちはそっち側の参加は遠慮したいなぁ」


「お前は入らない方がいいな。倒した魔物の取り合いに必ず巻き込まれちまうから。ああいう場合は魔物なら何でも引きつけちまうその体質は逆に厄介者扱いだ」


「ですよねぇ」


 正にレセップの言うことを危惧していたユウは大きくうなずいた。求めてもいない魔物に襲われて獲物を盗られたと難癖を付けられる場面がありありと想像できてしまう。


 受付カウンターに置かれた小袋の中身を確認したユウはトリスタンとその報酬を分けた。それを懐にしまうと立ち去るために踵を返しかけたが、レセップに呼び止められる。


「お前らには来月から色々と働いてもらうつもりでいるが、どうやら今月もちょいちょい必要になりそうなんだ。魔物の間引き期間までに片付けたい件があるんでな。そこで、これからはちょいちょいこっちに来てくれ」


「レセップさんのところにですか?」


「そうだ。ここしばらくはジェイクから話を聞いてこっちで契約をしてたが、今回みたいな仕事がいくつかある。それを順次アーロンと捜索してもらいたいんだ」


「わかりました。良いですよ」


「それと、来月はかなり忙しくなるだろうから、今のうちに充分休んでおけよ」


「でも、今回みたいな仕事がいくつかあるんですよね? 僕たち充分休めるんですか?」


「それを何とかするのがお前らの仕事だろ。うまい具合に休んで働け」


「無茶苦茶だなぁ」


「そんなのはいつものことだろ」


「大金を稼げとか城外支所に使われすぎだとか僕たちに言いますけど、これも良いように使われているんですよね?」


「オレはいいんだ。わかったならさっさと行け」


 用は済んだとばかりにレセップが体を反転させた。その瞬間、町の中から鐘の音が聞こえてくる。六の刻になったのだ。


 問答無用で立ち去ってゆくレセップを見送っていたユウとトリスタンは、退出するよう伝えてくる職員の声を耳にした。本日の業務は終了というわけである。


 やることがなくなった2人は城外支所の建物から出た。西端の街道を横断して貧者の道を歩く。建物の中から追い出された冒険者たちが騒いでいるがその声も次第に小さくなっていった。


 往来する人の流れに混じった2人は東へと向かう。その最中、雑談に耽った。


 いくつかの話題を経た後、トリスタンがこれからのことを口にする。


「それにしても、これから忙しくなるのかぁ」


「しかも、来月に向けて充分休めだってね」


「できるから言っているんだろうけれど、また無茶なことを言うなぁ」


「やることがあるというんなら、しばらくは頑張るしかないんだろうね。ところで、駆け出しの冒険者の遺体はどうなったか知っている?」


「やっぱりなかったらしい。アーロンが時間がなかったからざっとしか調べられなかったとは言っていた。それでも、冒険者の証明板は持って帰ってきたと聞いているぞ」


「あ、それはあったんだね」


「証明板は食えないからな」


「魔物に殺されるなんてどんな形でも嫌だけれど、ああいう死に方もいやだなぁ」


「まったくだ。どうせならもっと真っ当に死にたいぜ」


「冒険者稼業なんてしていて無茶な望みだとは思うんだけれどね」


 しみじみと語るトリスタンの言葉にユウは苦笑いした。冒険者でも大抵の者が抱えている矛盾(ねがい)である。そして、引退しないと叶えられないことも承知していた。


 2人は貧者の道から安酒場街に入る。その姿はそのまま雑踏の中に消えた。

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