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冒険者の万華鏡  作者: 佐々木尽左
第34章 冒険者ギルドの手伝い

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体質をどう扱うのか

 魔物の巣を確認する依頼を引き受けたユウとトリスタンは翌朝冒険者ギルド城外支所へと向かった。日の出前のかすかに周囲が見えるようになったときに宿を出る。路地には夜明けの森へと向かう冒険者たちの姿が何人も見えた。その流れに紛れて西へと進む。


 2人が城外支所の建物の北側に回ると原っぱにアーロンとジェイクが立っているのを目にした。冒険者たちの流れから離れるとそちらへと近づく。


「アーロン、ジェイク、おはよう」


「おう! 最近は徐々に暖かくなってきて結構なことだな。朝起きるのが楽だぜ」


「寒すぎて早く目が覚めることもなくなったから僕も嬉しいよ」


「酒を飲んで寝たら全然そんなことにはならねぇなぁ」


「そりゃお前が鈍すぎるんだよ、アーロン」


 挨拶を交わしているユウとアーロンの横からジェイクが突っ込みを入れてきた。それを聞いてユウとトリスタンが笑う。


「まぁいい。今日の目的は巨大蟻(ジャイアントアント)の巣がどこにあるのかという確認だ。死んだ駆け出しの死体も一応仕事の範疇にあるが、2日近くも経ってるとなるともう巣の中に運び込まれてる可能性が高いだろうな」


「うわ、殺された上に餌になるのか」


「ともかくだ、被害に遭ったパーティの生き残りの証言の他も、他の冒険者から巨大蟻(ジャイアントアント)が最近よく出る場所を聞き出した結果、おおよその場所は絞り込めてる。今回はその辺りを調べるぞ」


 死んだ冒険者の末路を聞いたトリスタンが嫌な顔をしたが、アーロンはそのまま話を続けた。その際、ユウに目を向ける。


「尚、今回はユウの体質を利用する。巣のありそうな場所まで近づいたら、ユウが巨大蟻(ジャイアントアント)をその体質で引きつけ、その間にオレとジェイクが巣の様子を確認する」


「アーロン、僕の体質で蟻が寄ってくるのは間違いないけれど、巣の周りにはたくさんいるんだよね。近寄れるほど数が減るかな?」


「それはやっとみねぇとわからんな。まぁ、お前さんが巣の近くをぐるりと1周したら確実だと思うが」


 何とも気乗りしない案を持ち出されたユウは冴えない顔をした。普通に近づこうとしてもある程度以上の大きさの巣には近づけないことくらい知っている。そして、アーロンの案が割と現実的であることも理解していた。しかし、何とも言えない感情が胸の内に渦巻く。とはいっても、ユウには代替案を出せなかった。なので仕方なくだがうなずく。


 その直後、今度はトリスタンが声を上げた。やはりユウに目を向けてから尋ねる。


「アーロン、今回は森の奥へと2日間進むんだろう? 野営のときはどうするんだ? ユウの体質だと頻繁に襲われるぞ」


「一応案は考えている。今回は1人が眠って3人が夜の見張り番をこなす形にするが、その寝る1人は木の上に登るんだ」


「木の上? なんでまた」


「襲われる度に起きてたら次の日は寝不足になるだろ。そうならないよう魔物が来ても木の上でずっと寝っぱなしでいられるようにするためだ」


「でも、木の上でどうやって寝るんだ? 体を動かしたら下に落ちるぞ」


「あー、そこは各自工夫をするしかねぇな」


 今まで堂々と説明と質疑応答をしていたアーロンの歯切れが悪くなった。さすがに何も思い浮かばなかったらしい。その態度にトリスタンが困惑する。何も思い付かなければまともに眠ることもできないのだ。そこは何か案がほしいと思うのは当然だろう。


 話を聞いていたユウは1人で旅をしていたときのことを思い出した。遺跡で転移する前の町で薬草採取の仕事を森の中でしていたときのことだ。最初は1人で活動していたため、森の中で眠るときは木の上に登っていた。これは役に立つと思い、口を開く。


「みんな、木の上で眠るときは自分の体と木の幹を縄で縛っておけば落ちないよ」


「やけに自信ありげに言うじゃねぇか。やったことあるのか?」


「まだ1人旅をしていたときに別の森でね。寝心地は悪いけれど、木から落ちることはないよ」


「お前さん、何でもやってんだなぁ」


 解決策を提案したユウはアーロンに感謝されつつも呆れられた。それはトリスタンやジェイクも同様で、3人とも似たような表情を浮かべている。


 何となく面白くないユウだったが、そんな当人の気持ちを置いて夜明けの森へと出発することになった。アーロンを先頭にジェイク、トリスタン、ユウと続く。


 虫除けの水薬を体に塗った4人は森に入った。全員森に慣れているので滑らかに歩いてゆく。目的は魔物狩りではないため、周囲を警戒しつつも速度優先で進んだ。


 何度かの小休止を経た後、魔物が少しずつ一行を襲うようになった。森の浅い場所なのでその質も量も大したことはない。4人は時間をかけずに倒し、手早く魔物の討伐証明部位をそぎ取った。


 昼休憩を経た後もアーロンを先頭に一行は森の中を進む。魔物の襲撃は少しずつその回数が増えていくが障害とはならない。この辺りは熟練冒険者の貫禄であろう。


 森の中が薄暗くなる頃、4人は野営をすることにした。ユウの意見を参考に眠りやすそうな枝を生やした木を選ぶ。


「この木の枝なら登れるし、高さもあるから魔物は飛んでも届かないし、枝が太いから折れることもないね。後は、幹にぴったりと体を付けて縄でしっかり結べば眠れるよ」


「さすが経験者、目の付け所がちげぇな!」


「ユウ、みんな木を登れるのか?」


「アドヴェントの町出身の冒険者はほぼ全員できるはずだよ。貧民のときに獣の森で散々登っていたからね」


「眠るためにか?」


「丸腰で入る人が獣に襲われたときに逃げるためだよ」


 思った以上に深刻な理由を聞いたトリスタンが目を剥いた。アーロンとジェイクは何でもないという様子で2人の話を聞いている。


 焚き火を始め、夕食を食べ、襲ってきた魔物を撃退した4人には、いよいよ眠るときがやって来た。アーロンが他の3人に声をかける。


「それじゃ寝るか。順番だが、ジェイク、トリスタン、オレ、ユウにするぞ」


「アーロン、オレが最初なのか?」


「お前、途中からへばってきてただろ。あの2人には隠せてもオレにゃわかるぜ」


「はは、歳のせいもあるんだろうが、ここ数年は城外支所で講習ばっかりだったからな。こういう本格的な活動になるときつくなるようだよ」


「まぁしゃぁねぇよ。誰だってそうなる。オレも動けるのはあと何年もねぇだろうさ」


 寂しそうに笑ったジェイクが肩をすくめてから木の幹に取り付いた。そうして枝のある場所まで登ってゆく。体力は衰えても木登りするくらいは問題ないようである。


「さて、オレたちは夜の見張り番だ。間違いなく何度も襲ってきやがるからな。気合い入れて迎え撃てよ!」


「先に謝っておくよ、ごめん」


「はは、別にいらねぇよ。承知の上で引っぱってきたんだからな」


 楽しげに笑いながらアーロンは木の幹の反対側に向かった。それを見たユウは焚き火の近くにトリスタンを残して別の方へと歩く。


 その後、4人は順番に眠りつつ夜の見張り番をこなした。予想通り魔物の襲撃は通常よりもかなり頻繁に発生する。1度の戦闘は大したことないのだが、それが重なって疲労の色は濃くなっていった。


 翌朝、周囲がうっすらと明るくなってきた頃に全員が焚き火の元に集まる。そうして手早く朝食である干し肉と黒パンを囓った。


 その間雑談が交わされるが、トリスタンが昨晩の見張り番についての話題を振る。


「夜の見張り番なんだが、ユウがいないときだけ魔物の襲撃が少なくなかったか?」


「やっぱお前もそう感じたか。明らかに違ったよな。ジェイクはどうだった?」


「オレもそう感じた。ユウの体質の影響は高さに関係あるのかもしれないな」


「意外だな。どこであっても関係ないと思っていたんだが」


「だが、どうもそうじゃねぇらしい。こりゃぁ、ユウを一晩中木の上に縛り付けてりゃ森の奥に行けるかもしれねぇなぁ」


「現状だとそうなるね」


「えぇ」


 意外なことを発見したと3人が興奮気味に話しているのを見たユウは困惑した。そもそもそこまでして自分を同行させる意味が果たしてあるのかという点が気になるが、今回はこの議論に意味があるので口を挟めない。


「魔物の襲撃がヤバくなってきたら、ユウを木の上に上げちまおう。今はとりあえずそのくらいでいいだろうぜ」


「そうだな。この辺りならまだ対処できるだろうから、深く考えなくてもいいと思う」


 今回の仕事を主導するアーロンとジェイクが最終的に話をまとめた。とりあえず現状はそのままということになる。無理をするような状況にはなっていないからだ。


 食事が終わると焚き火がかき消された。全員が自分の荷物を背負っていく。


 準備が終わるとアーロンを先頭に4人は歩き始めた。周囲はある程度視界が利くようになっている。


 一列縦隊で進むアーロン一行はほぼ迷うことなく森の中を進んだ。

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