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冒険者の万華鏡  作者: 佐々木尽左
第34章 冒険者ギルドの手伝い

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聞き取り調査の報告

 聞き取り調査を終えた翌朝、ユウは二の刻に起きた。朝晩は相変わらず寒いが以前ほどではない。春は確実に近づいて来ているのだ。


 外出する準備を整えたユウは鍛錬を始めた。ゆっくりと体を動かして徐々に体を温める。激しい動きはその後だ。軽く汗が出るまで続ける。それが終わると朝食を済ませた。


 この頃になってトリスタンが起き上がってくる。そうしてユウに遅れて外出の準備を始めた。


 日の出と共にユウは自伝の執筆を始める。聞き取り調査の報告以外、今日は休みなので少しでも進めておくのだ。


 三の刻になると2人揃って宿を出た。向かう場所は冒険者ギルド城外支所である。早朝よりも往来が落ち着いた路地を抜け、貧者の道に出るとまっすぐに向かった。


 城外支所の建物の中は相変わらず騒がしい。いくつもある行列の背後を突っ切って目的の受付係の元へと歩く。相変わらず頬杖を付いてぼんやりとしていた。


 受付カウンターの前に立ったユウが声をかける。


「おはようございます、レセップさん」


「今日は何の用だ?」


「先週引き受けた冒険者への聞取り調査の報告をしに来ました」


「あーそんなもんもあったなぁ」


「随分と気が抜けていますね。ここで報告しても良いんですか?」


「他人に聞かれるとまずいことはあるか?」


「たぶんないと思います」


「だったらここでいい。話してくれ」


 相変わらずやる気のない態度で言われたユウは多少戸惑いながらも報告を始めた。トリスタンの分もまとめて伝える。


 報告にあまり時間はかからなかった。成果がほとんどなかったからである。話していて知っていることばかりだなとユウは思い、レセップならすべて知っているだろうと予想する。かかった経費の金額だけ気が重たかった。


 2人分の調査報告が終わるとレセップがあくびをする。


「うん、まぁそんなもんだろうな。大体予想通りだ」


「報告の内容は最初からわかっていたんですか?」


「具体的に全部予想できたわけじゃないぞ。でも、冒険者が何かご大層なことを知ってたら、そんなのはすぐに噂として広まってるはずだ。そして、それを聞き漏らすほど城外支所はまだ耄碌してねぇよ」


「なら、この調査って一体何のためにやらせたんですか?」


「何もないっていう裏取りだよ。いろんな情報源から情報を集めて、それを持ち寄って分析するんだ。これ以上はこっちの仕事だから以後の説明は省略するが、必要な仕事であることは間違いねぇよ。優先度は低いが」


 慰めになっているような、しかしやはりなっていないような言葉を受けたユウは困惑した。役立ってはいるが大したことはないと言われてもどう受け止めて良いのかわからない。


 同じく話を聞いていたトリスタンが次いでレセップに話しかける。


「仕事ぶりに問題がないのなら、報酬と経費を支払ってもらえるか?」


「ああそうだったな。で、結局経費はいくらになったんだ?」


「金貨1枚と銀貨4枚、それと銅貨2枚だ」


「やけに使ったじゃねぇか。結構豪遊したんだな。まぁ経費で落ちるならオレもやるが」


「金貨1枚はユウが使ったんだ。なんでも駆け出しに連日たかられたらしいぞ」


「何やってんだ、お前」


「何って、調査ですよ。ただ、みんな飢えた獣みたいに延々と食べて」


「そりゃ駆け出しなんて飢えてるからそうもなるだろう。お前、自分のときを思い出さなかったのか?」


「あーうん、そういえば」


 レセップに指摘されたユウは冒険者になりたての頃を思い返した。そういえば、最初の1年間はアーロンたち4人に酒場での食費を出してもらっていたことを思い出す。あれは早く装備を調えろということだと長らく思っていたが、どうもそれだけではなかったようだ。あのときは確かに食べたいだけ食べていた。今から思うと本当に好きなだけ食べていたし、食べさせてもらっていたのである。


 本当に今になって師匠たちがやってくれていたことをユウは理解した。これがわかっていなかったからこそ、デレクたちの食べっぷりに動揺したのだ。


 ため息をついたユウが気まずそうな顔をする。


「今思い出しました。思いきり食べてましたね」


「だろ。まぁ、自分の若い時なんてみんな忘れるもんだ。しょーがねぇよ。次からは気を付けるんだな」


「で、報酬と経費は?」


「まぁ落ち着けよトリスタン。今ちゃんとくれてやるから」


 受付カウンターの裏で何やら手を動かしていたレセップが少しの間を置いて小袋をカウンターの上に置いた。トリスタンが自分の報酬と経費を抜き取って小袋をユウに手渡す。


 中身を確認したユウはそれを懐にしまった。これで今回の仕事は完了だ。


 後は帰るだけだが、トリスタンがレセップに質問を投げかける。


「あと1ヵ月ちょいで魔物の間引き期間になるが、その間に何かやることはあるのか?」


「あるかないかで言えばやる事なんぞ山のようにあるぞ。雑用も含めればいくらでもな。なんだ、やりたいのか?」


「最近ジェイク経由で城外支所の仕事をよくやるようになっただろう。だからまた何か言われるのかなと思ったんだ。事前に知っておけば心の準備ができるしな」


「そういえば、お前ら今年に入って城外支所の仕事をよくするようになったよな。そういうことなら、今のところ森の巡回を考えてるぞ」


「あーそれかぁ」


 話を聞いたトリスタンが渋い顔をしてユウを見た。それを受けてユウがレセップに話す。


「この前森の巡回の仕事を引き受けたんですが、そのとき僕の体質が危ないということで、できるだけその仕事は避けるようにしたんです。アーロンからもそう言われているんですよ」


「その話はあいつから聞いてる。魔物を引き寄せる体質なんだろ。くっそめんどくせえ体質だよな。でも、今年は特に忙しくなりそうなんだよ、5月は」


「魔物の数ですね」


「そうだ。去年から冬なのに夏並に増えて、しかも更に増えてきてやがる。この調子だと5月は大変なことになることは確定だ。お前の体質も利用するつもりで使いたいんだよ」


「極端に人手不足になったときは頼むかもしれないとは聞いていましたが、そういうことですか」


「そういうことだ。わずかな慰めは、今年の冬から冒険者になった連中が例年に比べて出来がいいってことだな」


 実戦実習の仕事を引き受けていたユウとトリスタンは意外そうな顔をした。レセップから新人への高評価は珍しい。自分たちがその一助になったかと思うと誇らしかった。


 少し機嫌よくなったユウは続いて質問する。


「具体的にどんな仕事なのか教えてもらえますか?」


「苦戦しているパーティの支援、撤退しているパーティと魔物の引き離し、負傷者の保護と後送などだな。同じ森の巡回っつても、前とは仕事の内容が違うんだ」


「みたいですね」


「ただ、オレ個人的にはそれよりも、ユウの体質を利用した魔物の引きつけを期待してる」


「どういうことですか?」


「なに、簡単な話だ。支援にしろ、撤退にしろ、後送にしろ、魔物に襲われている可能性が高い。そこへ割って入って魔物を引きつけてくれりゃいいんだ」


「なるほど、それだったら確かに僕でも、いや、僕が最適ですね」


「そうだ。ああいうときは魔物をどう捌くかが重要になるが、その問題を一気に解決できるんだよ、今のお前なら」


「何しろ他が見えなくなるくらい魔物が寄ってくるもんな、ユウに」


 受付係の話を聞いていたトリスタンが小さくうなずいた。今まで何度も見て来た光景だ。


 そんな2人に対してユウは小首を傾げる。


「でも、この体質だからこそ、僕は森の奥へは行けないですよ」


「わかってる。助けられるのは駆け出しの連中が中心になるだろうさ。だが、それでいい。森の奥は他の連中に任せろ」


「わかりました」


「ただ、今年は例年以上に魔物が増えるから、みんなあんまり奥へは行けねぇ気がするんだよなぁ」


「あーそれは言えてますね。でもそうなると、僕も活躍の機会が増えるかもしれない?」


「そうなるな。良かったじゃねぇか」


 半笑いの顔を向けてきたレセップにユウは微妙な表情を返した。本当に良いことなのか判断がつかない。思わず隣に顔を向ける。


「トリスタン、本当に良いと思う?」


「わからん。ただ、レセップがあんな顔をしているということは良くないと思うぞ。皮肉なんじゃないのか?」


「なるほど、やっぱりそうなんだ」


「ごちゃごちゃ言ってねぇで、さっさと帰れ。用はもう済んだろ」


 手をひらひらと振るレセップがユウとトリスタンに声をかけた。そうしてまた頬杖を付いてぼんやりとする。


 その様子に呆れた2人だったが、確かに用はもうないので踵を返した。そのまま城外支所の建物を出る。相変わらずの曇り空だが、今日は風がほとんどないので過ごしやすい。


 そんな中、ユウは宿に、トリスタンは市場へと向かった。

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― 新着の感想 ―
領収書無しで金貨をさっと出してくれるのか。 信用だな。 あとは春を前に稼ぎきれれない新人に遠回しに精をつけられたと考えると良いのかも。
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