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冒険者の万華鏡  作者: 佐々木尽左
第34章 冒険者ギルドの手伝い

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貧民の市場と安酒場街

 職員であるジェイク経由で冒険者ギルドの仕事を引き受けたユウとトリスタンは聞き取り調査を始めることになった。しかし、ここでひとつ問題が浮かび上がる。それは、どのように調査を進めるかという方法についてだ。


 これについて2人は検討した結果、いくつかの方法があることに気付く。1軒の店に通い詰めるか複数軒を渡り歩くか、特定の時間に店へ寄るか1日中入り浸るかなどである。


 報酬と経費の出る仕事を引き受ける以上、2人はできるだけ成果を出したかった。色々と考えた末にそれぞれ結論を出す。


「僕は昼食と夕食のときに酒場へ行くよ。トリスタンはどうする?」


「俺は1日中どこかの酒場に居着こうと思う。昼下がりまではこの店、それ以降はあの店って具合に変えるかもしれないが」


「なるほど、お店はいろんな所を回るということでいいんだよね」


「いろんな冒険者に話を聞くんならそうするしかないよなぁ。ああそうだ、冒険者に話を聞くなら市場でもいいよな。どうする?」


「そっちは僕が行くよ。飲食店辺りだったら古い知り合いもいるしね」


 半ば考えながらトリスタンがユウに答えた。これで方針が決まる。


 翌日から2人は行動を開始した。トリスタンは三の刻から安酒場街へと向かう一方、ユウは市場へと向かう。


 宿を出たユウは東側へと続く路地を歩いた。これから夜明けの森へと向かう冒険者は西へと向かうので往来する人はそれ以外の人々だ。


 市場に出ると人通りはこれから増えるといった感じである。店は三の刻から開くところがほとんどとはいえ、客がいきなり押し寄せることなどほとんどない。昼に向けて徐々に増えていくのが普通だ。


 その点、飲食店は事情が少し違う。早朝から町の中へ働きに出る労働者や森へ魔物狩りをしに行く冒険者が朝食を求めてやって来るのだ。そのために飲食店は二の刻前から開いている。そして、三の時を過ぎるとその客の波が一段落するのだ。


 市場の露天や屋台の間をユウは歩く。そして、市場の東西の境目にあるスープの出店にたどり着いた。店頭に大きな鍋を出し、木の皿が積み上げられた机が脇にある。その奥には車輪付きの荷台があり、食器を洗う水瓶が置いてあった。


 客がいない間に食器を洗っているチャドにユウが声をかける。


「おはよう、チャド」


「ユウ、おはよう。ちょっと待ってて。もう少しで全部洗い終わるから」


 返事をもらったユウは鍋の近くで待った。しばらくすると食器を洗い終えたチャドがやって来る。洗い終えたばかりの更にスープを入れて差し出してきた。ユウはそれを受け取って木の匙で掬って食べる。絶妙に微妙な味はいつも通りだ。


 いくらか食べてからユウはチャドに話しかける。


「実は、今の僕って冒険者に聞取り調査をしているところなんだ。夜明けの森についてね」


「へぇ、そうなんだ」


「チャドのところにやって来る冒険者で、夜明けの森について何かしゃべっていた人っているかな?」


「みんなが稼ぐ場所だからいつも話しているよ。去年の冬の初めから魔物がたくさん出るようになったそうだね。みんな懐が温かくなったって喜んでるよ」


 自分が求めている情報について説明したユウはチャドの言葉に耳を傾けた。チャドは冒険者ではないが、日々冒険者たちの話を聞いている。ある意味今回の調査で最も役に立つ人物だ。そのため、ユウは真っ先にここへやって来たのである。


 ではその内容はというと、どれもユウが知っていることばかりだった。誰もが儲かることを喜んでいるが、大体それ止まりで終わっているらしい。怪我人が増えているという所感をチャドは語ったが、それもユウが知っていることだった。


 スープを食べ終えたユウが木の皿と匙を籠に入れる。


「他には何かあるかな?」


「魔物の間引き期間にどのくらい稼げるか期待したり、逆にやっていけるか不安を感じてたりくらいかなぁ」


「そっか。ありがとう。しばらくは通うことになると思うから、何か新しいことがあったら教えてね」


「わかった。僕も注意深く聞いておくよ」


 情報の提供を約束してくれたチャドにうなずくと、ユウはその場を離れた。次は他の飲食店を巡る。引き受けたのは冒険者への聞取り調査だが、その冒険者から話を聞いている飲食店関係者からの話を聞くのは無駄ではない。一通り聞いておく必要があった。


 四の刻になるとユウは酒場『昼間の飲兵衛亭』へと向かう。まずは知っている店からだ。客で埋まる店内を見回して話を聞く人物を見極めようとする。


 まずはカウンター席の人に話を聞くことにした。1人あるいは2人なので話しかけやすいからだ。しかし、冒険者の数は多くなく、食事をしに来た労働者や職人が多かった。


 とりあえず何人かにエールを奢って話を聞いてみたところ、個人的な部分を除くとほとんどがチャドから聞いた話と同じだった。


 昼下がりになると客足が一段落したのでユウも宿に戻る。思った以上に手応えがない。とりあえず一旦間を置くことにすると、夕方まで自伝を執筆した。




 六の刻頃になるとユウは再び酒場へと向かう。今度は安酒場『泥酔亭』だ。昼間は銅級や熟練の冒険者に話を聞いたが、今度は鉄級や新人の冒険者に話を聞くのである。


 そうしてユウが『泥酔亭』の前にまでやって来たとき、狂犬(クレイジードッグ)の4人と出くわした。すぐに驚く4人に対して声をかける。


「みんな、今から夕飯かな?」


「そうなんだ。今さっき森から帰ってきたところなんだよ!」


「だったら一緒に食べる? 奢るよ?」


「マジで!? よっしゃ! 食う食う!」


 あまりの食いつきの良さにユウは苦笑いしたが、すぐに4人と共に店へと入った。


 テーブル席に着いたユウたち5人だが、デレクたちの食べっぷりは大変なものだ。筋肉質な体のエドガーや巨漢のグレームはもちろん、平均的な体格のデレクや小柄なジャレッドまでどこに収めるのかというくらいの量を飲み食いする。確かに十代後半の食べ盛りではあるが、自分のときはどうだったのかとユウは思わず振りかえる。経費で落とせることのありがたみを初日から実感した。


 しかし、無限のように見える胃袋も無限ではない。かなり食べたところでようやく手と口が鈍ってきた。頃合いだと見たユウが声をかける。


「実は、ちょっと聞きたいことがあるんだけれどね、教えてくれないかな」


 食べながらもデレクたち4人はユウの話に耳を傾けた。そうして自分たちが知っている夜明けの森についての話を語ってゆく。最近は駆け出しの冒険者パーティ同士で合同パーティを組んで活動することが増えていることや、日数や取り分の調整などが面倒だが稼げるのでやっていることなどだ。


 個人的に面白いと思った話はあったものの、ユウは新しい知見は得られなかった。


 内心で残念がっているユウに対して、デレクが腹をさすりながら話しかけてくる。


「ユウ、他のヤツに話を聞きたいってんなら、オレたちが紹介してやるぜ!」


「へへへ、そういうのは任せてくれよ、紹介するぜぇ」


 にっこりと笑うジャレッドを始め、エドガーとグレームも乗り気だった。どう見ても再びたかる気である。


 1日が終わって宿に戻るととりあえず眠り、翌朝後から戻って来ていたトリスタンと朝食を食べながら昨日の成果を確認した。結果はどちらも空振りだ。


 とりあえず方針ややり方を再調整してからその日も市場や酒場に向かう。この日のユウは昼にテリーとウォルト、夜にデレクたちの知り合いのパーティから話を聞いた。しかし、市場も含めてこれといった成果を上げられずに終わる。以後、その繰り返しだ。緑の盾(グリーンシールド)のブラッドから突撃雄牛(アサルトブルズ)のクレイグを呼んでもらって話を聞いたり、更にその他の知り合いを紹介してもらったりする。


 一方、トリスタンもクリフとエディという知り合いだけでなく、他の様々な店で冒険者たちから話を聞いて回った。おかげで安酒場街にはちょっと詳しくなる。


 7日目の夜、ユウは早めに切り上げて宿に戻った。この1週間様々な酒場に赴いて冒険者に料理と酒を奢り、いろんな屋台に足を向けて店主から食べ物を買ったが、ほとんど成果なしで終わる。正直なところ気が重い。


 部屋の椅子に座っていたユウはトリスタンが戻って来たことに気付いた。そちらへと顔を向ける。


「トリスタン、どうだった?」


「経費がかさむばかりだったな。そっちは?」


「欠食児童みたいな冒険者に話を聞くときは覚悟がいるって思い知ったよ」


「なんだお前、たかられたのか」


「いくらでも食べるんだもんね、みんな」


 どちらも同じ結果に終わったことにユウとトリスタンはため息をついた。調査なのだからこうなることも当然予想していたが、実際にそうなると覚悟をしていても気が滅入る。


 明日は何と説明しようかとユウはぼんやりと考えた。

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