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冒険者の万華鏡  作者: 佐々木尽左
第34章 冒険者ギルドの手伝い

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元師匠からの新しい仕事の話

 3月も半ばになると寒さはましになってくる。昼などはいよいよ春先という感じだが、朝晩はまだ冬だ。


 そんなとある日の早朝、ユウは二の刻に起きた。朝の準備を済ませると日の出まで鍛錬をする。トリスタンは日の出に起きてそこから朝の準備だ。


 三の刻に市場へと遊びに行ったトリスタンを尻目にユウは自伝を書き続ける。冬も終わりに近づくにつれて日照時間が長くなって執筆活動がやりやすくなっていた。


 集中して書き続けていると町の中から鐘の音が聞こえてくる。昼時になったことを知ったユウはきりの良いところで中断して席を立った。そのまま宿を出て安酒場街へと向かう。


 酒場『昼間の飲兵衛亭』の中は盛況でほぼ満席だった。今日は1人なのでユウはカウンター席に座ろうとする。限られた空いている席に目を向けると見知った背中を見つけた。


 近づいて声をかける。


「ジェイク、今日はここなんだ」


「ユウじゃないか。現役時代はしょっちゅうここだったからね。たまに懐かしがるために来るんだ。隣は空いてるから座ったらどうだい」


 席を勧められたユウは給仕女に料理と酒を注文してから座った。そうしてジェイクに話しかける。


「ジェイクは先月以来だったっけ?」


「そうだね。もう1ヵ月くらい前だったかな。まだそんなに経ってないか」


「森の巡回の仕事を紹介してもらったとき以来かな」


「そうだったね。あの話、アーロンから聞いたよ。連日事件が起きたんだってね」


「そうなんだよ。滅多に起きないって聞いていたのに、初日と最終日だけだったからね、何もなかったのは」


「そりゃすごい。そんなに集中して事件が起きたなんて初めて聞いたよ」


「アーロンも同じことを言っていた気がするな」


 記憶を掘り起こしていたユウは給仕女が料理と酒を持ってきたことに気付くのが一瞬遅れた。少し驚いて目の前に木製のジョッキと皿が置かれてゆくのを見る。


「それで、ユウは今も森の巡回を続けているのかな?」


「もうやっていないんだ。僕の体質が危なっかしいということで、アーロンが1週間くらいで辞めるよう勧めて来たんだ」


「危ないというのはどんな風にだい?」


「冒険者を仲裁している途中で魔物に襲われたり、怪我をしている人を運んでいる途中で魔物に襲われたりすることがあったんだ。役に立ったこともあるけれど、危険の方が大きいんだって。僕も指摘されてそれに気付いたよ」


「なるほどなぁ。その点はオレも気付くべきだったか」


「アーロンもやってみて気付いた様子だったから、ジェイクは仕方ないんじゃないの?」


「そう言ってもらえると楽になるね」


 いくらか神妙な顔つきになっていたジェイクが肩の力を抜いた。それから木製のジョッキを呷って小さく息を吐く。


「それじゃ、今のユウは何をしているのかな?」


「ここしばらくは日帰りで魔物狩りをしているよ。生活費を稼ぐためにね」


「生活に余裕がないわけじゃないんだよね?」


「うん、派手な生活をしているわけじゃないから、今の収入でも一応蓄えを増やすことはできるよ。去年に比べるとささやかだけれど」


「普通の冒険者にとってはそのささやかなことも大変なんだけれどね。ともかく、生活に困っているわけではないんだ」


 やけに確認をしてきたジェイクにユウは首を傾げた。何が聞きたいのかわからない。


 そんなユウにジェイクは話を続ける。


「実はね、また冒険者ギルドの仕事なんだけど、ちょっと変わった仕事があるんだ」


「変わった仕事?」


「冒険者たちへの聞き取り調査っていう仕事なんだ。夜明けの森で去年の晩秋から増え始めた魔物の数が一向に減らないことは知っているだろう。冒険者ギルドもあれを不安視しているんだ。もちろん森の中での調査もやっているんだが、冒険者から話も聞きたいということなんだよ」


「へぇ、そんな仕事があるんだ。というか、城外支所の受付カウンターでやって来た人たちに聞いたらどうなの?」


「それはもうやってるらしいよ。ただ、職員に話すとなるとどうしても線を引かれることがあってね、なかなか細かいところまでは聞けないんだ」


「そうかなぁ。職員相手でも1杯奢ると簡単に全部しゃべる人が多いような気がするけれどなぁ」


「はは、そう言う連中も確かにいるね。ただ、冒険者同士の方が話しやすいこともあるから、そっち側からの情報もほしいそうだよ。それと、この仕事はユウが1人でやっても良いし、トリスタンと一緒にやっても良いみたいだね」


 パーティ単位で必要としているわけではないことをユウは知った。確かに聞き取り調査となると個人でするので募集側の集め方としては納得できる。


 引き受けるかどうかユウは悩んだ。




 夕方、ユウは机に向かって羊皮紙にペン先を走らせていた。最後まで書き上げるとペンを置く。今日も一仕事終えた。機嫌良く羊皮紙を片付けて木窓の外へ目を向ける。先程より暗くなってきていた。


 日の明るさをユウが気にしていると部屋の扉が開く。振り向けばトリスタンが中に入ってきた。立ち上がって声をかける。


「おかえり、トリスタン」


「おう、自伝はもう書けたのか?」


「今日の1枚はね。ところで、今日の昼にまたジェイクから冒険者ギルドの仕事を聞いたんだ。今からその話をするから聞いてよ」


 前置きを終えたユウはトリスタンにジェイクから聞いた話を伝えた。冒険者たちへの聞き取り調査という仕事にトリスタンが微妙な表情を浮かべる。


「うーん、ジェイクはまた妙な仕事を紹介してくれたもんだな」


「そうだね。僕はこの際だから城外支所への貢献という意味で何でも引き受けるつもりでいるけれど、トリスタンはどうする?」


「ユウが引き受けても俺はやらなくてもいいのか。いや、やろう。どうせ森に入れないんだったら、少しでも稼いだ方がいいからな」


「それじゃ、今から城外支所に行こう。レセップさんが待っているはずだよ」


 意見が一致した2人は宿を出て冒険者ギルド城外支所へと向かった。建物内は夜明けの森から戻ってきた冒険者たちも加わって混雑している。そんな中、唯一行列のない受付カウンターの前に立った。


「レセップさん、こんにちは。昼間にジェイクから紹介された仕事の話を聞きに来ました」


「だから、なんでこんなやっすい仕事を引き受けようとするんだ、お前らは」


「冒険者ギルドの役に立っているんですから良いじゃないですか」


「そりゃそうなんだけどよ。自分を高く見積もってんのか安く見下してんのかわかんねぇことすんな。こっちが面倒なんだよ」


「何かあるんですか?」


「なんもねぇよ。あっても言えねぇ。で、ジェイクからの紹介だったな。夜明けの森の奥が今どんな状況なのかを冒険者たちから聞き出す仕事だ。酒飲みにはクソみたいに簡単な仕事だな」


「酒場で聞き出せば良いわけですね。ごちそうして」


「そういうこった。報酬は1人1日銅貨2枚で、経費は冒険者ギルド負担だ。ああ、この場合の経費はその日1日の食費すべてだからな。明日から1週間だ」


 面倒そうな態度でレセップが受付カウンターの上に契約書を2枚置いた。それからまた頬杖を付く。


 ユウはそのまま羊皮紙を手に取って自分の名前を書こうとした。それに対してトリスタンは渋い顔をする。


「うへぇ、銅貨2枚か。本当に最低限だな」


「そりゃ酒飲みながら楽しく仕事ができるんだ。安くて当然だろう。相手が貴族だったり大商人だったりしたら話は変わってくるが」


「そんな固っ苦しいのは願い下げだな。食費が丸1日経費っていうのはそのままの意味でいいのか? 朝、昼、晩の3食」


「そうだ。経費で落とせるから気兼ねなく飲み食いしろ。ただし、やり過ぎるなよ。もっとも、真面目なお前らの場合、もっと遠慮なく飲めってケツを叩かにゃいかん方だろうけどな」


 契約書に名前を書き込んだユウがその羊皮紙をレセップに差し出した。それから疑問に思ったことを尋ねる。


「経費って普通はいくらかもらってそれを使えって言われますよね。明日取りに来たら良いんですか?」


「いや、最後に計算していくらと言ってくれ。報酬を渡すときにまとめて払う」


「珍しいですね」


「お前らの場合はそっちの方が絶対に安上がりになるって、オレが言っておいたんだよ」


「えぇ」


 にやりと笑ったレセップにユウは困惑した。信頼されているとも言えるし、余計な経費は支払わないという強い意志も感じる。


「毎回計算しながら飲まないといけないのか。面倒だな」


「大体でいいぞ。今日はいくら使ったっていう感じでな。端数を切り上げして銅貨単位で申請しろ。鉄貨は逆に面倒だ」


 請求の仕方を教わったトリスタンは胸をなで下ろした。あまり考えなくて良くなったからだ。


 これで契約は成立である。2人は踵を返して城外支所の建物から出た。

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― 新着の感想 ―
毎日経費申請されて渡してっていうのも、レセップさんからしたらめんどくさいですもんねえ。
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