体質の披露会
知り合いのパーティリーダーたちと食事をした翌朝、ユウはトリスタンと共に夜明けの森へと出かけた。まだ冷え込みが厳しい中、宿屋街の路地を歩く。
「今日は火蜥蜴、明日は緑の盾にお前の体質を見せるのか」
「そうだよ。城外支所で合流するんだ。それで、途中まで森の中を一緒に進んでいる間に見てもらうんだよ」
「珍しい体質だから見たくなる気持ちはわかるけれどな。1度見たら充分だろうが」
「だからさっさと見せるんだ。会う度に見たいなんて言われるのは面倒だしね」
自分の思惑を伝えたユウはトリスタンが苦笑いするのを見た。今日明日と知り合いに見せてしまえば、当面何も言われることはないはずである。
そんなことを考えながらユウはトリスタンと共に貧者の道へと出た。すぐ西に足先を向けて進む。城外支所はすぐだ。そして、そこには見知った6人が待っていた。
リーダーのクリフにユウは声をかけられる。
「ユウ、トリスタン、おせーぞ!」
「いや充分早いでしょ。なんでそっちはそんなに早く来ているの?」
「みんな待ちきれなくてな! すぐに宿を出てきたんだ」
「だっはっは! ユウ、今日は楽しみにしてるぜ! 早く森に行こう!」
子供のように目を輝かせているローマンにも声をかけられたユウは苦笑いした。思った以上に期待されていることに驚く。珍しい体質であることは自覚しているが、そこまでのものかと内心首を傾げた。
ともかく、これで全員が揃ったので夜明けの森へと出発する。周囲の冒険者たちの流れに沿って8人は歩いた。
町を通り過ぎ、原っぱを通り抜けたユウたちは森の際で立ち止まる。そこで虫除けの水薬を塗ると森に入る前にユウが声を上げた。クリフたちに指示を出す。
「クリフ、先に森の中に入って。トリスタンも一緒について行くから、魔物が出たらその指示に従ってよ」
「おっしゃ、いよいよだな! お前ら、トリスタンの言う通りにするんだぞ!」
仲間に声をかけたクリフが最初に歩き始めた。ローマンたちメンバーがリーダーに続く。トリスタンもその脇についた。
他の7人がある程度進んだところでユウも森へと入る。これからしばらくは1人で行動だ。知り合いの背中を見ながら歩き続ける。
全員が慣れた様子で森の奥へと進んで行った。ユウの体質以外は何も変わらないので当然である。あとはどこで魔物と遭遇するかだ。
2度小休止を挟んで歩いているときだった。ローマンが魔物を発見したという声を上げる。それを機にクリフたち6人が緊張する様子が見てとれた。少し間を置いてから、今度はトリスタンが合図を告げる。クリフたちが左右に分かれた。
犬鬼3匹が前の7人の間を通り抜けてゆく。周りにいる人間など目もくれずにユウへと一直線に駆け抜けていった。それをクリフたちが目を丸くして見送る。
「マジかよ。魔物に無視されるなんて初めてだぜ」
「これがユウの体質かぁ」
リーダーに続いてローマンも半ば呆然としつつ言葉を漏らした。他の面々も大体同じ様子である。初めて見る光景に何と言って良いのかわからないようだ。
そんなクリフたちを気にすることなく、ユウは突っ込んで来た犬鬼を次々に倒した。流れるような手さばきで殺してゆき、討伐証明部位をそぎ取ってゆく。
後処理を終えたユウは魔物の部位を袋に入れると7人の元へと向かった。そうして呆然としている者たちに声をかける。
「クリフ、どうだった?」
「驚いたぜ。前から話には聞いてたが、まさかそのまんまだったなんてな」
「まぁ普通は信じないよね。嘘くさいから」
「しかしまた、面白いことになってるよなぁ」
「当人からしたら、全然つまんないよ。森の奥に行けないし」
「それなんだよな。夜もひっきりなしに襲われるんだろ? さすがにそれはなぁ」
体質による問題点についての話をするとユウもクリフもため息をついた。アドヴェントの町の冒険者としては致命的な問題だからだ。
肩を落とすユウにローマンが話しかける。
「その体質を活かす方法ってのはねぇのか?」
「一応あるよ。例えば、冒険者ギルドの仕事で実戦実習の教官なんかだと役に立ったよ。あれって魔物とどのくらい遭遇できるのかっていうことも大切な要素のひとつだからね」
「なるほどな。だったらそれでやっていけばいいんじゃねぇの?」
「引退したらね。現役なら日帰りで森の浅い場所で日銭を稼げるけれど、正直つまらないな。完全に作業だし」
「そうかぁ。うまくいかねぇなぁ」
何とかならないものかと提案したローマンだったが、ユウは首を横に振るばかりだった。思い付くことは大体試しているので大抵の提案にうなずくことはできない。
結局、その後もう1回ユウの体質を確認した後、クリフたちは森の奥へと向かった。ユウとトリスタンはその日もいつも通り魔物狩りをする。そして、日が沈まないうちに町へと帰った。
その翌日、今度はブラッドたちを迎えて同じように体質を披露する。やはり目を剥いて驚かれ、次いでその厄介な性質に顔をしかめられ、そしてどうしようもないことに同情された。ウォルトなどは最初興奮していたが、最後の方は肩を落としている。
微妙な雰囲気となったまま、ユウの体質を見たブラッドたちも森の奥へと向かった。
それから数日間、2人は日帰りで魔物狩りに勤しんだ。ユウの体質のおかげで森の浅い場所でも稼げるが、仕事はすっかり単調になっていた。望んでやっているのならばまだそれにも耐えられるが、何らかの原因により強制されているとなると面白くない。
あるとき、夜明けの森の中で休憩中にトリスタンがユウにこれからの予定を尋ねる。
「ユウ、5月の魔物の間引き期間はどうするつもりなんだ?」
「まだ考えていなかったかな。でも、あんまり自分が参加しているところを想像できないんだよね。トリスタンは参加したいの?」
「どっちでもいいかな。町の中での遊びを控えたら生活の余裕ができたし、レセップから回してもらえる依頼の方が稼げるんだろう?」
「まぁ、そうだね。問題なのは、いつその仕事が回ってくるのかだけれど」
不定期の依頼を当てにしすぎると困ることになることはユウも理解していた。しかし、今のユウは魔物狩りにあまり魅力を感じていない。そのため、魔物の間引き期間に参加する動機がどうしても薄いのだ。
ただ、ユウはひとつ思うところがあった。それをトリスタンに話す。
「でも、現状の魔物の多さから考えて、レセップさんから冒険者ギルドの仕事を回される可能性があるんじゃないかな。ただでさえあの期間の職員は忙しいだろうし」
「冒険者ギルドの仕事はそこまでしたいわけじゃ、ああでも、城外支所に対する貢献かぁ」
「なかなか難しいと思う。とりあえず、今はこのままやろう」
特に解決策が出たわけでもなかったがユウは雑談を打ち切った。今は森の中なのだ。油断はできない。周囲を警戒しながら2人は森の中を歩く。
昼下がりになると2人は森の出口を目指した。今日もいつものように稼ぐことができたので機嫌が良い。たまに襲ってくる魔物を撃退しながら前に進む。
「トリスタン、右側から誰かくるよね」
「今気付いた。人間、か。魔物ではなさそうだな」
とりあえず魔物ではなさそうだということを知ったユウとトリスタンは警戒しつつもやって来る者たちを待った。
何者かと緊張しながら待ち構えていた2人だったが、姿を現した4人を見て肩の力を抜く。デレク率いる狂犬の面々だ。
驚いた表情を見せるデレクたちにユウが声をかける。
「デレクは魔物狩りの最中なの?」
「何日か森の中を回って今帰る途中なんだ。ユウは?」
「僕たちも帰るところだよ」
「おお、そうか! それじゃ一緒に帰ろうぜ!」
元気に提案してきたデレクにユウは承知した。これで人数が6人に増える。
久しぶりに会ったということでユウたちは色々と近況を語り合った。デレクたち4人は実戦実習を受けた後、積極的に夜明けの森へと入って稼いでいるという。周囲の知り合いと比べても多い方なので鼻が高いということだ。
一方、ユウは最近の話をした。特にここ数日は魔物狩りと知り合いにユウの体質を見せたということを話す。すると、デレクたちも見たいとせがんだ。
その勢いにユウは首を傾げる。
「みんなは実戦実習のときに散々見ていたじゃない」
「あんときはよくわからいまま戦ってたからわからないんだ。だからちゃんと見せてくれよぉ」
デレクと同じくらい自己主張するジャレッドもユウに懇願してきた。よくわからないままというのが嫌らしい。
今まで散々見せてきた4人だったのでユウは披露することにした。すると、自分たちの前を魔物が素通りしていくことに大層驚く。
それから何度か繰り返したところでユウはようやく止めることができた。




