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冒険者の万華鏡  作者: 佐々木尽左
第34章 冒険者ギルドの手伝い

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パーティリーダーたちの話

 冒険者ギルドの仕事を終えた翌日、ユウは二の刻に起きた。真っ暗な中、蝋燭(ろうそく)を点けて室内を明るくする。朝の準備を終えると鍛錬を始めた。


 日の出の時間を過ぎて周囲が明るくなるとトリスタンが続いて目覚める。気温は低いままなので寒そうだ。じっとしていると冷えるからだろう、すぐに動き始める。


 そんな相棒を尻目にユウは自伝を書き始めた。休みの日の暇潰しから始まって、今やすっかり自分のための作業となっている。しかも、読むのを楽しみに待ってくれている人もいるのだ。早く書かねばとペンに力が入る。


 三の刻の鐘が鳴った。外出の準備が整っていたトリスタンが立ち上がる。


「市場に行ってくる」


 一言ユウに告げるとトリスタンは部屋を出た。少し前なら町の中に行っていたが、最近は控えるようになったのだ。収入に見合った遊びをするように心がけるようになったわけである。あとは市場で変な物にひっかからないように気を付けるだけだった。


 調子良く執筆していたユウは町の中から鐘の音が鳴り響いてきたのを耳にする。四の刻になったことを知ると、区切りの良いところまで書いて椅子から立ち上がった。


 宿を出たユウは貧者の道を通って安酒場街へと向かう。目的地は酒場『昼間の飲兵衛亭』だ。ユウにとっての行きつけの店である。


 出遅れたこともあり、店内はほぼ満席だった。カウンター席がかろうじて空いているので座ろうとする。しかし、途中で知り合いに呼ばれて立ち止まった。振り向くと、クリフ、エディ、ブラッドの3人がテーブル席に座っている。


「今日は3人揃っているんだ。珍しいね」


「そうなんだよ。たまたま休みが重なってな。いやぁ、余裕があるっていいよな!」


 給仕女に料理と酒を注文したユウがクリフに疑問をぶつけると快活な答えが返ってきた。それを聞きながら席に座ってエディに顔を向ける。


「そんなに調子が良いんだ」


「まぁな。何しろ魔物は狩り放題なんだ。今年の冬はやりやすくて助かるよ」


「いつもだと冬は探し回らなきゃなんねぇもんな! その手間が省けるんだ、やりやすいぜ!」


 木製のジョッキを片手にブラッドがエディの発言に続いた。旨そうにエールを飲む。


 自分の料理と酒が届けられたユウも食事を始めた。春先とは言えまだ寒い今の時期の温かい料理は体に沁みる。それだけで旨い。


 空腹を満たそうとしているユウに対してクリフが声をかける。


「さっきエディから聞いたんだけどよ、お前、魔物を引き寄せる体質をエディには見せたんだってな?」


「うん、森の中でたまたまエディたちと会ったときに見せたよ」


「んだよ、オレのときも見せてくれたら良かったのによぉ」


「あのときクリフは何も言わなかったじゃない。それに、確かクリフと森で会ったときって、実戦実習の教官を僕がしていたときでしょ。さすがに実習外のことはできないよ」


「まぁあんときゃオレもそれを知ってたから遠慮したってのもあるんだけどな。それにしたってオレも見てみたいぜ」


「僕のところは明日からしばらくはまた日帰りで魔物狩りをする予定なんだけれど、その日のどこかで見てみる? 朝方一緒に森へ入ったら見せられるよ」


「マジか! それじゃ明日見せてくれよ!」


「オレも! オレは明後日! 休みが明日までなんだ」


 乗り気なクリフに続いてブラッドも食い付いてきた。そんなに見たいのかなと思いつつもユウは披露することを承知した。


 しばらくはユウの体質で盛り上がっていた4人だったが、ブラッドがふと思い出したかのようにユウ関連の別の話題を持ち出してくる。


「ユウっていやぁ、最近面白い噂を聞いたことがあるぜ」


「僕の面白い噂?」


「あのアーロンが若い連中に人気があるのは知ってるだろ。最近になってお前がそのアーロンの元弟子だって話も広まってきてるんだが、そのお前もアーロンと同じじゃないかってみんな言ってるんだ」


「同じって、一体何が?」


「ほら、あいつって殴って解決するだろ? だからお前も何かあったらとりあえず殴ってるに違いないってな」


「僕そんなことしていないよ!? どうしてそんな噂が広まるの?」


「どうしてって言われても、噂を広めてるのはオレじゃねぇしなぁ」


 まるっきり他人事という感じでブラッドがユウの問いかけに答えていた。実際他人事なので噂を楽しむ側であることは違いない。


 それまで話を聞いていたエディが加わってくる。


「ユウって年が明けてから1ヵ月ほど実戦実習をしてただろ。あれが原因かもしれないな」


「教えた新人が噂を広めていたっていうわけ?」


「お前、自分の体質を利用して駆け出しの連中を徹底的に鍛えただろ。あの連中、あの後同じ駆け出しでも頭ひとつ抜けて稼げるようになってるんだぞ」


「そうなんだ。でも、それは良いことだと思うけど」


「問題は鍛え方だ。頻繁に魔物と戦わせただろう。しかもその間、お前は駆け出しの連中よりも戦っていたらしいじゃないか」


「それはないよ。そんなことしたら新人の訓練にならないから。最初の頃は魔物の数を調整するために間引いたことはあったけれど」


「ならあの話は尾ひれが付いたのか。だったら、淡々と無表情に魔物を一撃で殺していったっていうのはどうだ?」


「え? どうだろう。自分の顔なんて普段見ないからわからないよ。一撃で殺すっていうのはそんなに間違っていないと思う。でも、僕が回っているのは森の浅い場所だから出てくる魔物も大したことないのばかりだし、エディたちだってできるよ」


「今重要なのは事実じゃない。相手がどう思うかなんだよ、ユウ」


 その後もエディに色々と尋ねられたユウは素直に答えた。すると、クリフがにやにやと笑いながら声をかけてくる。


「その噂を聞いていると、お前って冷酷な魔物撲殺者だよな。いやこえぇなぁ、おい」


「人ごとだからって楽しんでるでしょ、クリフ」


「そりゃもちろんだとも! 最高の酒の肴じゃねぇか、ははは!」


 愉快そのものという様子でクリフが大笑いをした。それを見たユウが面白くなさそうに木製のジョッキに口を付ける。味はいつも通りだが、いつもほど旨く感じられなかった。


 話題はまた別のものへと移っていく。今度はブラッドの失敗談であり、エディの成功談だ。ブラッドの方では大いに笑い、エディの方では感心した。


 いくつもの話題を消費しながら食事を進めていた4人だが、そのうちやはりと言うべきか、話題は夜明けの森に戻ってくる。アドヴェントの町の冒険者としては無視できない場所なのだ。


 何杯目かの木製のジョッキを片手にクリフが口を開く。


「これからどんどん暖かくなっていくけどよ、やっぱり魔物の数も増えて行くんだよな」


「今以上にだろ? 全然減る気配がないもんな、今のところ」


「というか、最近増えて来てるように思えねぇか? オレ、今月に入って収入が増えたぜ」


「お前もか。オレもだ。ということは、これから夏にかけて増えるのか」


 クリフの話に乗ったエディが神妙な面持ちで答えた。そこへブラッドも参加してくる。


「クリフ、エディ、お前らんところって、合同パーティの話はどうしてるんだ?」


「後輩の面倒を見ねぇといけねぇから組むこともあるが、そうなると稼ぎがなぁ」


「クリフのところもそうか。オレのところも似たようなもんだな。でも、後輩同士のパーティで組ませたら大体解決しないか?」


「エディのところみたいにものわかりのいい後輩ばっかりじゃねぇんだ。どうしても反りの合わねぇ連中がいてなぁ」


 いくつかの後輩を抱えるクリフとブラッドが天井を仰いだりうつむいたりした。単純に後輩のパーティ同士を合同させるわけにはいかないようだ。話が進むにつれ、最近になって仲が良くないことが発覚する個人同士の話もあり、一筋縄ではいかない様子である。


 ただ、放っておくという方法はないようだ。後輩の冒険者パーティと組むと稼ぎが減ると悩みつつも、その後輩たちに被害が出ないようにするための方法を模索している。


 そんな3人の様子を見るユウは自分にはそういった悩みがないことを改めて知った。実戦実習で最近ようやく年下の冒険者たちと知り合ったばかりだからだ。相談に乗るにしてもまだ縁が薄く、噂によるとうまくやっているらしいので相談しに来ることがそもそもなかった。この状態が良いのか悪いのか、今のところ判断できない。


「うーん、ユウに頼めたらいいんだけどなぁ」


「お前のその体質じゃあなぁ」


「惜しいよなぁ」


 ぼんやりと話を聞いていたユウは周りの3人からいきなり矛先を向けられて目を白黒させた。確かに自分が何組かのパーティを引き受けられたら3人の抱える問題はある程度解決するだろう。しかし、それは今できない。


 その後も色々と悩んでは話をしながらユウたち4人は食事を続けた。

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