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冒険者の万華鏡  作者: 佐々木尽左
第34章 冒険者ギルドの手伝い

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元師匠との語らい

 夜明けの森で巡回の仕事を始めて6日目の夕方、ユウとトリスタンはアーロンと共にアドヴェントの町へと戻った。この日は何事もなく巡回を終える。


 解体場の一面にある買取カウンターで魔物の部位を換金すると3人はその場を離れた。すぐに冒険者ギルド城外支所の北側の原っぱを歩く。


「今日も1日終わったな。ユウ、トリスタン、メシでも食いに行くか!」


「いいですよ」


「おう」


「なんだ? どうしたんだ2人とも? 随分と元気ねぇじゃねーか」


「疲れもするよ。今日1日何か起きるんじゃないかってずっと緊張してたからね」


「俺も。2日目から毎日何かしらあったから、絶対今日もあると思ってたんだよなぁ」


 不思議そうに尋ねるアーロンに対してユウとトリスタンがげっそりとした様子で返事をした。何事もなかった1日だったが、最後まで何かあると信じて警戒していたのだ。


 そんな2人の様子を見ながらアーロンは不思議そうに最近の感想を漏らす。


「そういえば、今回はやたらと事件が起きてたな。オレもこんなことは初めてだぜ」


「やっぱり珍しいんだ。最初の説明だと滅多に起きないと言っていたもんね」


「でも実際は2日目から5日目までは事件が起きていたよな。話が違うぜ、アーロン」


「まぁ、こういうこともあるな。もう起きてほしくねぇが」


 2人から半目で見られつつもアーロンはその不信感を笑い飛ばした。アーロンが故意に事件を引き起こしたわけではないので、いくら不審がられてもどうしようもない。もはや笑うしかないのだ。


 西端の街道を横断した3人は貧者の道へと移る。まだ日は暮れていないがそのときは遠くない。時期的には春先だがまだ吐き出す白い息は真冬のときと大して変わらなかった。


 往来する人々の流れに乗った3人はゆっくりと歩く。既に仕事は終わったのだ。急ぐ必要はない。後は酒場に向かうだけなのだ。


 歩きながら手をこすったトリスタンが次の話題を口にする。


「それにしても、ユウの体質は便利でもあり厄介でもあるな。正しく使えれば役に立つけれど、使い方を間違えたら死にかねない」


「オレもそれは感じたな。最初は便利だと思ったんだが、途中でヤバイこともあるって気付いたぜ」


「魔物の取り合いのときはうまく利用できて、決闘をしていた連中のときは微妙な結果だな。狂犬(クレイジードッグ)のときは影響なかったが、負傷者を逃がすときは役だったと。うーん、全体的には悪くないのか?」


「今回はうまくいった方だが、ユウが自分で体質を制御できねぇ以上はやっぱ危ねぇよ。際限なく魔物が出てきたときに止められなくなっちまう。今回は森の浅い場所だからうまくいったように見えるだけだ」


「なるほど、やっぱりあの体質は何とかしないといけないわけか」


 歩きながらアーロンと話をしていた悩ましい顔つきになった。どう頑張っても限定的な使い方しかできないことが改めてわかる。


 安酒場街にたどり着いた3人はそのまま路地に移った。往来する人々は酔客が多くなり、酒精と吐瀉物の臭いが強くなる。酒場の臭いだ。


 その辺りでアーロンがユウに伝える。


「ユウ、森の巡回は今日で一旦終わっておけ。今のお前にはあんまり向いてねぇ」


「やっぱり駄目ですか」


「事件が起きた周囲を危険に曝すことになるのがわかったからな。3日目の決闘してた連中のことを思い出してみろ。負けた方が倒れたままだったが、あれ、放っておいたら魔物に殺されてたぞ」


「そうですね」


「実戦実習だと魔物の出現そのものを目的にできるからまだ利用できるが、森の巡回の場合はむしろ邪魔になりかねない。極端に人手不足になったときは頼むかもしれんが、そうでないときはお前から引き受けようとはするな」


 何となく感じていたことをはっきりと指摘されたユウはうなずいた。今回はたまたまうまく切り抜けられたが、繰り返していればそのうち致命的なことが起きることは確実だ。そうなる前に手を引くことも大切である。


 酒場『昼間の飲兵衛亭』にやって来た3人は中に入った。中は盛況で席は酔客で埋まりつつある。数少ない空いているテーブル席に陣取ると給仕女に注文をした。


 何も置かれていないテーブルに向き直ったトリスタンが口を開く。


「なかなか大変な仕事だったが、凶悪事件はなくて良かったな」


「決闘や魔物の横取りなんていうのはあっても、暴行や殺人はなかったしね」


「そう言う意味では滅多なことは起きなかったよな、今回」


「ある意味当然だ。凶悪事件は森の奥の方で起きやすいからな」


 ちらりと厨房の方に目を向けてからアーロンがトリスタンに答えた。見つかったらまずい犯罪は見つかりにくい場所でするだろうし、見つかっても誰がやったのかわからないようにするものだ。犯罪に手を染める者はいても周囲に見つかっても良いと思う者は普通いない。


 給仕女がやって来て料理と酒をテーブルの上に置いていった。ようやく酒が飲めるとアーロンが喜んで木製のジョッキに手を付け、やっと腹が満たせるとトリスタンが黒パンとスープを口にする。ユウは最も楽しみにしていた肉に手を付けた。


 ユウとトリスタンは意識が食べることに偏りつつあったが、酒主体の食事であるアーロンの口は滑らかなままだ。次の話題を持ち出す。


「それにしても、結局去年以来魔物の数が減らなかったよなぁ」


「俺とユウが夜明けの森に本格的に入ったのは今年になってからだが、ずっとこんな感じなのか?」


「そうだな。今月に入って更に増えてやがる。確かに毎年魔物の数が増える時期だが」


「そうなると、次の魔物の間引き期間は大変なことになるんじゃないのか?」


「オレはそう考えてる。こりゃ、春からの講習や実習にも力を入れねぇとまずい」


「俺とユウはまた必要になりそうな感じだな」


「どうだろうな。1月2月みたいに新人の数が増えたらそうなるだろうが、例年通りならオレたちだけでも何とか回せるからよ。ああでも、ユウの指導はなんか評判になってたな、そういや」


 2人の視線を受けたユウは食事を中断した。口の中のものを飲み込んでから問う。


「アーロン、どんな評判だったの?」


「オレもはっきりと聞いたわけじゃねぇんだ。なんかオレみたいだっていう話だぜ?」


「それじゃよくわからないなぁ」


「ユウが望まない評判っぽいよな、なんだか」


「何言ってんだトリスタン。冒険者に人気者のオレみたいなんだぜ? いい評判に決まってるだろ!」


「それをユウが望むかはわからないって言っているんだよ」


「そんなことねぇよなぁ、ユウ!」


 顔を突きだして返答を迫ってきたアーロンにユウは引きながら小さくうなずいた。それを見たアーロンが機嫌良さそうに顔を引っ込めて木製のジョッキを呷る。ため息をついたユウは何食わぬ顔のトリスタンを横目で見ながらエールを飲んだ。


 そこからしばらくは話題が別のものに移った。別の酒場の何が旨いだの、知り合いの冒険者が夜明けの森で何かをやらかしただのと披露していく。


 ある程度食事が進むと話題は再び自分たちのことに戻って来た。アーロンがユウに問いかける。


「森の巡回の仕事は今回で終わりにするとして、ユウはこれからしばらくまた休むのか?」


「明日くらいは休むと思うけれど、明後日からはまた魔物狩りをするんじゃないかな」


「はっきりと決まってないんだな。森の巡回をするつもりだったら、予定を取り上げちまったオレが悪いんだが」


「別にアーロンは悪くないよ。お金はある程度稼いで置いた方が良いしね」


「そりゃそうなんだが、何か入り用なのか?」


「特別にこれがほしいというのはないんだ。でも、今の僕たちの生活を考えると、最低限必要な生活費っていうのがあるからね。そのくらいは稼いでおく必要があるんだ」


「なるほどなぁ。お前さんが駆け出しの頃はカネがねぇって言ってたのに、今じゃいい生活ができてるわけか」


「昔の僕が今の僕の生活を知ったら驚くだろうね。1日で何日分の生活費を使っているんだって」


「あっはっは! 大したもんじゃねぇか! すっかり成功した冒険者になってよ」


「こんな風になれるとは思わなかったなぁ」


「結構なこった!」


 元弟子の成功に機嫌を良くしたアーロンが勢い良く木製のジョッキを傾けた。それを空にすると近くを通りかかった給仕女に変わりを注文する。


「で、トリスタンはどうなんだ?」


「駆け出しの頃と比べたら全然違うぞ。あのときは本当にその日暮らしだったからな。それが今じゃ町の中へ遊びに行けるご身分だ」


「ほう、結構なことだな」


「ユウと組んだおかげだぜ」


 嬉しそうに語ったトリスタンも木製のジョッキを呷った。旨そうにエールを飲む。


 アーロンとトリスタンから褒められたユウは目を白黒とさせた。少し落ち着かなくなる。しかし、悪い気分ではなかった。

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― 新着の感想 ―
クレイジードッグが手柄横取りの返り討ちで人を殺しているけど、これは人殺しが目的では無いから、『殺人』ではないのかw うーん、異世界w
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