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冒険者の万華鏡  作者: 佐々木尽左
第34章 冒険者ギルドの手伝い

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森で争う冒険者たち(後)

 森の巡回の仕事2日目で冒険者同士の争いを止めたユウとトリスタンは3日目もアーロンと共に夜明けの森を巡回した。滅多にないという事件に遭遇したのは驚いたが、貴重な体験とも言える。それに、問題に遭うことはもうほぼないだろうという安心もあった。


 3回目の巡回ともなるとさすがに2人も慣れてくる。やっていることは魔物狩りのときとほとんど同じということもあって肩の力を抜いて歩くことができた。


 指定された地域をぐるりと巡った3人は昼下がりになると森の外を目指して歩き始める。昨日とは異なる場所だがアーロンにとっては庭のような一帯だ。迷うことはない。


 1度休憩した後、再び歩いていると先頭を進むアーロンが立ち止まる。


「人の声が聞こえるな?」


「前からじゃないよね。右からかな。魔物と戦っているのかもしれないね」


「確認して見よう。普通の魔物狩りだったら、さっさと引き上げたらいいだけだ」


 方針を決めたアーロンにユウとトリスタンはうなずいた。まだ見ぬ相手が魔物と戦っている場合のことを考えて慎重に進む。派手に音を立てて魔物を刺激すると、矛先をこちらへ向けてくることがあるからだ。特に今はユウがいるので慎重すぎるということはない。


 しかし、近づくにつれて魔物との戦闘ではないことがわかった。どうやら喧嘩をしているらしい。3人の脚が遠慮なく動くようになる。


 ユウたちが木の陰から様子を窺うと、2つのパーティが対立していることはすぐにわかった。しかし、2人が殴り合い、他は二手に分かれて声援と罵声を送り合っている。


「なんでこんなところでケンカなんぞやってんだ?」


「何か争う理由でもあるんでしょ。でもどうして2人だけなのかな?」


「決闘みたいなもんだろう。のんきと言えばのんきだが」


 アーロン、ユウ、トリスタンが順番に小声でつぶやいた。目の前の決闘のようなものは今も続いている。


 昨日のような諍いであればわかりやすい。すぐに間に入って止めて仲裁する必要がある。でなければ最悪パーティ同士での殺し合いに発展しかねないからだ。たかが小鬼(ゴブリン)1匹でも理由としては充分なのである。


 それに対して目の前の争いは難しかった。経緯はまったくわからないものの、とりあえず代表者かあるいは当事者同士の殴り合いで決めようとしていることは見てわかる。ということは、このまま放っておいても問題が解決するかもしれないのだ。もちろんうまく収まらないかもしれない。だが、そのときは改めて介入すれば良いだろう。


「とりあえず様子を見る。あのケンカが終わっていざこざがまだ続くようなら出て行くぞ」


「今はいいの?」


「殴り合いでケリをつけようとしてるのを中途半端に止めるのは逆効果だ。白黒つけてすっきりさせた方がいい場合もある」


 小声でアーロンと話し合ったユウはうなずいた。こういうときは豊富な経験がある先人の意見を聞いておけば大きな間違いはない。


 目の前で繰り広げられていた喧嘩はその後しばらくして決着がついた。片方が地面に倒れ、もう片方が両手を突き上げて勝利の雄叫びを上げる。周囲で声を上げていたパーティの態度も二分した。


 さてここからどうなるのかと木陰に潜む3人が注目していると思わぬことが起きる。森の奥から犬鬼(コボルト)の集団がやって来たのだ。20匹以上はいる。2パーティ合わせて10人以上いるが、1人は倒れて動かず、もう1人は喧嘩直後で消耗していた。


 舌打ちしたアーロンがユウとトリスタンに声をかける。


「こりゃまずい。手助けするぞ。特に倒れてるヤツを優先だ。ユウは前に出てあの犬鬼(コボルト)を引きつけろ。トリスタンはオレと来い」


「わかった」


「いいぞ」


 素早く指示を出したアーロンが木陰から飛び出した。その直後、慌てている2つのパーティの冒険者たちに名乗ってからやるべきことを短く伝えていく。トリスタンがその後に続いた。


 同じく木陰から出たユウは片方のパーティの脇を突っ切って犬鬼(コボルト)の群れに側面から突っ込んだ。最初の1匹を殴り殺してからは孤軍奮闘する。


 この後、2パーティの冒険者が持ち直したこともあって犬鬼(コボルト)の集団を全滅させることができた。群れの中に突っ込んだユウ1人で3分の1程度を倒したことが後に判明する。


 尚、決闘形式で喧嘩をしていた理由だが、ばったりと出くわしたときの些細な言葉の綾がきっかけだったらしい。それで引っ込みが付かなくなった2人が殴り合ったとのことだった。馬鹿みたいな理由だが、こういうことで喧嘩をするのも冒険者らしいといえる。


 それに関わったユウたち3人には疲労感のみが残ったが。




 4日目、この日もいつも通りユウとトリスタンはアーロンと共に森を巡回していた。昨日は馬鹿みたいな理由で発生した争いに振り回されたが、今日は何も起きないようにと願いながら森の中を歩く。


「やって来るのは魔物ばかりか。今日はこのまま終わると良いよね」


「そうだな。さすがに3日連続はちょっとなぁ」


「お前ら、気持ちはわかるが気を抜きすぎるなよ。予想外のことが起きることもあるんだからな」


 巡回中にしゃべったユウとトリスタンにアーロンが注意を促した。この2人が本当に油断をしているとは思っていなくても、こういう注意は常になされるべきだからだ。


 ある程度慣れた感じで3人が巡回していると、左側面から何かが走って近づいて来る音が聞こえてきた。全員が武器を持って待ち構えていると、音を出していた何かが飛び出してくる。


「た、助けてくれ!」


 2人の冒険者が木陰から出てきたかと思うとユウたちに助けを求めてきた。見ると冴えない風貌の男2人である。武器は持っておらず腰に剣の鞘だけを佩いていた。


 森の巡回をしている3人はこれに応じようとする。こういう冒険者を助けるのも仕事のひとつなのだ。


 ところが、すぐに続いて冒険者たちが次々に姿を現した。今度は4人である。敵意を込めた視線を逃げてきた男たち2人に向けていた。


 状況がわからない中、アーロンとトリスタンが少しでも見極めようと先の2人と後の4人の間で視線を往復させる。一方、ユウは後の4人たちに視線を釘付けにされていた。


 最初に声を上げたのは4人組の剣と盾を持った青年だ。顔を強ばらせた2人の男を睨む。


「てめぇら! よくも襲ってくれたな! 他の仲間と同じようにぶっ殺してやる!」


「あ、おい、デレク、ちょっと待った。あれってもしかしてユウじゃねぇ?」


「え? あ、ユウ、こんちわ! こんなところで何してるんだ?」


 禿げ頭の小柄な少年っぽい男に指摘されたデレクがユウに明るく挨拶を告げた。2人組にすごんでいた声との落差が大きい。


 目の前の狂犬(クレイジードッグ)の4人を見たことがあるというより指導したことのあるユウは全員に注目された。非常に居心地が悪い。


 何か言わないといけない雰囲気からユウは口を開く。


「僕たちは森の巡回をしているところだよ。警備みたいなもの。デレク、エドガー、グレーム、ジャレッド、君たちはどうしてこの人たちを追っているの?」


「えっとだな、オレたちが魔物狩りしてたら、そいつら6人が魔物の部位を寄越せって言ってきやがったんだ。それで、キレたオレたちが返り討ちにしたら、そこの2人が逃げたから追いかけてきたんだよ」


「ち、違う! オレたちの方が襲われたんだ!」


「ウソついてんじゃねぇぞてめぇ!」


 目の前で殺し合いが始まりそうになったのでトリスタンとアーロンが止めに入った。そして、デレクたちが実戦実習でユウに教わった冒険者たちだと知ったアーロンがトリスタンに4人の死体を見てくるよう命じる。禿げ頭のジャレッドに案内を頼むと姿を消した。


 途中、1度魔物の襲撃を受けたので撃退しつつ、アーロン、ユウ、トリスタンの3人は何がどうなっているのかを調べる。その結果、事情聴取と死体の見聞をした結果、デレクたちの言い分が正しいことが判明した。決め手は魔物の討伐証明部位が入った袋である。デレクたちの袋は比較的膨らんでいたが、襲った6人側は全員ほとんど何も入っていなかったのだ。奪える成果を持っていない冒険者を襲う者などいない。


 こうして生き残った男2人は縄で縛られて町に連行されることになった。行き先は解体場にある倉庫である。


 ちなみに、ユウたち3人は5日目にも事件に遭遇した。このときは魔物に襲われて負傷した仲間を抱えていた駆け出しの冒険者たちに救援を求められたのだ。そのときは尚も魔物に襲われていたのでこれを3人で押さえ、駆け出しのパーティを逃がす。このときユウの体質が非常に役立った。


 連日のように事件に遭遇するユウたちはその度に森を巡回する者としてあるときは介入し、あるときは見守り、またあるときは助ける。


 それは正しく森の巡回員としてあるべき姿だった。

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― 新着の感想 ―
教官の知己が役に立ちましたね
体質関係の襲撃以外はもうちょっと暇そうな仕事だと思ってたけどそうでもないのな
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