森で争う冒険者たち(前)
夜明けの森での巡回を始めたユウとトリスタンはアーロンに従って森の中を巡った。話によるとそう滅多に事件と遭遇することはなく、事実上魔物狩りをしているのと変わらないとのことだったが、初日を終えて実際にその通りだったと2人は実感する。
2日目の朝、2人は準備を終えて宿を出ると冒険者ギルド城外支所へと向かった。三の刻集合なので日の出後ゆっくりとできるのは良いところだ。
城外支所の北側の原っぱには既にある程度の職員や冒険者が集まっていた。その中からアーロンを探し出す。
「アーロン、おはよう」
「昨日はどうだった? レセップのヤツはキレまくってただろ」
「ものすごく面倒そうな顔をしていたよ」
「どうしてアーロンに渡さなかったのかってぶつぶつ言っていたよな」
「はっはっは! そうかそうか。作戦は成功ってわけだ。やってみるもんだな」
「あれってこれから毎日するの? そのうち本当に怒りそうに思うんだけれども」
「いや、しばらくはやらん。調子に乗って連日やると、そのうちオレのところに怒鳴り込んできやがるからな。嫌がらせをするならその辺りの見極めは重要だぜ」
白い息を吐き出しながら笑うアーロンが大切な点をユウたちに教えた。聞いた2人は何とも言えない表情のままうなずく。立場上、2人はレセップを怒らせるわけにはいかないからだ。なので何の役にも立たない、正確には役立ててはまずい知識を手に入れて困る。
特定の受付係の話で3人が盛り上がっていると、城外支所の建物から職員が2人出てきた。1人は羊皮紙を持ち、もう1人はたくさんの縄製のたすきを持っている。
全員がその周囲に集まると、羊皮紙を持った職員が今日の割り当てを森の巡回をする者たちに告げていく。担当範囲を告げられた者たちは大体2人から3人がひとまとまりで、もう1人の職員から縄製のたすきを受け取ってから森へと向かって行った。
やがてアーロンたちの番が回ってくる。
「次、アーロンの組! 森の際から南西に鐘1回分の一帯を巡回せよ!」
「よっしゃ! ユウ、トリスタン、行くぜ!」
呼ばれたアーロンが元気に返事をすると別の職員から縄製のたすきを受け取った。それを肩からかけるとそのまま森へと向かう。ユウとトリスタンも縄製のたすきを受け取るとアーロンに続いた。
肩から縄製のたすきをかけたアーロンが2人に話しかける。
「そういやお前ら、この森の巡回の話はジェイクから聞いたんだっけか?」
「うん、僕が何か仕事はないかって聞いたら紹介してくれたんだよ」
「積極的だな。冒険者ギルドの仕事を進んでするなんて珍しいぜ」
「最初はレセップさんから仕事を回してもらっていたんだよ。去年まではそれで町の外へよく出向いていたんだけれど、今年に入ってないって言われたから。ああでも、本当の最初はアーロンとジェイクに誘われたよね、講習の講師と実習の教官として」
「あーそうだったな。お前の体質を初めて見させてもらったよな、あの後」
森の際で立ち止まった3人は虫除けの水薬を塗り始めた。その間も雑談は続く。
「しかし、お前らはユウの体質もあって魔物狩りでも稼げてるんだろ? しょっちゅうこっち側に付き合わなくてもいいんだぜ。そりゃ手伝ってくれるんなら大歓迎だけどよ」
「何も善意だけってわけじゃないんだぞ。俺たちだって将来のことを考えながら仕事を選んでるんだからな」
「この森の巡回の仕事が将来に繋がるってのか。まぁ引退したときに慣れてた方がやりやすいが、って、お前ら城外支所の職員を目指してんのか?」
「そういう選択肢も増やしておくってことだよ。城外支所に貢献しておけば職員になりやすいだろう?」
「確かにな。はー、トリスタンも色々と考えてんだなぁ」
「ユウの受け売りだけれどな」
「なんだそれ」
最後にオチを付けられたアーロンがどうしたものかという表情を浮かべた。ユウへと顔を向けると、こちらもなんと答えようか困っている様子だ。
微妙な雰囲気になりつつも3人は森の中を進む。たまに魔物を倒しながら巡回していった。やっていることは前日と何も変わらない。
そんな森の巡回に変化があったのは昼過ぎだった。昼食を終えて巡回を再開して少しすると、大声で怒鳴り合う声が聞こえてきたのだ。
立ち止まったアーロンが2人に振り向く。
「どうやら仕事のようだ。行くぞ」
2人がうなずくとアーロンが少し早めに歩いた。森の草木をたまにかき分けながら進むと、その先に8人程度の集団が半分に別れて口論している光景が目に入る。全員若い冒険者たちばかりだ。
アーロンが先頭になって乗り込むとその8人が一斉に顔を向けてくる。
「森の巡回をしてるアーロンだ。一体何があったんだ?」
縄製のたすきを強調するように見せながらアーロンが冒険者たちに声をかけた。森の巡回という役職の権威かそれともアーロン自身への畏敬か、8人の冒険者たちはある程度落ち着いた様子となる。
話ができる状態になったと判断したアーロンが2つのパーティから事情を聞き始めた。まずは何があったのかの確認である。
聞いた話をまとめると、片方のパーティメンバーが追いかけていた魔物がもう一方のパーティメンバーの前に現われてしまい、そのまま倒してしまったのが事の発端だった。これにより、追いかけていた方が獲物を盗られたと怒り、倒した方は正当な権利は自分にあると反論したことで口論になったようだ。
夜明けの森での活動において、魔物狩りは原則として早い者勝ちである。ただし、同時に魔物の横取りは禁止されていた。では、その魔物の横取りとはどのような行為なのかというと、ある者が実際に戦って倒そうとしている、あるいは倒した魔物を、別の者が許可なく自分の物にすることだ。
しかし、これには例外があり、その別の者が該当の魔物に襲われて仕方なく反撃したときやある者の獲物と知らずに倒してしまった場合を除くとされている。
「なるほどな。お前さんが追いかけていた小鬼をあいつが横から攻撃して倒したってわけか」
「そうだ! これは明らかに横取りだろ!」
「横取りなんてしてねぇぞ! オレは小鬼に襲われたんだ! 横からなんて攻撃してねぇ」
「ウソつくな!」
「テメェこそ変な言いがかりなんぞすんな!」
「まぁ落ち着け、お前も」
分が悪い追いかけてきた方のパーティが声を上げるパーティを睨んだ。どちらも生活がかかっているためそう簡単には引き下がれない。
再び険悪になっていく2つのパーティの間にアーロンが割って入った。仲裁を始めた以上、簡単に争わせるわけにはいかない。
ユウとトリスタンも2つのパーティの間に入った。ユウが追いかけてきた側、トリスタンが倒した側のパーティへ正面を向く。
その上でアーロンが再び両者の意見を聞こうとした。しかしそのとき、森の奥から小鬼が何匹も現われる。
「小鬼が来たぞ! 数が多い!」
最初に気付いたトリスタンの言葉で全員が一斉にそちらへと振り向いた。次々と何匹もやって来るその集団に2つのパーティが慌てる。
「てめぇら落ち着け! いつも通り倒していきゃいい! ユウ、トリスタン、前に出ろ!」
大声を上げて2つのパーティを落ち着かせようとしたアーロンがユウとトリスタンに指示を出した。8人がまともに戦えるようになるまでユウに魔物を引きつけさせるわけだ。
以後は乱戦になった。しかし、小鬼の半分以上がユウとトリスタンに集中する。その間に2つのパーティは落ち着きを取り戻し、何とか戦えるようになった。
戦いが優勢になったところでアーロンは2人に下がるよう命令する。襲ってくる小鬼を蹴倒すなどして2つのパーティに分け与えながらアーロンのいる場所まで引き下がった。
すべての戦いが終わると、ユウは周囲を改めて見る。8人の冒険者たちは茫然自失の状態だった。トリスタンとアーロンはいつもの様子と変わりない。
次はどうするのかとユウがアーロンに注目していると、小鬼の数を8人に数えさせた。全部で30匹ある。
「よくやった、お前ら! 突然の襲撃にもかからず魔物を全滅させることができたのはお前らの力だ! 今から魔物の部位をそぎ取るが分け前はお前らで半分ずつだ。いいな!」
有無を言わせぬ口調でアーロンが宣言すると、ユウとトリスタンにも急かされた8人の冒険者たちが魔物の討伐証明部位をそぎ落とした。半分くらいはユウたち3人が倒したのだが、それもまとめて与えるらしいことをユウは知る。後に聞いたところ、仲裁役が成果を巡って当事者たちと言い争うのを避けるためということだった。
結局、2つのパーティの諍いはより大きな成果を手に入れたということで解消される。問題が有耶無耶になったともいうが、争いをなくすことが優先ということだった。




