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幻姫と星空の国  作者: 立花柚月
氷の街
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14

三日間ほど続いた祭りが終わった翌々日。エリカとレオは、氷の街を出発することにした。祭りの間には何もなかったが、この街には既に追手が来ている。いつまでもここでのんびりしているわけにもいかなかった。それに、レヴェンとソアラも湖の街に帰らなければならない。なので、ここでお別れだ。しかし、二か月ほど一緒にいた人たちとの別れは、とても辛いものだ。お互い、何かを言ったらしんみりとした雰囲気になりそうで、何も言えない。だが、エリカは取りあえず二人に伝えておきたい、と思った言葉を発した。

「レヴェンさん、ソアラさん、色々とお世話になりました!湖の街から氷の街まで…。感謝してもしきれないほどです。本当にありがとうございました」

そう言って、ぺこりと頭を下げる。そして顔を上げると、ソアラがぎゅっと抱きついてきた。

「こっちこそ、ありがとう!お店やお祭りの手伝いもしてくれたし、本当に楽しかったよ!エリカもレオも、落ち着いたらまた湖の街に遊びに来てね。わたしたちはいつでも大歓迎だから!」

そう言ってソアラは同意を求めるようにレヴェンを見る。すると、レヴェンはうなずいた。

「寂しくなるな、お前らがいなくなると…。何だったら、このまま湖の街に一緒に戻らないか?」

半分本気でそうつぶやいている。何だかんだいつものような会話が繰り広げられ、そのことにエリカはほっとしていた。こういうお別れの時、どう言えば良いのか分からなかったのだ。

「絶対に、いつかまた湖の街に行きます。その時は、またお店のお手伝いをしますね」

「そこは手伝いじゃなくて、料理を食べに行く、とか言うところじゃないのか…?」

レオが小さい声でつぶやいた。だが、エリカはきょとんと首をかしげる。そんな二人の様子にレヴェンとソアラはどこか楽しそうな笑みを浮かべた。そして、エリカたちに聞かれないくらいの声で、

「何かこの二人、前にも増して仲良くなったみたいね。次に会う時には恋人になっているかな」

「さあな。取りあえず、二人だけの世界みたいなものを作らなければ何でもいいが…」

こそこそと二人で話し合っていると、街の中心に存在する鐘の音が鳴った。時刻は正午だ。エリカたちの上に広がる空は青く、どこまでも澄んでいる。旅立つには絶好の天気だ。

「じゃあ、そろそろお互い、出発しようか。…あ、そうそう、エリカ」

そう言ってソアラはエリカに近付いた。不思議そうに見返すエリカの耳元で、ソアラは小声で

「いい?自分の気持ちには素直でいた方がいいわよ。だから、頑張ってね」

その意味を察したエリカは顔を赤くした。きっと、以前の自分であれば、その言葉の真意が分からずに首をかしげていた。だけど、今は既に自分の想いに気づいてしまっている…。そんなエリカにソアラは少しいたずらっぽい笑みを浮かべると、さっさと馬車を動かし始めた。呆然とそれを見送るエリカに、レオが心配そうに尋ねる。

「どうしたんだ、エリカ?顔が赤くなっているが…。ソアラに何を言われたんだ?」

しかし、それに正直に答えるわけにもいかず、エリカは曖昧に笑ってごまかした。もしここで何を話したのか言ってしまったら…、今の関係が崩れそうで怖いのだ。せめて、港町までは良好な関係のままでいたい。そして、火照った顔を手でぱたぱたと扇ぎ、「私たちも行きましょう」とレオを急かした。だが、道を歩きつつ、エリカは思わず考えた。

(きっと、レオさんと一緒に再びあの街に行くことはできないでしょうね…)

港町で別れた後、レオがどうするのかは分からない。だが、赤の他人になってしまうのは確実だろう。その先の道が交差することは決してない。そう思うと、何だか寂しかった。

(どうして私の周りにいる人は、何かしらの形で消えていってしまうのでしょう…)

元々エリカの婚約者だったイオも、最初は天文台に一緒にいてくれた使用人たちも、大切な家族であるジゼルや国王も、恐らくレオも…。あっという間にエリカの前からいなくなる。その度に味わう喪失感と無力感に、エリカは未だに慣れることができない。別れはいつも唐突で、あっという間だ。寂しくて、悲しくて、それなのに、自分の力ではどうにもできなくて……。何もできないまま終わってしまう。今もまた、同じような喪失感と孤独を味わっている。きっと、これからもずっと、その喪失感は消えることなく残っていき、再び誰かと別れるたびに増えていくのだろう。今も昔も、そして恐らく未来も、それが変わることは決してない。

「……そういえば、港町までの道には幾つか他の町があるんですよね?」

でも、それを考えたくなくて、エリカはあえて別の話をした。それに、何か話していないと孤独と言う名の影に飲み込まれてしまいそうで、怖かったのだ。レオはその問いにうなずいた。

「ああ、レヴェンに地図を貰っておいたから、これを見て進めば何とかなるだろう。ところで君は港町に着いたらどうするんだ?やはり、最初に言っていた通り、クリス様のところへ?」

「はい、そのつもりです。久しぶりに会うのでとても楽しみです!その後で、お姉様の言っていた人のところへ行こうかと…。ただ、途中で迷子にならないか少し心配です」

「僕も港町に行ったことがないからどのような場所か全く分からないが…、二人して迷子になったら戻れないな。取りあえず、お互い離れないようにした方がいいかもしれない」

と、レオは真面目に考え始めた。その言葉を聞いたエリカは一瞬、どう言葉を返せばいいのか分からなくなった。なぜなら、レオの言葉は、港町に着いた後も一緒にいる、と言っているようで…。そう言われたら、そのことを期待してしまう。エリカは非常に複雑な気持ちになった。

(この際、港町に到着した後どうするのか、直接聞いた方が良いのでしょうか…?)

だが、それを聞けばどうなるのか分かってしまう。それが怖い。どうしようかとエリカが考えていたその時だった。急にエリカたちの目の前に複数の人が立ちはだかった。恐らく、追手だ。レオがエリカをかばうように彼女の前に立つ。この辺りは中心部に近いとはいえ、ちょうど人が少ないので、狙うには絶好の場所だろう。すると、レオがこっそりとエリカに言った。

「…エリカ、君は取りあえず北に行け。祭りの片付けで人がまだたくさんいるだろうから、奴らも簡単に君に手出しはできないだろう。それまで僕が彼らを引き留めておく。後で、必ずそっちに行くから。…大丈夫、何とかなる」

最後の言葉は半分、自分自身にも言い聞かせているようだった。エリカは一瞬ためらった。この前の話を聞いて、レオを一人にすることが不安だったのだ。だが、敵はこちらを待つことなく、徐々に近寄ってくる。そこまで来てエリカは、自分が逃げた方がいいということを悟った。

「……分かりました。絶対に後で合流しましょう」

そう言って、中心部へ向かってひたすら走った。後ろから、足音が聞こえる。恐らく、彼女を追ってきているのだろう。その音が段々近付いてきているようなそんな気がしたが、エリカは止まらなかった。少しずつ、人の多い通りが見えてきた。ここまで来れば、恐らく大丈夫だ。そう思ったが、後ろを振り返ってみると、まだ追ってくる人物がいる。このままでは、どこかで捕まってしまう。そう思ったエリカは適当にあちこちにある細い路地に入った。確か、ソアラがこの辺りの道は色々なところに繋がっている、と話していた。この路地を通れば、どこか違う場所に逃げられるかもしれない。しかも、かなり複雑になっているので、上手くいけば追手を撒くこともできる。エリカはそれを願いつつ、適当に角を右や左に曲がった。しばらく走り続けていると、ずっと聞こえていた後ろからの足音が消えた。どうやら、追手を撒くことができたようだ。しかし、このまま同じ場所にいればまた彼らに見つかってしまうかもしれない。なので、エリカは適当に歩き続けることにした。しかも、自分でもどう来たのかよく分からなくなっている。どの道を戻れば先ほどの大通りに出られるのか、全く見当がつかなかった。

(どうしましょう。逃げることに必死で全然道を覚えていませんでした…。どうにかしてこの路地から出ないと…!こういう時に地図があれば便利なのですが……)

そう思いつつ、エリカは路地をさまよい歩いた。時折、後ろの方を振り返って、付いてきている人がいないかを確認しながら。その時だった。急に目の前の曲がり角から人が現れた。

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