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願い事をした後、エリカはぼんやりと夜空を眺めていた。この街は四方を荒野に囲まれており、晴れた日の夜は美しい星空を見ることができる。今日に関しては、夜になっても多くの屋台が店を開けている上に川で灯篭流しをしているため、いつもよりも少し見えにくいのかもしれない。だが、エトリセリアと違って、こちらでは季節によって見える星が規則的に変わる。本来ならばそれが当たり前のことらしいが、ずっとエトリセリアに暮らしていたエリカにとってはとても新鮮だし、月日が経つにつれて少しずつ変わっていく星空を見るのはとても楽しかった。何度見ても興味深いので、暇さえあれば星空を眺めている。
そうしているうちに、エリカはあることを思い出していた。それは、前に気になって雑貨屋で買ったミサンガのことだ。結局あの後、他の光景が頭に浮かぶことはなかった。だが、何となく捨てるのも惜しくてそのまま手元に残してあり、いつもかばんに入れて持ち歩いている。自分でつけても良いのだが、特に叶えたい願いが見つからなかったのだ。願い事自体はあるのだが、それは非常に自分勝手な願い事だ。買ったところまでは良かったものの、これからもこれをつけることはないだろう…。そもそも、つけたとしてもしっかりとした造りをしているので、しばらく切れることはなさそうだ。既にあの光景を見てからそれなりに時間が経っていたが、未だにエリカはその様子をはっきりと覚えていて、それが記憶から消え去ることはなさそうだ。
(そういえば、不思議な光景の中の「私」は、相手の方にミサンガを渡していたようでした…。顔は見えなかったですが、あの方はどこかレオさんに似ていたような…?)
顔がフードで隠されていたので気のせいかもしれない。だが、雰囲気が似ていたような気がする。だからこそこうして時折光景の中の二人を思い出し、気にしてしまうのかもしれない。結局ミサンガをもらったあの人の願いは叶ったのだろうか?そもそも、彼の願い事は何だったのだろう。ふと、そんなことが気になった。あの二人が実在かも分からないし、知る術すら持たないのに…。それはともかく、もしレオに何か願い事ができたら…、その願いが叶ってほしい。エリカはそう思った。
「あの、レオさん、これ、あなたに差し上げます。もし、何か願い事ができた時に、それが叶うといいな、と思って…。効果があるかどうかは分かりませんが…。良かったら」
レオはその言葉に驚いていたようだが、やがて尋ねた。
「だが、君の願い事は…?さっき教えてもらった方は灯篭があるからいいとして、もう一つの個人的な願いの方はどうするんだ?それも叶えるならこれがあった方が…」
「そちらは本当に大丈夫です。本当に個人的且つ私のわがままのようなものですから」
そう言うと、レオは非常に不思議そうな表情をしたが、結局それを受け取ってくれた。灯篭の明かりにそれをかざし、黎明のようなその色を見て少し笑った。
「綺麗だ…。ありがとう、エリカ。ただ…、男がこれをつけていたらおかしいと思われるか…?」
「どうでしょう…?少なくとも、私の知り合いの男性で一人つけている人がいましたよ」
エリカはイメージの中の人物を思い浮かべてそう言った。彼は、「エリカ」からもらったと思われるミサンガをずっと大事につけているようだった…。正確に言えば知り合いでも何でもないのだが、レオは納得したらしく、早速手首につけていた。そして、それをじっと眺める。もしかしたら、何かを祈っているのかもしれない。それを見て、エリカは自分のもう一つの願い事を思い出した。それは…、
(港町に着いた後も、できることなら、…レオさんと一緒にいられますように)
何だかんだ、そう願っている自分がいる。でも、きっとそれは叶うことのない自分勝手な願いだ。恐らくエリカはこれからもずっと反乱軍に狙われ続ける。ジゼルはエリカを安全なところへ逃がすよう、レオに言ったという。だが、エリカが生きている限りそうした場所はどこにもないのが事実だ。反乱軍は今もエリカを捜し続けている。反乱を起こした人間が諦めない、もしくはエリカが捕まらない限りそれはずっと続く。それなのに、人を殺すことができないというレオを巻き込み続けるわけにはいかない。エリカの傍にいるということは、それだけで死を可能性を高める。けど、自分なんかよりもレオが死ぬことの方がよっぽど嫌だ。それを避けるためには当初の話の通り、港町で別れなければならないだろう…。ソアラの言葉が本当だったことを確信して、一人苦笑した。
(私…、いつの間にか、レオさんのことが好きになっていたんですね…)
そうじゃなければ、こんなに別れることが悲しいとは思っていなかっただろう。ずっとそばにいてほしいなんて、考えもしなかったはずだ。エリカはそう思い、再び空を見上げた。この思いをどうすればいいのか、分からなかった。今日の空は雲一つ浮かんでいない。満天の星空がエリカたちを見守っている。大小様々な光がちりばめられた漆黒の空は、切なくなるほど綺麗だった。
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