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幻姫と星空の国  作者: 立花柚月
氷の街
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12

夜。エリカは自分の部屋でそわそわしていた。昼間のソアラとの会話の内容が何故だかエリカの頭の中から離れない。ソアラに「心の支え」というような話をされた時にエリカが思い出したのは、何故かレオのことだったからかもしれない。それが、何だか気になってしまう。

(これは恋なのでしょうか?…だって、ソアラさんの言っていた「一緒にいて楽しい人」は私にとって、…レオさんですし。でも、認めたくない…。どうせ、港町で分かれることになるのに恋をしても…、きっと意味はないでしょうから…)

この思いが恋なのか、分からない。だが、絶対に違うと言い切れないのは、レオの存在を無視することができないからだろう。これまでのエリカの世界に存在する人というのは時々様子を見に来てくれていたジゼルだけだった。しかし、既に彼女はもういない。二度と会うことはできない。彼女との思い出に浸ることすらできていないのは、今も逃避行が続いているせいだ。そんな中で、自分の傍にいてくれるのはレオだった。本当はレオだって不安なはずだ。それでも、逃げださずにエリカを助けてくれている。だから、そんなレオにエリカが感じているのは……、感謝と、申し訳なさと、大切さ。

――それから、何だろう。それ以上に感じている何かがあるのに、その輪郭をつかめない。

エリカは意味もなくベッドの上でごろごろとしていた。自分の考えがまとまらない上に、自分の気持ちが自分でもよく分かっていないことがもどかしかったのだ。だが、いくら考えても結論は出ない。まるで、先の見えない道に一人で立っているような感覚だ。ソアラに聞いてみたら何かヒントを得られるだろうか。

エリカが思考を中断する気にもなれず一人で悶々を考えていると、ドアがノックされた。開けてみると、そこにはレオが立っていた。一瞬、このまま何も見なかったことにして扉を閉めてしまいたい衝動に駆られた。自分の思考が上手くまとまっていない原因となっている人物であることが理由なのは間違いない。だけど、それ以上に…。ソアラの言っていた「恋」という言葉をどうしても意識してしまう。

一方、そんなエリカの複雑な思いなど知る由もないレオは、普段と変わらない調子で告げた。

「すまない、遅くなった。けど、今から行けば間に合うと思う。行ってみるか?」

それを言われたエリカは、今朝、自分でレオに一緒に夜のイベントを見に行かないか、と誘ったことを思い出した。ずっともやもやと考えこんでいたせいか、エリカの頭の中からそれだけがすっぽり抜け落ちていたのだ。朝は、あんなに楽しみにしていたというのに…。今日はある意味で調子が悪いのだろうか。それとも疲れているだけなのか…。だが、レオの言う通り、今から行けば間に合うだろう。誘ったのはエリカの方だし、良い気分転換にもなるはずだ。なので、エリカはうなずいて早速レオと出かけることにした。


外に出ると、まだ大勢の人が歩いていた。もう空は宵の色に染まっているが、たくさんの明かりのおかげで道は明るい。屋台で物品を販売している人も多く、今の時間は夕飯の時間ということもあり、食べ物を扱う店が人気のようだ。エリカがそれらの光景を見ていると、レオが尋ねてきた。

「そういえば聞いていなかったが、これから何があるんだ?」

「…あ、そういえば言ってなかったですね。西の方にある川で、灯篭流しをするそうです。ソアラさんによると、その灯篭が消えずに流れ続けたら願いが叶うらしいですよ」

そのご利益自体はともかく、灯篭流しがどのようなものか非常に気になっていたのだ。それに、灯篭流しというのは、元は死者を弔うためのものだとジゼルに聞いたことがあった。反乱のために亡くなったジゼルをはじめとする人々の弔いのためにも、行ってみたいと思っていたのだ。

そんなことを考えているうちに西の川にたどり着いた。既にそこには他にも多くの人がいて、それぞれ灯篭を川に浮かべている。灯篭のように明るいまなざしで、楽しそうに笑う人々の姿。家族連れも多いようだ。その光景を眺めていると、もしもジゼルがここにいたなら、という空想にとらわれそうになった。

「あ、エリカ、あそこで灯篭を渡している人がいる。どうせならもらってきたらどうだ?」

ふとレオがそう言って川のほとりを指差した。確かにそこでは、数人の人々が客に灯篭を渡している。この灯篭流しの主催者だろうか。エリカは早速そこに行って、二つの灯篭をもらい、片方をレオに渡した。どちらにもろうそくの温かいオレンジ色の光が灯っている。レオはそれを受け取ると少し考えた。

「願い事…。そうだな、君が無事にこの先の道を歩めるように願おう」

どうやら自分の願い事というものがないらしい。レオはそうしよう、とうなずくと川の近くに行き、そっとそれを浮かべた。川には他にも幾つもの灯篭が浮かび、水面にその光が反射している。反射した光は、絶えずゆらゆらと動いている。まるで川に星が映りこんだような光景だった。天の川を地上に下ろしたような…。レオが思わず見とれていると、エリカが隣にやって来て、何故だか真剣な様子で灯篭を水面に置いた。だが、本当に立っていられるのか心配らしく、なかなか手を離さない。何か、大事な願い事でもあるのかもしれない、とレオは思った。だが、ようやくエリカは灯篭を離した。流れに乗って、あっという間に遠くなっていく。その明かりがなかなか消えないのを見て、エリカは少しほっとしたようだった。

「随分真剣な表情をしていたが、何を願ったんだ?」

「え、あ、えっと…、実は二つあって、一つ目は、レオさんが無事でいられることです」

「…それはありがたいけど…、自分の方の願い事はしなかったのか?」

「それは、もう一つの方ですね。…でも、恐らく叶わないので、半分は諦めています。それに、お願いって基本一つでしょうし。なので、どちらかというと一つ目の方を強くお願いしました」

エリカは少し寂しそうに笑った。何をお願いしたのか、レオには分からない。何故寂しそうな理由かも分からない。だが、もしその願いがかなえば…、エリカは、そのような表情をしなくなるのだろうか?つい、そんなことを考えてしまった。だが、あえて何も言わず、レオは水面を見つめた。そして、もうどこに行ったのか分からない自分の灯篭に、エリカにこれ以上寂しい思いをさせるような出来事が起こらないよう…、そう祈った。

読んでくださり、ありがとうございました。

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