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幻姫と星空の国  作者: 立花柚月
氷の街
31/49

3

その後、二人は市場中を回り、何とか店のある場所へとたどり着いたが、そこに着くまでに非常に時間がかかってしまった。市場が非常に広い上に、様々な店が軒を連ねているため、どこに何があるのか全く分からなかったのだ。この街は、北の区域にほとんどの店が集中しており、似たような造りの建物が乱立しているため、目印というものが存在しない。また、エリカたち以外にも多くの人がそこを訪れていたので、どこに何の店があるのか更に分かりにくくなっていた。恐らく、今は祭りの時期のため、特に人が多いのだろう。氷の街の住民だけでなく、他の街からやって来た商人や観光客もここに集っている。そのような要因が積み重なり、相当時間を消費してしまった。

傾向を見ると観光客をターゲットにした土産物店が多いようだが、エリカたちが頼まれたのはそういったものではなく、祭りの商品の為に必要なものと、彼らがここで暮らすために必要なものだけだ。そして、エリカたちが今買わなければならないものは大きく分けて二つ。夕食のための食材と、祭りの商品を作るために必要な材料や小物などだ。そして、現在エリカたちがいるのは、ソアラが教えてくれた食材を取り扱っている店の前だが、すぐそこには雑貨などを売っているような店もある。そこでエリカはレオにこう提案した。

「レオさん、ここは役割分担をしませんか?片方が食材を買って、もう片方が雑貨の方を買う。その方が早く買い物が終わるはずです」

「確かに…。それなら、僕が食材を買ってくるから、エリカは雑貨の方を買ってきてほしい。買い物が終わったらそこにある看板のところで待ち合わせるってことでいいか?」

エリカはレオの言葉にうなずくと、早速雑貨屋の方へと向かった。その店の入り口には木製の扉があり、可愛らしい花の飾りが吊り下げられている。だが、エリカはその手前で一瞬立ち止まり、ふと辺りを見渡した。誰かの視線を感じたような気がしたのだ。しかし、人がたくさんいるため、誰なのか、そもそもその人物がどこにいるのかすら分からない。結局それらしき人を見つけることはできず、エリカは少し首をかしげつつも、雑貨屋へと入った。

店の中には明るくて優しい光が灯っていた。その下の棚に置かれているのは、可愛らしいアクセサリーや手芸用品などで、中には手作りの商品などもある。それらのものが所狭しと並んでいる。それらに目を奪われつつも、エリカはソアラに何を頼まれたか思い出していた。

(えーと…。確か、必要なのは糸と絵具と…、様々な色の紙でしたっけ?一体、何に使うのでしょうか…。全く想像がつきませんね。ですが、逆に何ができるか楽しみです)

エリカはそう思いつつきょろきょろと店内中を見ていたが、ふとある物に目が留まった。それは、複雑な色合いの糸でできたミサンガだった。確か、自然に切れたら願いが叶うと言う…。エリカはそれを本の中の知識として知っていた。だが、それは他の商品に埋もれてあまり目立っていない。普通ならば、それよりももっと別のブレスレットなどに目が行くはずだ。それなのに…、何故かそれは妙に彼女の視線を引いた。もしかしたら、そのミサンガがあまりにも綺麗だったからかもしれない。その色は、まるで夜から明け方へと移り変わる空の色のような紫色を基調としたグラデーションだ。レオの瞳の色に似ているような気もする。

(これ……、どこかで見たことがあるような…?ですが、天文台にはこういう物はなかったはず…。とすると、王城でしょうか?…思い出せない。けど、とても大事なような…、そんな気がします)

その瞬間、ふとエリカの頭の中で何かが浮かびあがった。思い出して、と誰かがささやいている。それと同時に、脳内に映像のようなものが浮かぶ。

それは、彼女が知らないようで知っている、不思議な物語の始まり――。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


そこはまるで、闇の底のような暗い場所だった。どうやら今は夜のようで、上の方に窓があるが、そこからは何の光も入って来ない。――星の光さえも存在しない場所だ。けれど、ここでの『エリカ』は何故か鮮明に辺りの景色を見ることができていた。そこは、どこかの部屋の中だった。質素と言えば聞こえがいい、何もない部屋。自分がいる場所の一番奥に、どこかへと繋がる扉がある。もしかしたら、そこを開ければ外へと出られるのかもしれない。だが、その間は格子のようなもので隔てられていて、近付くことはできないようだ。だが、それを認識すると同時にエリカは困惑した。何故、この映像の中の自分はこんな場所にいるのか――。

すると、突然その扉が開き、そこに明かりを持った誰かがやってきた。その顔はフードで隠れていてよく見えない。記憶の中の『エリカ』はその人物の近くへと駆け寄った。しかし、そのことにエリカは少し驚いた。なぜなら動こうと思ってもいなかったのに自分の体が勝手に動いたからだ。どうやら、この中ではエリカは自由に動けないようだ。自分の意思ではなく、映像の中の『自分』が動かしている。エリカは更に困惑したが、その間にも物語は進んでいく…。格子越しに、『エリカ』は少しはずんだ声でその人物に話しかけた。

「そのミサンガ、まだつけていてくれたのね。…別に捨ててもいいのに。というか、捨てて。見つかったらきっと、私と未だに繋がっている、と『あの人』に疑われてしまう。そしたらあなたは……!」

けれど、格子の外の人物は首を横に振った。大切そうに、その手首にあるミサンガを見つめる。

「それは断る。君がせっかく作ってくれたものを捨てるわけにはいかない。大丈夫だ、普段はちゃんと鍵のかかる場所にしまっている。…本当は僕が君をここから出してあげられたら良かったんだけど。僕の力が弱すぎるせいで…。すまない。そうじゃなかったら、今頃、君は…」

「そんなことないわ。それに私は、い…かは、………て……はず…から」

悲し気な声。それと同時に、声にはならない言葉が、聞こえたような気がした。


――ごめんなさい。私にはもう、この未来を変えることはできないみたい。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


急に声が遠くなり、エリカははっとした。どうやらしばらくの間ぼんやりとしていたようだ。目の前には、先ほどと同じミサンガ。エリカはそれを手に取り、じっと見つめた。今の記憶のようなものが何だったのかよく分からない。全く覚えがない。けれど、何故かエリカの心には懐かしくて悲しい気持ちが湧いていた。一体今のは何だったのだろう。知っているはずなのに、何も思い出せない…。しかし、そのことを深く考えている暇はなかった。早く買い物をしなければならないことを思い出したからだ。恐らく、時間はかなり経っている。レオは既に買い物を終えてしまっているだろう…。エリカは慌ててその場を離れ、ソアラに頼まれた物を探し始めた。幸いなことに探していた品物はすぐに見つけることができたが、全ての物を選び終わった後で再びエリカはミサンガのところへ戻ってきてしまっていた。さっきの不思議な記憶のようなものがどうしてもエリカの頭から離れない。何故か、とても重要なことのようにエリカには感じられた。エリカはその場で少し迷っていたが、結局そのミサンガを自費で買うことにした。

(さっきのように何か思い出すかもしれませんし、正直、あれが何だったのか気になります)

エリカは代金を支払ってから、店の外へと出た。

読んで下さり、ありがとうございました。

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