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更新ものすごく遅くなりましたが……、新章です。
しばらく宿泊場所に滞在した後、四人は氷の街への旅を再開した。その頃にはソアラの腕の傷もすっかり良くなり、これまでと同じように動かせるようになっている。剣の練習も再開しており、彼女が旅の休憩中にも黙々と剣を振るっている様子を、エリカは何度も見ていた。この前の戦いを機に、更に剣の腕をみがこうと考えたらしい。そんなソアラを、レヴェンはいつも少し心配そうな表情で見守っている。どうやら無理をしているのではないかと思っているようだ。実際、彼女が重い物を運ぼうとした時など、慌てて駆けつけて代わりに持っていたくらいだ。ソアラはそんなレヴェンの様子に少し呆れているようだが…。
ソアラの方は今までのように元気そうだし、レヴェンとの仲も良好そうだ。エリカ自身も二人と話すことが多く、湖の街にいた時よりも更に良好な関係を築けていると思う。長く共に時を重ねるごとに、少しずつ互いを分かっていくような…、そんな気がする。隠していた自分の素性を明かしたことも、それに繋がっているのだろう。エリカにとってはそんな経験が初めてで…、戸惑うことも多いが、それよりも嬉しさの方が勝っていた。
――だが、エリカには一つ、気がかりなことがあった。それは、共に逃避行の旅を続けてきた相手のことだ。敵に襲われたあの日から、何故かレオはずっと深く考えこんでいるような様子を見せていた。何か、暗いものを背負っているかのように…。誰かと会話している時などは普段通りで、気のせいかと思ってしまうほどだが…。一人でいると、どこかぼんやりとした様子でいることが多い。
今日もそんな様子で、荷台の片隅で自分の剣を眺めては暗い顔つきで何かを考えこんでいた。最初のうちは、敵と戦った時に怪我をしたのだろうか、と考えたがそういうわけでもないようだった。しかし、決して自分から何を悩んでいるのかを言おうとはしない。だから、エリカも聞くことができなかった。そもそもそういう時にどうすれば良いのか分からなかったのだ。今までほとんど人と交流することのなかったエリカは、そういう時にどうするのが最適なのかを知らなかった。それに、無理に聞きだすのも良くないだろう。だから、心の中で彼を心配することしかできなかった。
そうしている間にも馬車は荒野を進んでいく。彼らが宿泊場所を出てからおよそ五日が経った。馬車はそこを出た後、順調に進んでいた。天気の良い状態が続いているため、道がぬかるんでいないからだ。それに、あれ以降追手は全く姿を見せていない。そのおかげで平穏な日々を過ごせている。嵐の前の静けさのようで、少し不気味ではあったが…。
その日の午後、不意に前で馬を操っていたレヴェンが後ろにいるエリカたちに声をかけた。
「おい、そろそろ氷の街に着くから準備しておけよ!検問で手間取っても困るからな!まあ、時間はあるだろうし、そこまで焦らなくても大丈夫だと思うが…」
エリカがその言葉に反応し、窓の外を見ると、いつの間にかすぐ近くに街の姿がある。ここまでずっと、草原や荒れ地が続いていたため、それはまるで、何もない場所に突然現れた広大な城のようにエリカには思えた。エリカがその光景に見とれていると、レオもエリカの近くにやって来て、外を見ようとした。先ほどまではぼんやりしていたが、レヴェンの声で我に返ったようだった。大丈夫だろうかと心配しつつ、だが、その近さに何故かエリカは一瞬戸惑った。今までも、このくらい距離が近かったことはあったはずなのに…。エリカはそんな自分の感情を不思議に思いつつ、窓の外の景色に集中して、必死にその不思議な感覚を忘れようとした。それについて考えていたら、思考の沼にはまってしまいそうな気がしたのだ。ソアラはそんなエリカの様子を微笑ましく思いつつ、二人に言った。
「レヴェンの言う通り、そろそろ検問の準備をしようか。とは言っても、この中を見せればいいだけだから少し積んである荷物を整理するだけなんだけど。ただ、ちゃんとやっておかないと後が面倒だからねー」
氷の街は、他の街とは離れた場所にある。そのため、他の場所から入ってくる人々には厳重な検問を行っている。なぜなら、商人などに紛れて盗賊がいるかもしれないからだ。なので、氷の街では独自の警戒態勢も敷いている。特に今の時期は祭りの準備のため、人の出入りが激しい。なので、いつも以上に警戒しているそうだ。しかし、そのおかげで氷の街は周りに街がないが、治安は比較的良い方である。エリカたちが荷物の整理をしていると、不意に馬車の動きが止まった。エリカが気になって再び外を見てみると、前にはたくさんの馬車が列を作っていた。遥か先には、検問所の門がある。ソアラは毎年のことで慣れているらしく、のんびりと荷物整理を続けていた。
「ここはね、すごく時間がかかる場所なんだ。検問をしているからね…。でも、こんなに混んでいるってことは、悪い人がいたんじゃないかな?まあ、のんびりと支度できるからいいけど」
そもそも今の時期は祭りの為に入ってくる人がたくさんいるため、普段よりも混んでいるのだという。エリカが納得していると、少しだけ馬車が進んだ。しかし、この感じだとかなり時間がかかるだろう。レオが思わずといったようにつぶやいた。
「ここで待つの、かなり忍耐力が必要だな…。でも、その代わり中に入ったら安全そうだ。時間がかかるということは、それだけ丁寧に検問しているんだろうし」
「そうそう。一回中に入っちゃえばすごく治安がいいよ。そこまでが本当に大変なんだけどねー」
そんな話をしながら準備をしていると、ようやくこの馬車の検問の番が来た。エリカたちは一旦、荷馬車から降りる。検問所は案外しっかりとした造りだ。かなり昔の時代に造られたもののようで、歴史を感じられる。だが、未だに壊れたり崩れたりしているような箇所はなく、これから先も検問の役割を担えそうだ。エリカがぼんやりと建物に見とれている間、レヴェンとソアラは顔見知りがいたらしく、検問の兵に声をかけていた。彼らは親しげに話していたが、兵はふとエリカとレオを不思議そうな表情で見た。恐らく、初めて見る顔だからだろう。すると、レヴェンが言った。
「こいつらは湖の街で出会った奴らだ。色々な場所を旅しているって言っていたんだが、湖の街からここまでの道は危険だろう?だから、乗せてきてやったんだよ」
兵が再びエリカの方を見たので、それでようやく我に返ったエリカは兵にお辞儀をした。ジゼルが、初対面の人に対しては特に礼儀は大事だと言っていたのを思い出したからだ。すると、兵は一瞬驚いたように彼女を見たが、どうぞ、というように街の方を指し示した。
「ありがとうございます!」
エリカが笑みを浮かべて礼を言うと、兵は何故かぎこちなくうなずいた。その反応を不思議に思いつつ、エリカが再び荷馬車に乗ると、先に乗っていたソアラがつぶやいた。
「エリカ、その笑顔をむやみやたらに人に見せちゃダメだよ!エリカはすごく可愛いんだから。うーん…、この感じだと、きっとレオは大変でしょうね…。エリカは無自覚みたいだし…」
「え??つまり、笑うな、ということですか?さすがにそれは無理なのですが…」
「うーん…。そういう意味で言ったわけじゃないんだけどね…。まあいいわ、気にしないで。…それにしても、エリカって丁寧ね…。彼らにあんなに丁寧に接する人ってなかなかいないと思うわ」
そんな会話をしていると、レオも荷馬車に入ってきた。そして、馬車がゆっくりと動き出す。検問所の少し先にある門をくぐると、祭りのためか装飾された街が見えてきた。
読んで下さり、ありがとうございました。
これからも恐らく更新ゆっくりだと思いますが、気長に待って頂ければ嬉しいです。




