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幻姫と星空の国  作者: 立花柚月
湖の街
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14

しばらく更新がかなりゆっくりになると思います。

冷ややかに笑う青年に、エリカは感情を見せない声で告げた。

「……何度同じ質問をされても、私の答えは変わりませんよ。私は、あなたたちとは行かない」

エリカはソアラを背に立ち上がった。彼女をこれ以上巻き込むわけにはいかないし、少なくとも彼が彼女を利用しようとするのだけは絶対に避けたい。ソアラは怪我をしているし、本来ならば何の関わりもなかったはずだ。…そして、できるならば自分の正体を知られたくなかった。知ってしまえば、きっと、今の関係は崩れてしまう。そのことが怖かった。その上でこの場を切り抜けるためには、どうするべきなのか…。状況的には圧倒的にこちらが不利だ。冷静に対処法を考えつつ対話を続けようとするエリカを、だが、男は容赦なく追い詰めていく。

「つれないなあ。それなら、君の後ろにいる女を人質に取ったら考えを改める?」

残酷な言葉はこれまでの言葉のように軽い調子だったが、本気だということはすぐに分かった。エリカの後ろでソアラが顔を強張らせる。エリカは逡巡した。ソアラが犠牲になるのであれば、自分が彼らに従った方がよっぽどましだ。けれど、エリカが従ったからと言って、ソアラの安全が保証されるわけでもないのだ。敵である彼を信頼することはできない。エリカは慎重に尋ねた。

「…どうして、そこまでして私を連れ戻したいのですか?私には何の価値もないと思うのですが?」

他の公に出ている王族だったのならば、話は別だったかもしれない。だが、エリカは「幻姫」だ。公にされていない、秘匿された存在。それならば、放っておいても恐らく問題はないはずだ。それを、関係のない人物まで巻き込もうとしてまでもエリカを追う理由は何なのか。それは、前からずっと気になっていたことだった。だが、男は冷淡な笑みを保ちながら答えた。

「さあ?何でだろうね。君にこだわっているのは俺の主だけど…、その理由を聞いたことはないから。でも、主が言うことには、君には他の人にはできない特別な役割があるみたいだよ、幻姫」

特別な、役割。そう言われてもエリカにはそれが何なのか分からない。思い浮かぶのは星空の力くらいだが、それが何の役に立つのだろうか…。むしろ邪魔なものでしかないだろう。だが、それをのんびりと考えている状況ではない。このままでは最悪の状況が訪れてしまう。それを回避するためには、助けを待つよりほかにないが、それがいつ来るのかなんて分からない。恐らくレオたちは未だに他の敵と戦っているはずだ。エリカはなるべく話を長引かせようと、更に疑問に思っていたことを尋ねた。

「そもそも、あなたの主とか言う人は、何故新たな王であることを宣言しないのですか?王城を制圧してからそれなりに時間が経っていると思いますけど」

「いつかはそうするんじゃないかな。けど、俺の主にはとある目的がある。あの方が王になるのは、それが終わってからになるんじゃない?そして、その『目的』を果たすために君が必要なんだよ」

そう言って、男はエリカの手を取った。手つきは優しかったが、逃すつもりはないらしい。強く掴まれ、簡単に解けそうにはなかった。彼は、優しく笑う。けれどその笑みの下には、目的のためなら何でもできるという冷酷さが隠されていた。彼は再び言葉を紡いだ。

「そういうわけで、すぐに殺されることはないはずだから大丈夫だよ。それに、俺の主は変わっているし怖いけど、基本的には丁寧な方だし。さて、そろそろ時間だし、行こうか?」

男はいつもと同じような飄々とした様子で、エリカを連れてどこかへ向かおうとした。…が、その途中で一旦立ち止まる。何故ならそこに、レオがいたからだ。いつの間にか他の敵を倒してしまったらしい。そして、素早く状況を判断して何も言わずにただ持っている剣を男に向けようとした。しかし、その直前で男がエリカを自分の傍に引き寄せ、その首にいつの間にか持っていた短剣を突きつけた。エリカは首に氷のように冷たい温度を感じた。少しでも動けばすぐに斬られてしまうだろう。男は冷ややかな笑みを浮かべて言った。

「動かない方がいいよ?そうじゃなければ、この子が怪我する。命の保証はできないよ。それでもいいならかかってくれば?レオ・ログナート」

男が自分の名前を知っていることに、レオは若干驚いた。しかし、今はそれどころではない。レオは男に向けようとしていた剣を止めた。そして、悔しそうな表情でゆっくりとそれを下ろす。エリカを怪我させるわけにはいかない。その後ろからレヴェンもやって来たが、捕らわれているエリカを見て状況を察し、動きを止めた。そして、男をにらんだ。

「…要するに、あんたがさっき言っていた『荷物』ってのはエリカのことだったのか。最初から、あんたたちの目的は彼女だった…。随分卑怯な真似をするんだな?」

「こっちも目的を果たすためになりふり構ってはいられないからね。仕方がない。それに、今さら気付いたとことで、もう遅いよ。既にお姫様はこっちのものだから」

男はそう言ってにこりと笑った。誰も反撃できないと分かっているため、余裕の表情だ。レオやレヴェンが何も手出しを出来ずに焦っている中、エリカは冷静にどうするべきか考えていた。恐らく、男は本気でエリカを傷付ける気はないだろう。「目的」のために連れ去ろうとしているのならば、その間に命にかかわるような怪我をさせることはないはずだと予想した。逃げるならば敵が油断している今が好機だ。しかし、対抗するための物がない。そこでエリカは思い出した。今、自分が持っている物で唯一役に立ちそうなのは…。エリカは服のポケットからある物を取り出し、それで男の短剣を持っている方の手を引っ掻いた。

「…!?何を…」

男は驚いたらしく、一瞬エリカを拘束していた力が緩み、突きつけられていた短剣が少し逸れた。その隙にエリカは素早く拘束していた手を振り払い、男から離れる。すると、すぐにレオが駆け寄ってきた。

「あーあ、逃げられちゃった。まさか君に反撃されるとは思ってなかったなあ。というか、何を使ったか本当に分からなかったんだけど…」

エリカは使った後でもずっと手に握っていたそれを男に見せた。それは、鍵。しかし、それはただの鍵ではなく、先端が刃物のように鋭く尖っている。随分古い時代に作られたもののようで、現在よく使われている鍵と造りが違う。人を深く傷つけるほどのものではないが、気を逸らすには十分すぎるものだ。それは元々天文台に置いてあったもので、エリカはポケットに入れたままになっていたのを思い出し、咄嗟に使ったのだ。男は、彼女に攻撃されたことに驚いたらしく、目を丸くしていたが、やがて少し笑った。今度は諦めたような笑みだ。

「まあ、仕方ないか。今回は俺が油断したせいで逃げられたから。…それに、この人数ならば、明らかに分が悪い。俺はそこまで剣術が得意ではないからね。今回は退散しようかな。…じゃあね、今度は一緒にエトリセリアへ来てくれることを願っているよ、――孤独なお姫様」

ささやくように紡がれた最後の言葉に、エリカの表情は強張った。だが、男の動きを警戒していたエリカ以外の人は、その言葉はもちろん、その中に含まれた棘には気付かない。エリカは思わず男から目を逸らした。…ずっと、気にしないようにしていたことを暴き出されたような、不快感と、戸惑いと、……苦しみ。忘れかけていた孤独の感情がよみがえる。

――彼は一体、どこまでエリカのことを知っているのだろうか。エリカは若干の恐怖を込めた目を男に向ける。だが、彼ははっきりと嘲るような表情を彼女に向けていた。それが更に、エリカの心に傷をつくる。言葉は時に、なかなか心から抜けない鋭利な棘となる…。男はそれを分かっていてその言葉を言ったようだった。何も言えないエリカに、男は嘲笑を向けた。そうして、あっという間にその場を立ち去ってしまった。

読んでくださり、ありがとうございました。

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