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幻姫と星空の国  作者: 立花柚月
湖の街
25/49

13

敵が抜いた剣が陽光を反射し、鋭く銀色に輝いた。馬車の前には既に複数人の人間が立っていて、これ以上馬車が前に進まないように妨害している。戦いを避けることは不可能のようだ。だが、レヴェンはこれまでも氷の街までの道中で同じようなことを経験していた。それに、少し前からこの馬車の後を追う人間がいたことには気付いていた。なので、特に動揺しているわけではない。むしろ、このような状況にならない方が稀である。レヴェンは相手の動きを注視しつつ抜刀した。張りつめていた空気が更に増した。相手の動きを警戒しつつ剣を構えると、そのうちの複数人がゆっくりと近付いてきた。しかし、それ以外の敵は逆に横の方へと移動し始めた。どうやら、半分がレヴェンを攻撃してその隙に他の人物が荷物を奪う作戦らしい。それに気付いたレヴェンは、取りあえず目の前にいる人間を足止めするべきだと素早く判断し、荷台の方にいる三人に短く言った。

「おい、お前らそっちは頼んだからな!」

その言葉は当然、三人にも聞こえている。窓からもこちらに近付いてくる人の姿が確認できていた。ソアラが近くに置いてあった自分の剣を手に立ち上がった。そして、二人に荷台を任せてレヴェンのいる方に向かっていく。どうやら、レヴェンの援護をすることに決めたらしい。エリカも何か手伝えることがあるかと武器になりそうな物を探そうとしたが、レオに止められてしまった。

「エリカはここにいろ。あの盗賊たちは相当慣れている。エリカが外に出たら危険だ」

エリカは少し不満に思ったが、その言葉には何も言い返せなかった。特に武術が得意なわけではないので、今の状況で役に立つことはできない。そのことは自分が一番よく分かっている。エリカは少し悔しかったが黙ってうなずいた。しかし、三人が戦いの場へと向かうことはとても不安だった。そんなエリカに、レオは安心させるように微笑んだ。

「大丈夫。絶対この中には賊を通さないから。約束する」

そう言って、レオは外へと出て行った。荷馬車の扉が閉じられる。それから幾ばくもなく、外から人の怒鳴り声と、高い金属の音、そして、何かが切れるような音が聞こえた。それらは断続的に響き、実際にはほとんど経っていないはずの時間がとても長く感じられた。三人は無事なのか…。心配になったエリカは思わず窓からそっと外の様子を伺った。外にいる人物がこちらに気づかないよう、慎重に辺りを見渡す。幸いにもその場にいる人たちはみな戦うことに集中しているようで、こちらに目を向ける人物はいなかった。だが、相当な人数の敵がいることは見て取れた。

…しかし、ふと目の前で繰り広げられている光景を視界に映したエリカは目を見開いた。馬車のすぐそこに、ソアラがいる。しかし、彼女は複数人の敵に囲まれていた。右手に剣を構え、突き出された相手の剣をはね返しているが、その動きはどこかぎこちない。それに、少しずつではあるが、こちら側に追い詰められている。よく見ると、ソアラの左の袖が赤く染まっていた。――恐らく、怪我をしているのだろう。利き手ではないとはいえ、そんな状態で戦うのはあまりにも危険だ。それに気付いた時、エリカは思わず立ち上がっていた。

(どうにかして助けなくては…!)

何か役に立ちそうなものを探しつつ、荷馬車の入り口へと向かう。

…レオはこの中にいるよう言っていた。それに、エリカは何か武器を扱えるわけではない。正直、何の武器も持っていない状態で戦いの場に出ることはとても怖いし、足手まといになる可能性の方が圧倒的に高い。死にたくない、とも思う。けれど、ソアラを見捨てるという選択肢はエリカの中に存在しなかった。

エリカは入り口に置いてあった大きな布を掴み取ると、扉を開け、外へと出た。…幸い、エリカの動きに気付いている人物はまだ誰もいない。エリカは周りの状況に注意しつつ、ソアラのいる方へと向かった。そこでは、先ほどと同じように、ソアラが怪我をしながらも必死に戦っていた。しかし、やはり明らかに彼女の方が不利だ。こうしている間にもゆっくりと逃げ場を失くしていっている。このままではいずれ、ソアラが斬られてしまうことは明白だ。

――早く、行かなければ。エリカがそう思った瞬間、タイミングよく風が吹いた。荒野では強い風が吹いてくることはよくあるが、この風はいつものそれよりもかなり強い。何もかもをさらってしまいそうなひときわ強い風。砂塵が舞い、賊たちが一瞬、それらが目に入らないように、と目を覆った。それと同時に、エリカは今が絶好の機会であることを確信する。勢いよく広げた布から手を離した。それはエリカの意図の通り、敵の視界を奪うように彼らの頭上を覆った。しかも、かなり大きいので、その中から抜け出すことは非常に困難だ。

彼らが混乱しているその隙にエリカはソアラの元に駆け寄ると、そこにいる敵からは見えない場所へと彼女を連れて行った。しかし、そこまで来たところでソアラは突然座り込んだ。強く握っていた剣が右手から滑り落ちる。どうやら戦場から離れたことで気が抜けたらしい。その頬を汗が伝っていた。エリカもその傍にしゃがんで剣を拾い、ソアラに渡した。ソアラはそれを受け取ると、怪我をしている自分の腕を見て苦笑しながら言った。

「ありがとう、エリカ…。すごく助かったよ。あのままじゃ、たぶんやられてたわね。けど、すぐに馬車の方に戻った方がいい。敵の数がかなり多いから…」

しかし、ソアラが言葉を続けようとした、その時。こつり、と誰かの足音がその場に響く。やけに、その音が大きく聞こえた。二人は咄嗟にそちらを見る。敵なのか、それとも、味方なのか…。しかし、その人物を見たエリカは驚愕した。唖然とした表情で彼を見る。そこにいたのは、確かにエリカが知っている人物だった。――間違いなく、彼は敵だ。けれど、ただの敵ではない。盗賊などではない。なぜなら、彼は……。

「――君は本当に優しいね、エリカ。けど、その優しさが時に命取りになる」

「…っ!!あなたは、湖の街にいた…。どうしてここに?あの後、ずっと見ていなかったのに…」

戸惑いと恐怖の入り混じった目でエリカは彼を見上げた。それとは対照的に、彼はエリカをどこか楽しそうな表情で見下ろしている。一見親しい人に向けるような笑みを浮かべているが、それは本当の笑みではない。そして、エリカは間違いなく彼のことを知っていた。なぜなら、目の前に立つ人物は、湖の街でエリカをエトリセリアに連れて行こうとした男だったからだ。今のところ、ここにはその男以外に他の敵はいないが、それでも危険なことには変わりない。どうやら彼らは、盗賊に扮してエリカを捜しに来たらしい。かつて星術師だったという男は不意に浮かべた笑みを冷ややかなもの変える。そして、笑みと同じような冷淡な声で答えを告げた。

「何で、って…、君を迎えに来たに決まっているじゃないか。そうじゃなかったら、わざわざこんなところにまで来ていないよ」

当然のことを言うように、彼は淡々と言った。だが、それはエリカも何となく想定できていたことだ。――…だからこそ厄介だと言うべきか。彼らは彼らの目的を果たさない限り、絶対に退かない。そうであると、分かっている。つまり、この状況を打破するのは非常に困難なのだ。しかも、戦っているレオやレヴェンがすぐにここに来てくれるとは思えない。隣にいるソアラは怪我をしているし、そもそも彼が狙っているのはエリカの方だ。しかし、彼女には何の武器もない。エリカは緊張しつつ目の前に立つ青年を見返した。

読んで下さり、ありがとうございました。

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