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幻姫と星空の国  作者: 立花柚月
湖の街
24/49

12

馬車に乗っているとあっという間に景色が流れていく――。エリカはそんなことを思いつつ、ぼんやりと外を眺めていた。この辺りは、何もない荒野だけが続く。そのためか、街にいた時よりも空が広いとエリカは感じていた。今日は特に天気が良く、真っ青な空がどこまでも続いている。遠くの山際にうっすらと雲が広がっていたが、雨が降ることはないだろう。エリカは空と荒野をずっと見つめていた。時折馬車はがたがたと揺れるが、そこまで乗り心地が悪いわけでもない。今まで乗ったことのなかった馬車の便利さを感じつつ、楽しんでもいた。

今日で、湖の街を出てから既に五日程が経っていた。この街道には、少ないながらも点々と休息場所のようなものが設けられていて、そこでの休憩なども挟んでいるが、かなり良いペースらしい。心配していた盗賊などが現れることもなく、順調に氷の街へと進んでいる。とは言え、かなりの距離があるため、未だに窓から見える荒野の終わりは全く見えないし、見えそうにない。それでも飽きることなく外を見続けているエリカに、レオが声をかけた。

「まさか、こんなに遠いとは思っていなかった。歩いていなくて本当に良かったな。敵が来たら逃げられるような所がどこにもない。それに、食料もなさそうだし…」

「そうですね。レヴェンさんとソアラさんが氷の街に用事があって本当に良かったです。…ところで、お二人は氷の街のお祭りで何を売るつもりなのですか?」

エリカが、荷台の端で真剣な表情で中に積まれているものを確かめているソアラにそう尋ねると、ソアラは一旦その手を止めて二人の近くに来た。ソアラは今までずっと荷物の確認などをしており、エリカやレオも時々その手伝いをしていたが、それでもかなり大変そうだった。しかし、ソアラは楽しそうに答える。

「そりゃ色々だよ。でも、基本は料理かな?元々、食事処をやっているわけだし。それと、湖の街特産の魚の干物と、工芸品と…。その他もろもろ。例年、それなりにお客さんがやって来るから、かなり忙しくなるんだけどねー。でも、あの明るい雰囲気は嫌いじゃないから、楽しみでもある」

ソアラはそう言って明るい笑みを浮かべ、荷物の確認を再開した。ソアラは本当にこの仕事が好きなようだ。この数週間でそれを知っていたエリカは思わず微笑んだが、話が途切れると再び窓の外に目をやった。

ゴトゴト、ゴトゴト…。馬車は少し揺れながらも道を走っている。エリカは馬車に揺られているうちに段々と眠くなってきた。元々、昨日はあまり眠れていなかったのだ。すると、そんなエリカの様子に気付いたレオが言った。

「エリカ、疲れたのなら少し寝た方がいい。まだ先は長いからな。何かあったら起こすから」

エリカはその言葉に、気を遣わせてしまったことを少し申し訳なく思いつつも大人しくうなずき、そっと目を閉じた。そうして眠りの中へと落ちていく一瞬…。エリカは昨日の夜のことを思い出していた。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


何の光もない、真っ暗な空間。その中でエリカはゆっくりと起き上がった。先ほどから寝ようとしているのに、何故かなかなか眠れなかったのだ。なので、少しだけ馬車の外に出てみることにした。あまり馬車から離れなければ問題はないだろう。そう考えたエリカが外に出ると、冷たい風が吹きつけてきた。エリカは慌てて扉を閉め、改めて景色を見た。何もない真っ暗な荒野がどこまでも広がり、暗闇が広がっている。エリカは天文台にいた時のように、空を見上げた。しかし、空は雲で覆われていて全く星が見えない。

(…私の力って、エトリセリア以外の国でも使えるのでしょうか?)

気になったエリカは念のために辺りを見渡した。深夜のため、当然誰の姿もない。エリカは曇り空に向けて手を伸ばした。一瞬、エリカの瞳が星のように輝く。そして、その直後――雲が消え去った。まるで、最初から雲などなかったかのように。それを確認してエリカは手を下ろした。どうやら、フレイアでもこの力は使えるようだ。満天の星空が視界いっぱいに広がる。周りに遮るものが何もないため、無限に星空が続いているように見える。……しかし、その時。エリカの頭の中で何かがよぎった。知らないはずなのに、何故か見覚えがある、そんな何かが。エリカが思わずこめかみに手を当てた、その時だった。一気にイメージのようなものが溢れてきた。

暗い湖。水面に映りこんだ、星空。

荒れ果てた大地に立ち、ぼんやりとどこかを見つめる誰かの姿。

そして、星空に向かって手を伸ばす、イメージの中の自分の手。

未来を告げる、特別な星空…。それが告げるのは――。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


(…あのイメージは一体何だったのでしょう?こんなもの、記憶にはない。それなのに…、何故か懐かしい。まるで、星の女神の物語を読んだときと同じ感じ…)

そんなことを考えているうちに、エリカは眠ってしまった。

一方のレオは時折エリカの様子を確認していたが、どうやら深い眠りに落ちているようで、全く起きる気配がない。辺りには時折吹いてくる風の音と馬車の車輪の音以外、何も聞こえなかった。――束の間の平穏。そんな言葉が浮かんでくる。外の様子をぼんやりと眺めているレオにソアラが小さな声で話しかけた。

「ねえ、この前からずっと気になっていたんだけど、あなたとエリカってどういう関係なの?」

「…一番近い表現は、『護衛』だと思う。エリカの姉に、そう頼まれたから」

レオの淡々とした答えに、しかしソアラは首をかしげた。ソアラからすると、この二人はそれだけの関係じゃないような気がしたのだ。彼女にもはっきりとは言えないし、よく分からない。でも、二人はまるでずっと前からお互いを信頼していたような…、そんな気がしたのだ。どうやら、エリカたちは無意識のようだが…。気になったのでそのことを更にソアラが聞こうとしたその時だった。レオが不意に鋭い視線で外に目を向けた。

――何か危険なものが、ついてきている。ソアラもその気配を察し、一瞬鳥肌が立った。ソアラは馬車の扉の先にいるだろう敵を、見えないながらも冷ややかににらんだ。レオは未だに眠っているエリカを起こした。不思議そうに目を覚ましたエリカに、レオは小さな声で告げる。

「…何者かにつけられている。盗賊なのか、僕たちを狙っている方なのかはまだ分からないが」

エリカはその言葉に目を丸くした。寝起きのぼんやりとした雰囲気が一気になくなる。そして、慌てて起き上がった。エリカは窓からそっと外の様子を見た。確かに、後ろの方に馬で追ってきている複数の人物が見える。黒い布で顔を覆っているため、その顔立ちは全く分からない。レオはエリカを荷台の奥へと連れて行き、荷物の陰に隠れさせた。もしかしたら、彼がこの中に入ってくるかもしれないと思ったのだ。そして、自分は剣を抜いた。ソアラも既に抜刀し、いつ敵が来ても戦えるように準備している。

馬を操っているレヴェンも、既に誰かが追ってきていることには気付いており、剣をいつでも抜くことができるように準備していた。だが、そうだと気付かれないよう、敢えて馬車のスピードを緩めることなく走り続けていた。

――そして、その数分後。ついにその時が来た。突然、追ってきていた人物が馬を加速させ、馬車の前に立ち塞がるかのように止まったのだ。レヴェンはその人たちを轢かないよう、馬車を止まらせた。途端に緊張感のある空気がその場に広がった。敵の一人が、怖いほど静かな口調で告げる。

「…そこに積んである荷物をよこせ」

「それは無理だな。なぜなら、この荷物はこっちの商売のために必要なものだ。渡すわけにはいかない。そもそも、奪うつもりで来た奴にやるものなんてあるわけがないだろう」

レヴェンは淡々と答えつつ、冷静に考えた。どうやら追ってきていたのは盗賊だったようだ。しかし、この道を通っている以上、その可能性は高かった。だから、そこまで動揺はしていない。今までも同じようなことは何度もあったのだ。しかし、レヴェンの言葉に、盗賊たちは一斉に剣を抜く。その場に銀色の冷たい光が幾つも輝いた。

微妙にきりが悪いのですが、長くなりそうなので一旦ここで切ることにしました。

読んで下さり、ありがとうございました。

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