幕間
今から十六年前、私の兄が行方不明になった。
四人の友人とともに、忽然と消えたそうだ。
私は当時生後半年だったから、詳しいことはわからない。
母は「神隠しにあった」と言い、父は「どこぞの奴等に攫われたに違いねえ」と言う。
警察など「家出ではないか?」と、まったく当てにできなかったそうだ。
あれから二十年、結局兄は帰ってこない。
家出なのか?
攫われたのか?
あるいは本当に神隠しにでもあったのか?
私たちは何一つわからないまま、今も兄の帰りを待ち続けている。
「……というのが今の彼の現状です。もはや生ける屍といっていいでしょう。
彼の家族のほうは、両親は捜索のための費用を捻出するために仕事をしすぎて過労で入院、妹は高校進学を諦めて就職していますが、生活はかなり苦しいようです」
「わかった。向こうの神には抗議しておくが、あまり期待はできんぞ?」
「だめ、ですか……」
思わず大きなため息を付く部下。
私も何とかしたいとは思うが、どうすることも出来ないもどかしさに苛立ちを覚える。
ここは天上の園。
世界の管理者である私と、私を支えてくれる部下の住処でもある。
今、世界には徐々に歪みが出始めている。
この世界ではない異世界を救うために、この世界の住人たちが勇者として異世界に召喚されるのだ。
だが、それによりこの世界にはいくつもの穴が開けられているのは見逃せる話ではない。
穴の修復にはこの世界の活力が使用され、その分世界の活力が減衰してゆくのだ。
問題はまだある。
勇者として召喚される人物の能力不足を、周囲の人間の幸福を強奪することで補強していることだ。
これにより、周囲の人間は容易に不幸の奈落に突き落とされるのだ。
それはその人間たちの魂を簡単に劣化させる。
「何よりの問題が、攫ったまま帰さねえこと、なんだよなあ…」
「? どうしたんですか?」
「いや、いろいろ考えてな。せめてこっちに帰還させりゃあまだマシなんだがな、と」
「『勇者』ですか。今まで帰還した例はありませんでしたね」
「ああ。調べたが、いくらかは事件解決後どこかの王族なり何なりと結婚して幸せに暮らすわけだが、後は、なあ…」
「暗殺、濡れ衣を着せての追放、そもそもが儀式の生贄…」
「さらには召喚失敗による廃棄まである。見事に使い捨てだな」
自分の世界の住人ではないからと、随分勝手にしやがる。
「そもそも召喚自体を妨害できないのが腹が立つ」
気づくのは穴が開けられたときで、その時点で妨害も阻止も出来やしないからな。
追跡調査さえ困難で、発見時には死んでいることさえ珍しくない。
「さ、そろそろ調整に戻れ。少しでも世界の状態を保つために」
「はっ!」
そういい残し俺も調整作業に戻る。
少しでも、この世界が平穏であるように。
何故なら、俺はこの世界の管理者、『神』なのだから。




