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異世界召喚の憂鬱  作者: ポストマン
3/6

第二幕

仕事を終えて家に帰ろうとしたとき、ふと気がつくといつの間にか奇妙な場所にいた。

「おお、よくぞ召喚に応じてくださいましたな、勇者殿!」

目の前にいる、白尽くめで奇妙な杖を持った男が俺に話しかけてくる。

何を言っているのかさっぱりだが。

「ふむ、言葉が通じていませんかな?」

しばらくきょろきょろしていると、男がぶつぶつ言いながら右腕に杖を押し付けてくる。

「痛っ!何をする!」

「おお、大変失礼いたしました勇者殿。今のは言葉を通訳するためのものでしてな」

「は?勇者?」

親父、お袋、俺はどうやら異世界に召喚されたらしい。




召喚されてから半月程が経った。

魔王討伐の旅は厳しくつらい。

道中よく魔物に襲われる、宿はあまりきれいじゃない、食事は口に合わない、おまけによその国にちょっかいを出されることさえあった。

まあ、他の奴等の前で弱音を吐く気はないが。

あの後、他の神殿(俺が召喚されたのは光の神殿だった)で召喚された四人は、全員俺よりも年下だったから。

本当はこんな過酷な旅に出すのは嫌だったが。

「あの、樹さん。ちょっといいですか?」

水の神殿の勇者でもある佐々木晶子が俺に話しかけてくる。

「どうした晶子ちゃん、何かあったのか?」

「実はこの腕の紋章なんですけど…」

彼女曰く、この右腕の紋章は通訳以外の効果もあるらしい。

「まだよく分かりませんが…」

どうにも、嫌な予感がしやがる。




召喚から一年、俺たちは魔王討伐に成功した。

犠牲は酷く、俺たち五人のうち、生きているのは俺と晶子だけで、その俺も右腕を失っていた。

「迷惑をかけるな」

「ふふ、彼氏を助けるのは彼女である私の役目でしょ?」

俺と晶子はあの旅の中で恋人同士になっていた。

五つも年下のせいか、他の奴等はロリコン呼ばわりしてきやがったが。

まあ、この謁見が終わったら結婚するわけだから、あながち間違いでもないかもしれない。

「陛下の準備が整いました。どうぞこちらへ」

さて、この戦勝報告が終われば結婚式だ。

いっちょ頑張りますかね。




あれから半年、俺は暗い地下にいた。

この国の王はクズだった。

奴は俺への褒章に貴族の位と辺境の領地を与える、と言ってきた。

その辺境とはまったくの荒野で、資源も出ない土地だった。

さらに晶子には王妃にしてやるとほざいてきた。

要するに俺から恋人を奪い取り、俺を辺境へと追放するわけだ。

当然俺も晶子も断り、それくらいなら元の世界に帰せと言った。

だが、クズ王が奇妙な杖を持ち出したとき、状況はおかしくなった。

晶子の体は操られてあのクズのそばに行き、俺は全身から力が失われた。

どうやらあの右腕の紋章は洗脳の効果もあったようだ。

あの日以来、俺は地下牢に幽閉された。

自殺することができないようにした上で。

さらにご丁寧に、自分の寝室の音が俺の元に届くようにまでしてきた。

夜毎響いてくるクズの笑い声と晶子の泣き叫ぶ声に、俺は狂ったように叫ぶことしかできなかった。

いつしか、俺の中の憎悪はこの世界すべてに向いていた。

「憎いか、全てが…」

やがて、そんな声が聞こえてきた。




息子が消えてから十年、私もようやく眠ることができる。

息子が勤めていた会社からは横領の罪を被せられ、それが晴れてからも近所からは罪人のごとく罵られた。

そして家を失い、夫を心労で失い、親戚からも絶縁された。

私もまた、いつの間にか病魔に侵されていた。

けれども、もうすぐ死ぬ私には遠い過去のことでしかない。

せめて、夫と息子に会えますように。

そう願いながら、私は目を閉じた。




「先生、このご遺体はどうするんですか?」

「ああ、この後大学の方に献体として回してくれ。それで入院費と相殺することになってるから」

「わかりました。……はあ、死んでからあのお坊ちゃんたちの玩具か。この患者さんも哀れなものね」


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