63 地獄
大蛇は苦しそうにもがいていた。
比都が手を振った。大蛇の顔が裂けた。
「あ!!」思わず沖の中将は声が出る。
大蛇は、竹が二つに割れていくのと同じように、頭から尻尾にかけて二つに割れていく。
大蛇は、苦しそうに暴れている。が、避けて肉が見えていたところがかさぶたのようになっていく。それはムクムク膨らみ、失った片方の体になった。
大蛇は、二匹になった。
「沖の中将、逃げて!!」屋根の上から蓬野姫が叫ぶ。そして自分に巻き付いている大蛇をほどこうと様々な術を繰り出した。
大きな口を開けて襲いかかってくる大蛇を、沖の中将は避けた。が、もう一匹の大蛇に飲み込まれてしまった。
「沖の中将!!!!」蓬野姫が絶叫する。
地獄の底からの笑いが聞こえてきた。
「これで、蓬野姫もひとりになった」
蓬野姫は、屋根の上から庭に立つ比都を見下ろした。
「ちっとも怖くないわ」蓬野姫は笑っている。巻き付いていた大蛇が灰になって消えていった。
「おしゃべりは、これまでだ!!!」
比都が術を繰り出した。蓬野姫は瞬時に強い壁を作る。それに比都の術が当たり、火花が散った。
続けて比都は雷を蓬野姫に落とす。
蓬野姫は、雷をすべて吸い込む術を繰り出した。蓬野姫自身が避雷針となる。
すかさず、比都が蓬野姫に接近してくる。比都も屋根の上に上がる。
屋根の上で、蓬野姫と比都が激しい術を繰り広げる。屋根がバラバラと崩れていく。
二人はそんなことにかまわず、強い術を繰り出し続けた。
「死んでしまえ!!」比都が叫びながら術を繰り出した。ちくり、と蓬野姫の頭に刺さった。
蓬野姫の脳裏に、子どものころの思い出がよみがえる。
一体、なぜ、今……!!
蓬野姫は否応なく思い出が自分の繰り出す術に乗って出て行ってしまう。
「おや、おや、これは。おもしろいではないか」比都はあざ笑う。
「お前に見せているわけではない!!」蓬野姫は叫ぶが、漏れ出る思い出はどうしようもなかった。
蓬野姫と比都の術がぶつかりあっているところで、大きく映像となって映し出される。
子ども姿の蓬野姫と可武斗が数人の男の子たちに取り囲まれている。
「もち、お前は変だぞ」
「そうだ、人間じゃないな!変な術を使う」
「気持ち悪いんだよ、ここに来るな」
「おばけだ!お前はおばけだ!!」
「おばけなら、おばけらしく死んでおけ!!」
「そうだ、死ね!!」
「死―ね、死―ね、死―ね!」
子どもたちが手を叩き、変な節をつけて連呼する。
「やめろ!」可武斗が男の子に飛び掛かる。
男の子たちは、可武斗を全員で叩きのめした。可武斗は倒れこみ、起き上がれない。
蓬野姫はひとりになる。
子どもたちの痛烈なイジメが蓬野姫に降りかかった。
蓬野姫は術を使わず反撃した。が、複数の男の子たちにかなわない。蓬野姫も倒れこんだ………。
「おもしろい!!痛快だ!!!」比都が笑った。
「では、続きを今、体験させてあげよう」比都は力強く手を振る。
「そうはいかない!!」蓬野姫は反撃する。が、心の痛みを受けた直後のせいか、術が弱い。
「お前の動きはお見通しだ!!」比都の強い術が蓬野姫に当たった。蓬野姫の体が吹っ飛んだ。
「貴族たちよ!蓬野姫の最後だ。よく見ておくがいい」比都が寝殿に向かって叫んだ。
寝殿が阿鼻叫喚となる。
比都が笑いながら術を繰り出そうと手を動かした。
その手を、ぎゅっとつかむ者がいた。
「誰だ!!!」比都は怒りの形相で振り向いた。
そこには沖の中将がいた。比都は驚きのあまり、声が出ない。
沖の中将は、美しい顔でにっこり笑った。
「蛇が丸飲みしてくれたから、助かったよ」
沖の中将は、背後から比都の両手首を握った。比都は動けない。
「比都、君はひとりで寂しかったんだね。もっと早く気づいてあげれば、こんなことになっていなかった。……申し訳ない」
沖の中将は、比都をものすごい力で羽交い絞めしながら、優しい声で謝った。
「放せ!!!」比都はもがくが、沖の中将の力はすごい。
「もう、殺すのはやめよう。……やめてください。お願いします」沖の中将は限りなく優しい声。
「お前に何がわかる!!」比都が叫ぶ。
「わかるよ……僕もひとりだったから……。さっきの蓬野姫と同じようなイジメなんか、しょっちゅうだよ」
「……!」比都は黙る。
「蓬野姫だって、おばけ呼ばわりで、死ねなんて言われているんだ。でも、それに負けずに生きている」
沖の中将の声が寝殿にいる人々の胸に刺さる。
「………!!」比都の目から涙がこぼれた。ギリギリ、歯を食いしばっている。
「危ない!!!離れて、沖の中将!!!」蓬野姫が叫んだ。
比都の長い髪が束になって沖の中将の胸を貫いた。
沖の中将の口から大量の血が噴き出す。
「沖の中将!!」蓬野姫は、ぼろぼろになりながら、立ち上がる。
沖の中将は、ゆっくりと倒れこむ。
「沖の中将!!!」蓬野姫が、涙を流しながら術を出した。鋭い光の矢が比都めがけて飛ぶ。
比都は余裕の表情で光の矢をよける。が、「は!!!」避けた比都が慌てた表情をした。飛んで行った矢が、急転回し再び比都を狙って飛んでくる。
「あ!!」比都が短く叫んだ。
血だらけの沖の中将が、比都に強く抱きついていた。




