64 七色
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「沖の中将、離れて!!」術を使う蓬野姫が叫んだ。
「このまま、貫け」沖の中将がつぶやいた。
蓬野姫は一瞬ひるんだ。比都が笑う。
「沖の中将!!!!!」蓬野姫が絶叫した。
光の矢が、沖の中将もろとも比都を貫いた。
二人は、ゆっくり倒れた。
蓬野姫は、沖の中将のところまでかけよる力がない。
「沖の中将……」
蓬野姫の目から涙があふれだす。
あの攻撃を受けて、普通の人間が生き残れるわけがない。
沖の中将が、逝ってしまった………。私が殺してしまった………。
「!!!」
蓬野姫はゆっくり悲しむ間がなかった。
比都の体がゆっくり膨らんでいく。
まるで、気球のように、大きく、大きく膨らみ、宙に浮かび上がる。
「まずい……あのまま爆発する気だ……寝殿が吹っ飛んでしまう……!!」
蓬野姫は、残りの力を振り絞り、寝殿全体に強力な壁を作った。
比都の体は、ゆっくり宙に浮かび上がる。
「ふはははは………地獄に誘ってやるわ………」
比都は、宙で笑った。
どーーーーーーん!!!!!!
爆風が吹き荒れた。
寝殿がぐらぐら揺れる。
都の家の屋根が木の葉のように吹き飛ぶ。
遠くの山の木々も揺れた。
蓬野姫がそっと目を開いた。
寝殿は無事だ。
都は、被害を受けている……。
私の力不足だ……。私のせいだ……。
蓬野姫の目から涙があふれた。どんなに泣いても、人々は戻らない。
屋根の上に倒れている沖の中将の姿。
蓬野姫は、ずるずる、体を引きずりながら沖の中将の元へ寄った。
沖の中将は、胸から大量の血を流し、真っ白の顔で横たわっていて、ピクリとも動かない。
「私が殺した……」
蓬野姫は、沖の中将の胸にすがりつき、声をあげて泣いた。
「悪かった……私のせいだ……私が弱いせいだ……」
ひんやりした風が吹いた。
ぽつ、ぽつ、雨が降ってきた。
泣きながら、蓬野姫は顔を上げた。
思わず、息を飲んだ。
雨を降らせているのは、七色の雲だった。
「あ!」
沖の中将の右手にはめた水晶の数珠が七色に光っている。そこから七色の透明な糸が天に伸びている。
七色の雲は、都じゅうに雨を降らせた。
雨がしっとり都を湿らせていく。
「あ!!」
たっぷりと雨を吸い込んだ折れた木が、むっくり起き上がる。折れた場所がだんだん引っ付いていく。
木造の都の家々も、木と同様、むっくり起き上がり、自ら柱となり、屋根となっていく。
倒れた人々も、泥だらけのまま、むっくり起き上がる。
驚きの声が上がり、それは歓声になっていく。
「重い……」
蓬野姫が胸の上に手をかけていた沖の中将がつぶやいた。
「あ!!!」
蓬野姫が叫び、沖の中将に抱きついた。
「生きてる!!!!」
沖の中将の屋敷。
命はとりとめたものの、胸に大穴が開いたのが塞がった沖の中将はしばらく安静に過ごさねばならなかった。
「酒がいるか?」
「まだ、いいよ、春道」
「もう飲めると思うんだが。可武斗と鍬形も、すでに鍛錬をしていたぞ」
「さすがだな、あの二人も死にかけたのだろう」
「正しくは一瞬死んでいたそうだ。あの不思議な雨のおかげで、みな生き返ったらしい」
「ああ」
沖の中将は、手首の水晶の数珠を見た。
「……これが、きっと天皇様のご希望なんだろうな……」
沖の中将はつぶやいた。
「私もそうだと思うわ」
「!!!いつの間に、蓬野姫様。黄金も!!」春道が驚く。
「平安の世をお望みなのよ。みなが、わかばと北山のようであれば争いは起きないのにね」
「あ、蓬野姫様、そうですよー。青葉の君様の屋敷の家人たちは、お二人の仲が良すぎて居場所がないって嘆いているみたいですよ。僕の家人が言っていました」
「わかば……。ちょっと行って、姫らしく振舞うのよって言わないと」
「蓬野姫様が、ですか」
「そうよ。何か?」
沖の中将と春道が笑いころげた。




