56 つばめ
黄金は山々をいくつも走り抜けていた。
空を駆ける太い足は怒りが感じられた。もし空ではなく地面なら、ものすごい地響きがしたであろうと思われた。
黄金は怒っていた。
いくつも、いくつも、自分の大切な者たちの命が奪われる。
彼らがいったい何をしたという?
どうして命を奪われないといけなかった?
黄金には、今でもたくさんの大切な者たちがいる。
彼らを守りたい。
これ以上、命を奪われたくない。
黄金は、怒りのあまり、金色の風になってびゅんびゅん走っている。
『それほど速く走っては、得る物も得られまいが』
耳元で急に声がした。黄金は驚いて足を緩める。
『ほう、やっと呼吸ができるようになったわ』
やっぱり、耳元で声がする。姿は見えない。
『誰』
黄金は不機嫌な声を出す。
『おお、怖い。その図体でそのしゃべりかた。まるで鬼じゃ』
声があざわらうように言う。
『どこにいるの、誰』
黄金は不服そうに言う。
『ここじゃ。お前の頭の上。耳の横』
黄金の足は完全に止まった。宙に浮かんでいる。
黄金の頭を軽く押さえる感覚があった。羽音がした。
目の前に、一羽のつばめが飛んでいる。
『わしじゃ。お前が勢いよく飛ぶものだから、お前の頭にからまりついてしまったわ』
つばめはそういうと、もう一度黄金の頭の上に止まった。
足を止めたおかげで、黄金の頭の上に、人の指先が乗ったほど軽い体重を感じた。
『お前はなぜ、それほど怒っているんじゃ?どこへ行こうとしている』
『黄金の大切な者たちが、どんどん殺されているんだ。殺された者を探している』
『殺された者を?もう死んでいるのだろう?』
『その死体を探しているんだ』
『ははは、そんなもの、もうとっくにないだろう。誰かが食ったか、腐ったか』
『蓬野姫が、水晶の数珠を探したらいい、って言ったんだ。死んだ人が持ってた物』
『ほう、水晶の数珠か。めずらしいな……。ん?どこかで聞いたような……』
『どこで?教えてよ』
『焦らすな。……わしらは海を越えて飛ぶ鳥じゃ。どこかで水晶の数珠をどうした、と聞いたがな……どこだったか……思い出せん。わしを仲間のところへ戻してくれ。仲間も一緒に聞いた話だ。誰か覚えているだろう』
『仲間……?どこにいるの?』
『今ごろは、きっとあのあたりを飛んでいるはずじゃ。お前がすごい勢いで走るから、わしはからまったんじゃ。さあ。仲間のところへ戻してくれ』
『ごめん……』
黄金は素直に謝り、つばめの言う通りの場所へ向かった。
山が連なる場所の、小さな里につばめの仲間がいた。
『おお、お前はどこにいってたんじゃ』
『急におらんようになったのお』
『若い娘が急に消えたらいけんぞ』
『心配しとったんぞ』
『この虎にからまったんじゃ』
つばめたちは、にぎやかにしゃべりつづけた。
『ねえ、水晶のことを聞いてよ……』黄金はちょっと焦った。
『おお、そうじゃった』
つばめは早速、仲間にたずねてくれた。
『ああ、それは魚が言ってたぞ』
『川の魚だ。きれいな物があるから、取り合いになったって』
『取り合い……!誰かが持っていったかな……』
『さあな。行ってみたらどうだ』
黄金は川の場所を聞いた。つばめにお礼を言うと、さっそく空を駆けた。
『おお、虎もめずらしいが、空を駆ける虎もめずらしいのお』
『わしは、あれにからまったんじゃ』
つばめたちのおしゃべりは止むことがなかった。
黄金は、あっという間に川に到着した。
空からざぶん、と派手に川の中に飛び込む。
泳いでいた魚たちが、驚いて逃げる。
『待って、水晶の数珠を知らない?』
小魚たちは、きらきらと日の光に腹を光らせながら逃げていく。
『待って……!!誰か、水晶の数珠のこと、教えてよ……』
黄金は水中を泳いだり、息継ぎのため水面に浮かび上がったりを繰り返していると、水面にぬるりとした顔を突き出している者がいた。
『おれ、見たぜ』
大きなフナだ。
『見た……!それで、今、どこにあるのか知らない?』
『ずっと、川下に流れていったぜ』
『ありがとう!!』
黄金は川から出ると、空を駆けた。
所どころで川にダイビングし、魚たちにたずねながら進んでいく。
なかなか、進み具合は悪かったが、ゆっくりと水晶の数珠に近づいていっているような気がした。
何よりも、もうこれ以上、誰も殺されたくない。
黄金はずぶぬれになって、探し回った。
川と海の水が混じりあって、しょっぱい川になったころ、大タコがすーっと泳いできた。
『お前か、水晶の数珠を探している虎は』
『うん、そうだ。どこにあるか、知らない?』
『知っている。ついて来い』
黄金は、水面を泳いでくれる大タコのあとをついて泳いだ。
もうすぐ、水晶の数珠がある。
持ち主に会える!!
黄金の胸は期待に踊った。




