54 逆恨み
全ての映像が終わっても、山吹は目を開けていい合図をすることができなかった。
山吹、蓬野姫、沖の中将は長い間言葉を発することができなかった……。
しばらく重い沈黙が続いた。
「……あの男が、初めに門の外で見つかった死体ですね」
鍬形の声に、蓬野姫がビクン、と体を震わす。
「……みんな、見ていたの?」
「……はい」可武斗もうなずいた。「目をそむけていては、前進しない真実もあります」
蓬野姫は唇を震わせた。
「………みんな、強いね………」
蓬野姫は、声をあげて泣いた。山吹が蓬野姫をしっかり抱きしめた。
山吹も嗚咽が止まらない。
山吹は、涙が止まらなかったが、蓬野姫はしばらく泣くと落ち着いてきた。
可武斗と鍬形もどうしたらよいのか、わからない様子。
「………ごめん、思い切り泣いたら、すっきりしたわ」
蓬野姫は、山吹に布を渡されて顔を拭いた。
「………はああああああ………」
蓬野姫は、長い長い吐息をついた。
「………私なりに自分の人生でも辛いことくらいあるわ、って思ってけど、こんなひどいことが世の中にはあるのね……知らなかった」
「いいえ、姫様は姫様で苦しむこともおありだったのでしょう。自分の人生と他人の人生を比べるのは、よしましょう」
「……!!沖の中将、すごくいい事言うのね」
「……えへへ、春道の受け売りです」
「へえ。春道、やるじゃない」
やっと蓬野姫に笑顔が戻った。
「山吹、大丈夫?」
「……はい、姫様。私も取り乱してしまい、申し訳ありませんでした」
「いいのよ。取り乱すようなことだったんだから」
こうして、続きの映像が煙に映された。
比都は中級貴族の侍女になっていた。
母姫は悪い人ではないのだが、めずらしいくらい気の強い姫だった。
侍女、侍従かまわず厳しく接した。比都も、もれなくきつく当たられた。
比都が侍女に不満を漏らすと、母姫は自分の御子の姫様でさえ、泣き虫だと外に出してしまうほどのお方だから、となぐさめてくれた。
多くの侍女ならば、それを知ると、そうなのかと納得し我慢するのだが、比都は違った。
黙って母姫に強い恨みを持った。
泣き虫だからと外に出されている姫に対してでさえ、燃え盛るような恨みを感じていた。
映像はそこで止まった。
蓬野姫は青い顔をしている。
山吹が侍女に命じて、みんなに熱いお茶を配らせるまで、誰も沈黙を破ることができなかった。
蓬野姫は、お茶のにおいで、やっと自分が生きていることに気が付いた。
みんなもそのようだった。
黙って、熱いお茶をすする。
お茶の優しい香りが涙を誘う。
お茶を飲みほすころ、やっと沖の中将が口を開いた。
「どれほど酷い人生を強いられたとしても、人を殺めることは許されません」
みんな、沖の中将に注目した。
蓬野姫がにっこり笑った。
「その通りね」
熱いお茶の香りとぬくもりのおかげで、みんなの顔に血の気が戻っている。
「……で、わかった?」
蓬野がみんなを見渡す。
可武斗と鍬形は視線を落とした。
沖の中将はわからない様子。
「あの中級貴族、わかばの屋敷よ」
沖の中将は、目を見開いた。
「では……!青葉の君様の命を狙う理由とは、母姫様へのうらみですか……!!」
「そうなのかもね……」
蓬野姫は煙に映像を映し始めた。
比都は夜の山を歩いている。ひとりだ。
何かを見つけ、かけよる。食い散らかされたけものの遺体が転がっている。
比都は、けものの遺体を観察している。もはや、もとは何の動物だったのかわからいくらいの損傷を受けている。
が、けものの顔を見た比都はうれしそうに笑った。けものは、人間の目を持っていた。
比都は食い荒らされたけものの腹に手を突っ込む。それを自分の口へ運ぶ。何度もそれをくりかえした……。
映像はそこで止まる。
みんな、青い顔をしている。蓬野姫は顔色を変えていない。
「だいぶ、慣れてきたわ」蓬野姫は笑った。
「今のは、比都がけものに落ちた人間の遺体を食べたってことよね?」
可武斗がうなずいた。返事はまだできない様子。
「あれでも少しは霊能力を持っているのよね?とすると、霊能力があるけものの肉を食べた。自分に霊能力をつけている……。ってことね?」
黄金がうなずく。
「比都は、生まれたときは普通の人間だったはず。そうか。ああやって、霊能力を強めていたのね」
黄金が強く吠えた。怒りの形相。
「わかってる。……うふふ、ほら、みんながビックリしているわ。落ち着いて」
蓬野姫は黄金の頭を優しくなでた。
「比都は、霊能力が強い鶴を食べた。鶴は黄金の師匠だった。……これ以上、比都の思い通りにはさせないわ」
蓬野姫はゆったり黄金にもたれてほほえんだ。




