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53 ひとつめ

 「ちょっと、待って」


 蓬野姫よもぎのひめは、映像を止めた。


 周りにいるみんなも、居心地悪そう。


 「今の何?」


 蓬野姫はみんなにたずねる。


 みんな、うつむく。


 「じゃあ、今まで見たのを整理するわよ」


 蓬野姫は咳払いした。


 「まず、最初のきれいな女性は」


 「女の子の母姫ですね」山吹やまぶきが答えた。


 「たくさんいた子どもたちは」


 「兄弟たちでしょうか」可武斗かぶと


 「あの子たち、死んだの?」


 「どうも、そのようです」鍬形くわがたが苦虫をつぶしたような声。


 「外をさまよっていた女の子、あれが比都ひつなのね?」


 「そのようですね」山吹。


 「字を教えてくれた男。面倒を見てくれて、やっといい人に会えてよかったな、と思ったのだけど、最後の映像は何?」


 急にみんな黙る。

 「……私は姫だから気安く人前に出てはいけないと教え込まれて育ったわ。貴族はみんなそうでしょ。……私が子どものころ、山で遊んでいたとき平民でさえあれほど接近していた人は見たことない。何なの、あれは?」


 さらに重い沈黙。


 「………もしや、姫様、本気でわからないのですか」


 山吹が沈黙を破る。


 「殿君、一旦、外へお願いします」


 山吹に促され、ほっとしたように殿君たちは部屋の外に出る。


 沖の中将は、外に出るとうーん、と手足を伸ばした。


 「ひどい映像だったね」

 

 「はい、あんなことが起きたら誰でも生きた心地はしませんね」


 可武斗も鍬形もつらい表情。


 「えええええええええ!!!!!」


 部屋から蓬野姫の大きな声が聞こえた。


 殿君たちが驚いていると、部屋の中から山吹が顔をのぞかせてきた。


 「みなさま、お待たせしました。再開する、と姫様がおっしゃっています」




 「人間て、そんな風に生まれてくるのね。初めて知ったわ」


 蓬野姫が扇で顔をあおいでいる。


 沖の中将は、顔を赤らめ、可武斗と鍬形はうつむき加減で部屋に入ってきた。


 「ちょっと、みんながそんな風だとかえって恥ずかしいわ。犬も猫も、虎もネズミも、みんなそうするって、山吹やまぶきが教えてくれたから大丈夫」


 扇をパチン、と閉じた。


 殿君は気まずそうに静まる。


 「く、くっく、くっく……」沖の中将が笑い出した。


 「どうしたの」


 「いえ、姫は姫らしくていいな、って思いました」


 「???」


 沖の中将は笑いが止まらない様子。


 くっく、と下を向いて笑っている。


 「なによー」


 蓬野姫はむっとした表情で閉じた扇をぽーん、と床に置いた。


 「……姫様」山吹が眉をつりあげている。


 「沖の中将様はお優しいから全部言いません。お優しいからです」


 「ん?」


 「姫様、一般的な姫様は、扇で顔をあおいだりしません。扇は顔を隠すものです。……顔をあおぎ終わったら扇を閉じ、床に投げるなど、どこの姫様がしましょうか」


 「あ…」


 さすがの蓬野姫でも、床の扇を拾い、しかるべき場所に置きなおした。


 「これでいいわね?」


 山吹が眉間にしわをよせたまま、うなずく。


 「じゃ、続きを始めましょうか」


 蓬野姫がより合わせた髪に手をかざした。


 「恐れながら」山吹が口を開いた。


 「なに」


 「私の予想ですが、これから流れる映像は、みなさまの心に強く突き刺さってしまうものであると思われます……。そこで、私がひとりで見ます。……私がいいと言うと、みなさま目を開いていただけませんでしょうか」


 山吹の言葉に沖の中将はうなずいた。


 「山吹様の言うとおり。姫様におかれましては、かなり強い映像だと思われますので、山吹様のおっしゃるのに従うのがよかろうかと」


 蓬野は、沖の中将をじっと見た。


 「……わかったわ」


 意外にも、蓬野姫がすんなり了承した。


 「じゃ、始めるわよ」


 山吹以外、目を閉じた状態で蓬野が術を展開した。


 山吹の言うとおり、嘔吐をもよおしそうな映像が流れる。


 山吹自身、青い顔で口を押え、必死に見ている。


 ひどい映像が終わるまで。


 ふと、蓬野姫の顔を見た山吹は思わず声が出そうになるのをぐっとこらえた。


 蓬野姫は、しっかり目を開いて非情な映像を血の気の失せた表情で見つめていた。


 さらには、沖の中将も目を開いていた。嘔吐をがまんしているような表情。


 映像では、比都が男に乱暴されていた。


 比都はおびえきった顔で震えている。


 言いようがなく、ひどい映像が続いた。


 蓬野は青い顔をしたまま、映像から目を離さなかった。


 比都は、絶望の淵にいた。言いようもなく打ちひしがれていた……。


 しばらくすると、比都は立ち上がる。


 男の元へ戻る。


 比都は、大きな石で殴って男を倒した。


 男は、不意打ちをくらい手で頭を押さえる。


 比都は走り、自分の投げ捨てられた帯についた小袋から何かを出した。


 手のひらに何かを出すとペッ唾を吐きかける。


 すばやく唾と何かを混ぜ合わせた。


 男が怒って比都を殴ろうとする。


 比都は何か言い、男に向かって両足を広げて見せた。


 男は怒りの表情をやわらげ、比都に抱きついた。


 比都は男の口に自分の指を突っ込んだ。


 男はにたあ、と笑った。


 ………やがて、比都と男が別れていく。


 男は上機嫌で歩いていく。


 突然、男は倒れこむ。激しく痙攣けいれんを起こす。


 男は動かなくなった。


 比都は男に近寄り、鬼の形相で男の頭、体、どこもかしこも足で踏みつけた。


 男の転がっている野原の向こうには、都の門が見えている。

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