49 結婚式
鍬形が捕まえた式神からたくさんの情報を得た。
「どうりで、見つからないわけだ」
蓬野姫は、黄金にもたれて座っている。
可武斗、鍬形、沖の中将、山吹がいる。
「比都は朽無大臣に変装しているのですって?」
「では、本物の朽無大臣様はどちらへ……?」山吹が怖そうに質問する。
「わからないけど……いい想像はできないわね」
「朽無様というと、天皇様のすぐそばに仕える大臣ではないか」
沖の中将も表情が硬い。
「そう、すぐに手が届く場所ではないわね」
「何か手はないでしょうか」可武斗。
「そうね、そんな手の届かない場所に、可武斗ならどうやって仕掛ける?」
蓬野は意地悪そうに笑う。
「まずは、情報を集めます」
「そうね」
「虫を飛ばしましょうか」鍬形。
「そうね、飛ばしてみてもいいかも。比都のことだから、虫よけの術くらいかけているかもしれないけどね」
「式神の侍従を行かせてみましょう」
「そうね……式神だとすぐにばれるかも……人間の方がいいかも」
「でもそれでは危険が多すぎませんか、姫様」山吹は心配そう。
「見聞きするだけでいいの。おしゃべりしない、感じのいい侍従いるでしょ」
「はい」可武斗。
「術を使わずに行きましょう」
「御意」
調査が始まった。
調査は順調といえば順調、なにもない、といえば何もなかった。
蓬野姫の屋敷に文が届いた。
山吹が顔を真っ赤にしている。
「姫様!…姫様!!」
「なに、どうしたの」
「青葉の君が、北山様とご結婚の儀を執り行うそうです……!我々にもご参列願いたいとのこと……!!」
山吹は舞い踊りそうな勢い。
「山吹が一番行きたそうね」蓬野は、意地悪そうな笑みを浮かべる。
「はい……いいえ、姫様へのご招待ですよ!」山吹は興奮止まない。
蓬野はうれしそうな声を出して笑った。
「もちろん、行きますと返事して」
蓬野が答えると、宙を踏むように山吹は返事の文の準備をしに行った。
「そうかあ……よかったね、わかば」
蓬野はそっと目を拭いた。
青葉の君の結婚式は、中級貴族ということもあり、控えめに行われる。近い者だけ招待することになった。
だが、平民から格上げした北山の晴れ姿を見たい者たちが都にあふれかえっていた。
「北山様のお姿、拝見したいわ!」
「まあ、あなた上級貴族なんだから、上級貴族らしく堂々とすれば?」
「……なるほど……そう言われれば、そうね」
「わかっていただけたかしら」
「堂々と参列できないわけ、ないわね。上級貴族なんだから」
などと、宮中でも位に関わらず、盛り上がっていた。
結婚式の日は、暖かく、優しい日光が降り注いでいた。
蓬野姫、沖の中将は、結婚式の前日から青葉の君の屋敷に招待されていた。
二人は、屋敷の者たちにこの上なく丁寧に、感謝をこめてもてなされた。
結婚式当日、青葉の君の屋敷の周りは、お祝いを申し上げる人々でお祭り騒ぎになっていた。
上級貴族の姿は見えなかったが、中級貴族が牛車でやってきて屋敷の塀の外で侍従に歌わせたり、躍らせたりした。下級貴族はもっとにぎやかに家人たちにめでたい演奏をさせ、みなそれに合わせて踊っている。
平民たちは、貴族たちから少し離れた場所で、男性は上半身裸になり、女性も踊ったり歌ったり大騒ぎ。平民から格上げされた北山は、ヒーローであこがれだった。みんな北山の名前を呼びながら踊りまくっている。
外の大騒ぎは、屋敷の中までは聞こえてこなかった。
蓬野姫、沖の中将は、大広間に座っていた。一段下には、勉達、剣達もいる。
周囲には、親族たちがうれしそうに座っている。
雅な音楽が流れてきた。
赤い毛氈が敷かれている上を、十二単を着た青葉の君と束帯を着た北山が並んで歩いている。
二人とも、緊張の面持ち。
「きれいね」
蓬野姫は、二人を見て涙を拭いた。
沖の中将は、それを見て驚く。
「驚かなくて、いいのよ」
蓬野姫は、沖の中将をじろりとにらむ。
沖の中将は、もじもじする。
「もじもじしないで。返って恥ずかしいわ」蓬野姫が赤い目で、にやっと笑う。
そうするうちに、青葉の君と北山は、みんなより高い段に並んで座る。
神官が二人に祓詞を奏上し、式が進んでいく。
徐々に二人の表情から緊張がほぐれていく。
お神酒をいただき、順調に進む。
すべての儀が済むと、青葉の君と北山は準備していた感謝の文を、家人が読み上げる。
親族が涙を拭いて感激している。
最後に神官の促しで、青葉の君と北山は声をそろえて宣誓の歌を詠みはじめた。
親族も、蓬野姫も、涙を流して感動している。
歌の途中、青葉の君の声が止まった。
あら、緊張して間違ったのかしら?
大広間にいた大勢の人々は、青葉の君に暖かいまなざしを送った。
が、次の瞬間、大広間に悲鳴があがる。
青葉の君は、顔をゆがめ、お腹を押さえている。
その白い手の下から、真っ赤な血が流れ出てきていた。
大広間は大パニックになる。人々は立ち上がり逃げようとする。
可武斗と鍬形が、人々全員に術をかけた。
人々全員が一瞬で動かなくなる。
「みなさま、落ち着いてください。申し訳ありませんがじっとしていただきます……」鍬形が透きとおる声で説明した。
「霊能力でこの屋敷すべてに強力な壁を作りました。これ以上攻撃を受けることはありません。ご安心ください」可武斗も説明した。
みんな青い顔で動けずに目だけキョロキョロしている。
「わかば!」
蓬野姫と沖の中将が青葉の君に駆け寄った。




