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48 喧嘩

 『ご主人様……』


 急に現れた比都ひつに、イタチは震えあがった。


 比都はいつも急に現れるから、いつものことではある。


 しかし今日現れた比都は、いつもの比都ではなかった。


 いつも恐ろしい雰囲気を出していて、いつでもイタチを虐待しているが、殺されるとまでは思っていなかった。


 今日は、殺される。


 イタチはそう思った。


 食べかけだった柿をぽろり、落とした。


 比都は、落とした柿を拾った。


 『……!!ご主人様、そんな吾輩わがはいの食べ残しなど……』


 比都は、イタチがかじった柿をじっと見る。


 『………!!』


 比都は、見るだけで凍りつきそうな視線をイタチに送った。


 「お前、蓬野よもぎのに何かされたな?」


 『何も……それよりも蓬野とやらに会っていません』


 「ほう……会っていないのだな?」


 比都は冷徹な声を出す。


 『はい!!会っていません!!天地……』


 天地神明てんちしんめいに誓って、とイタチが言う前に、柿の細い枝がイタチの喉を突き通した。


 イタチは起立の姿勢のまま、動かなくなり、地面に倒れこんだ。イタチの目は開いたまま、二度と動かなくなった。


 「私をたばかるとは……。蓬野め、ことごとく私の邪魔をするのだな……。ふん、イタチの体からお前のにおいを消したようだが、詰めが甘いわ」


 比都は、イタチが地面に転がっているのを気にすることなく、すっと消えた。




 掛け軸の天女は、暇だった。


 『あー、何か面白いことないかしら』


 式神の侍女が慌てて戻ってきた。


 『天女様、天女様の式神が、どこぞの式神とめています』


 『なんですって!』


 掛け軸の天女は満面の笑みで式神を新たに部屋から出す。


 式神は侍女、侍従に変身させた。


 式神の侍女、侍従が行くと、どこで喧嘩をしているのかすぐにわかった。


 大きな声が聞こえてくる。


 『手を放しなさい、この無礼者!!』


 きれいな着物を着た侍女だ。式神の侍女、侍従には相手が式神であると一目でわかった。


 相手の式神の手を、天女の式神の侍女がつかんでいる。


 『いいえ、放しません……!!』


 『これは、これは、……一体、どうされたのですか』


 式神の侍従が問う。


 周囲にいたいろんな貴族に仕える家人たちが、困った表情で説明してくれる。


 「このお方が運んでいた墨汁が、こちらの方にかかったそうです」


 見ると、天女の式神の侍女が着ている着物に黒い液体がかかったような跡がついていた。


 『この方が、私の着物にかけたのです……!』


 天女の侍女が怒ったように言う。


 『かけるものですか……!それよりも、この墨汁はご主人様にお届けする最高級品。あなたの着物に吸わせるような物ではございませんのよ』


 こうして、侍女たちは手を引っ張りあう。周囲の人々がなだめようとする。


 部屋で様子をうかがっていた天女は、目を輝かせる。


 『よくやったわ……すぐに蓬野姫に報告しなければ……。あの侍女、比都ひつの侍女だわ』


 掛け軸の天女は黄金こがねを呼ぶ。


 黄金がどこにいても、掛け軸の天女の霊能力で黄金に呼びかけることができるのだ。


 


 大騒ぎになっている廊下に誰かがやってきた。


 野次馬の家人たちが、はっとして道を開ける。


 「どうなさったの」


 声の主を見て、野次馬たちが静かになる。静かになったのに気づいた式神の侍女たちは、周りを見てののしり合いを止め、ハッとする。


 美しい鈴蘭すずらんがにこにこ笑っていた。


 『ご主人様……この侍女が私の着物に墨汁をかけました』


 掛け軸の天女が泣きそうな表情で鈴蘭に申し出る。


 『やってないです』


 比都の侍女も負けない。


 「あらあら、困りましたね……。まあ、二人とも落ち着きましょう。みなさん、お騒がせいたしました。大変申し訳ありませんでした。……さ、あなたたち、お部屋へ行きましょう、お茶でも飲みながらゆっくり話しを聞かせてちょうだい」


 鈴蘭はにこやかにきびすを変え、部屋に帰る。


 侍女たちは、姫についていかないわけには、いかなかった。


 侍女たちは、鈴蘭の部屋の前で一度お辞儀をし部屋に入る。


 部屋に入ったとたん、二人の侍女は式神の紙に戻った。


 「いいものが手に入ったよ」


 二枚の式神の紙を拾って、鈴蘭の恰好をした鍬形くわがたがうれしそうに笑う。


 『この部屋には術がかけてありますからね。比都の式神を捕まえた!!うれしい!!』


 掛け軸の天女は、掛け軸の中をところせましと跳び回った。


 鍬形が比津の式神に手をかざす。


 「さすが、比都。誰かに捕まるとただの紙になる術がかけてある。……これで、どうかな」


 鍬形は、一本の太くて長い蝋燭ろうそくに火をつけた。比都の式神の紙を、火の上であぶる。


 紙は、じょじょに湯気が出始め、紙の水分が失われる。水分が失われると薄く茶色に焦げ始めた。


 式神の紙が火から逃れようともがく。


 「あ、火は嫌いですか。止めたいですか」


 紙は、鍬形の指を押して逃げようとしている。


 「やめましょうか。僕とおしゃべりしましょう」


 鍬形は式神に術をかける。


 式神は、ダルマの姿になった。


 「これで、おしゃべりできますね」


 鍬形はにっこり笑った。

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