46 生け捕り
イタチのいる場所はわかっていた。
ある下級貴族の屋敷の縁の下。
「人の住むところに隠れるなんて、イタチもやるわね」
『山のけものが言うには、イタチはかなり意地悪で弱い物いじめに長けているらしいよ。あんなヤツは大嫌いだ』
「ふふ、……黄金、鶴が言っていたこと、覚えてる?優しいだけでは都の者と戦うことはできないって」
『覚えてる』
「鶴は、山の中で生活していたから、とても優しかったのね」
『黄金にもいっぱい教えてくれたもん』
「そうね。その優しさが仇になったのね」
『イタチが悪いんだ!!』
「それは間違いないわ。でも、殺されたら終わりよ」
『………!!』
「殺されないようにしなくちゃいけないのよ」
『わかってる……!』
黄金と蓬野姫は霊能力を消して都に入った。
蓬野姫は、黄金の姿が人に見えない術を使った。
「この術、イタチの尻尾から学んだのよ」
『ええ、嫌だ』
黄金は体をブルブルっと振った。
「嫌よ。でも、術は誰からでも盗み取らないとね。どんな術でも使えるようにするのよ」
黄金は不満だったが、おかげで大通りの真ん中を歩いても、周囲の人々は誰も気づくことがなかった。
イタチが隠れている下級貴族の屋敷は、普通の屋敷だった。
下級貴族らしい家人たちが元気に働いている。
蓬野姫は黄金の背に乗る。
黄金も蓬野も姿が見えなくしている。
家人たちが忙しそうに歩いている庭に、堂々と入っていく。
「ここね」
母屋の縁の下をのぞきこんだ。
下級貴族といえども、屋敷は広い。
その母屋ともなれば、まずまずの広さがある。その縁の下のどこに潜んでいるのか。
黄金はそっと暗い縁の下に潜り込む。
頭の上では、家人たちが忙しそうに走り回っている足音がする。
にぎやかで、ちょうどいいわ。
黄金はイタチのにおいをたどって進む。
イタチのにおいがだんだん濃くなる。
黄金は、鶴を殺したイタチへの怒りが沸騰してくる。
「今、怒って相手に気づかれたらだめよ」
頭の中で、蓬野姫の声がした。
黄金は、怒るのを我慢した。
空気を揺らさないよう、ゆっくり慎重に進む。
……いた。
食欲旺盛なイタチは、ぺちゃぺちゃと何かを食べている。
黄金には、においでそれがネズミだとわかる。
「そっと近づき、生け捕りにするのよ」
蓬野姫の声が頭の中でする。
このまま殺してやりたいのをぐっとこらえ、黄金はそっと近づいた。
イタチは全く気付いていない。
黄金は、十分に接近し、一気にイタチの首を噛んだ。
イタチは驚き、暴れた。
が、黄金の強いあごから離れることは不可能だ。
イタチが死なない程度に強く噛み、イタチを気絶させた。
「うまいじゃない、黄金!」
蓬野姫は上機嫌だ。
さっそく、蓬野姫の屋敷に連れて帰った。
イタチは、術の施されている縄でぐるぐる巻きにされている。
イタチが噛んでも、まして、術を使っても縄は取れないように蓬野姫がした。
「さて、イタチちゃん、はじめまして。私は蓬野。この子は黄金。黄金のご主人は私。イタチちゃんのご主人は誰?」
蓬野姫はにこにこ笑っている。その横に黄金がすごい形相で座っている。
部屋の外には、可武斗と鍬形が控えている。
イタチはつん、と他所を向いている。
「聞こえているかな?」
蓬野はにこにこ笑う。
イタチはウっと苦しそうな声を上げた。イタチを縛り上げている縄がきつく締まったのだ。
「私、気が短いので注意してね」
蓬野が言うと、イタチは耳をつんざくような叫び声を始めた。
黄金はビックリして目を丸くしたが、蓬野は予想の範疇だ。
「ごめんねえ、ここでどれだけ叫んでも、外に声が出ないように術がかけてあるの。誰も助けに来ないよ」
縛っている縄の下から、水が滴り落ちてきた。
「ふーむ、なんでもやるのね」
イタチは、床に排便、排尿を行なった。
イタチの縄がどんどんきつくなる。イタチは甲高い叫び声を上げる。
蓬野がイタチに手をかざした。
イタチがどれだけ大きく口を開けて叫んでも、声は出なかった。
「ああ、やっと静かになった」
『うるさいヤツだ』
黄金も顔をしかめている。
「さ、私の質問にだけ、正直に答えるのよ」
蓬野は術を使った。イタチの口がパチン、と閉まる。
式神が部屋を掃除してくれた。
「さ、始めましょ」
イタチは絶対に答えるまいとしているのか、目をギュッと閉じている。
「イタチの主人は誰」蓬野。
『比都』イタチ。
「比都は今、どこにいる」
『比都はいつもどこにいるか、わからない』
「どうやって会うの」
『比都が会いに来る』
「イタチが会いたいと思うときは」
『会えない。何かあったら、比都が会いに来る』
「そう」蓬野はにーっこり、満面の笑顔。
蓬野はイタチの前で手を動かした。
イタチがかくん、と首の力を抜き、ぐうぐうと寝始めた。
「聞こえた?」
蓬野が大きめの声で言った。
「はい」「はい」
部屋の外から可武斗と鍬形が返事した。




